第4話 無の核

 貴族の元では純粋な物理による戦い方から、核を用いた特殊な戦い方も学んだ。核は世界を構成する最小単位の物質であり、全ての元となる物である。鉄や金、酸素や水素、人間や動物など、この世の全ては核によって作られている。そう、鉄と金は元を辿ると同じ物質である。核の組み合わせや構成される構造などの違いによって、鉄や金と呼ばれるものが作りだされている。原理上は鉄を金に変えることも不可能ではないが、構成された構造が非常に複雑かつ強固であるため実施することは非常に難しい。

 また、世界には無の核と呼ばれる物が存在する。無の核とは何にもなっていない状態の核である。無の核は火が燃えたり、木々が呼吸したりなど様々な現象の副産物として生まれる。この無の核は人の体の中にも存在する。人は食事をとり、その栄養を体に吸収するが、その過程で無の核が生まる。人々は体の中に存在する無の核をコントロールすることで、様々な現象を起こすことに成功していた。無の核を肉体を活性化させることに使用することで身体能力を向上させたり、無の核を別の物質に変化させた上で外部に放出し、炎の渦や雷撃、爆発などを発生させるなどの使い方がされる。人々はこの現象を魔法と呼び、体内の無の核を魔力と呼んでいた。魔法の大きな要素として、無の核をコントロールする操作力、体内の無の核の量である魔力量、現象を呼び起こすための知識や知恵、イメージが重要である。それぞれの要素は才能も重要であるが、訓練によってある一定上は身に着けることが可能である。魔法自体は非常に危険な現象であるため、貴族以上の特権階級と一部の者たちのみが行使を許可されているだけであり、一般には普及していない技術であった。


 勇者達は基礎体力訓練と並行して、魔法の訓練にも取り組んでいた。訓練は水を作るという単純そうであるが、実施にはいくつかの工程を実施する必要がある。まず、自分の体内に存在する無の核をコントロールし、水の素に変換した状態で放出すると共に、放出された一部の水の素を元の無の核に戻す。この際に余分なエネルギーが発生し、そのエネルギーによって空気中の別の物質と反応が起こり、爆発と水が発生する。この現象を延々と繰り返すだけである。

 最初に原理を説明された勇者達であったが全く理解できず、とりあえず実戦することで体に覚えさせることになった。無の核を別の物質に変えること、それを放出させること、空気中で再び無の核に戻すこと。これらの工程が存在するが、最初は全くできる気配がなかった。


「がぁぁ!できねぇ! 本当にできるのかよ」

 勇者は芝生に寝っ転がり、愚痴を言っていた。

「俺達にできるかはともかく、先ほど貴族様が見せてくれた以上、できなくはないのだろな」

 訓練の最初に教官である貴族が実演したのだが、実際には目に見えることは少なく、最後の爆発によって岩が爆発したことと、その周辺が濡れていたことくらいであった。最初は目を輝かせて挑戦したが、やってみると難しく、無の核を水の素に変える段階で躓いていた。


「だいたい水の素ってなんだよ!知らねぇよ! 無の核は何とか感じることが出来るようになったが、水の素にかえられなねぇよ!」

「まぁ・・・・無の核を感じられるようになったのも、俺たち自身の無の核を外部から貴族様に操作してもらったから感じることが出来るようになっただけだからな。貴族様も別件で出かけてしまったし、今日は無理かな」

「はぁー。レイナの方はど・・・・」


 ボン!


「「え!」」

「出来た!!出来た出来た!やったぁぁぁ!」

「ええええーーーどうやったの?!というか、どうして勇者の俺より先にできてしまうんだよ!!」

「えっへっへ!どう!見直した!!」

「見直しました!!先生!どうやったんですかぁ?!」

 勇者は凄い勢い近づき、鼻息荒く問いただした。


「えっとね。水は水の素と空気で出来ているんだから、水と空気に触れながら、足りない物を感じていたら水の素が作ることが出来て、それを破壊するイメージをしたら爆発させることが出来た!」

「なるほどなー」

 そう言うとジンは近くの水を片手に取り、もう片方の手で空気を感じながら目を閉じた。そして、空気を感じていた手から光が発生したと共に爆発音が響いた。


「おおお!出来た!」

「ってなんでお前も出来ているんだよ!ちょっと待て、このままだと勇者だけが無能になるじゃあねぇか!」

 勇者は急いでジンと同じように実施したが、できる気配は全くなかった。しばらく仲間たち色々試したが、その日は結局できるようにならなかった。

「・・・・・勇者って実は無能の証なんじゃ」

 勇者はそう言って肩を落とし、仲間たちに慰められながら館へと帰っていった。


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