第2話 世界の敵
「うぅぅ、うぅぅん。は!痛たぁ!!」
「コール!!大丈夫?!」
「んん?レイナか。ここは?あ、俺は斬られて・・・その後どうなった?!」
レイナは故郷の幼馴染であり、ジンと共に成人の儀に参加していた。
「落ち着け、ここは神殿の客室だ。お前は斬られて気絶して、ここに運ばれ治療されたんだ」
レイナの隣にいたジンがコップに水を注ぎながら答えた。
「うぇーーん。でもよかったよ、コールが無事で。斬られたときは心臓が止まるかと思ったよ」
「ああ、そうか・・・・!。 あのやろうはどうなった?!」
「コールに襲い掛かった人のこと?その人なら間一髪でジンが横からタックルして、その隙に兵士の人が取り押さえて倒してくれたよ。すごいよね、訓練されている兵士ってぇ」
「ほんとになぁ。俺は隙を作ることが精一杯だったなぁ」
「そっか。助けられたんだな。ありがとな」
「・・・・・まぁ、お前に死なれたら一緒にバカやる奴がいなくなるからな」
「しかし、勇者の最初の敵があんな雑兵で、しかも負けるなんて示しがつかないな」
ジンから水の入ったコップを受け取り飲んでいたが、次の言葉で噴出してしまった。
「ああ、あいつは1番目の世界の敵だったらしいぞ」
「え!あいつが?!世界の敵って勇者が世界の平和のために倒さなければならないやつだろ!!」
「さすがに、その伝承は覚えていたんだな。その通りだな、10の世界の敵の1番目だったらしい。その紋章も見つかっているってさぁ」
「世界の敵って勇者が倒さなくてもいいのか?!」
「いいじゃないか?誰が倒しても」
「なんで世界の敵なのに神殿の兵士程度に倒されるんだよ!!おかしいだろ!!」
「お前はもっと弱いだろ。」
「ぬぬぬぅ。おかしい・・・・俺は勇者のはずなのに」
雑談を話をしていると、部屋の扉が開き儀式を仕切っていた神官と偉そうな貴族らしき人が入ってきた。
「勇者様、お目覚めになりましたか。傷の方は大事ないようで安心いたしました」
「俺は本当に勇者なんですか?体もいつも通りで、何の力も感じないですが」
「はい、確かに勇者様です。その証に札の色が変わり、そして伝説の剣も握ることができました。あの剣は勇者以外が持つと、非常に重くなり扱うことができません」
「そうなんですか。・・・・・勇者には特別な力とか宿ったりしないんですか」
「伝承によりますと、勇者は伝説の剣を携えて世界の敵を打ち滅ぼす、としか記されておりません。特に伝説の剣以外には何もないようです」
「そんなぁ・・・・。俺はどうやって世界の敵と戦えばいいんですか。俺はただの農民ですよ」
「そのため、しばらくはワシのところで戦い方や教養、知識などを学んでいただく」
隣に座って貴族が口を開き話を始めた。どうやら、この貴族は国を守護すること代々生業としてきた一族であり、武芸に長けているとのこと。そこで様々な力を学び、勇者としての力を覚醒させるつもりらしい。
「・・・・はい、そうですかって言える話ではないですよ!俺には無理ですよ!別の人を探してください!!」
「それは無理な相談になります」
神官は伝承について詳しく話し始めた。
この世界には10の世界の敵が順番に現れること。敵には胸のところに紋章があること。世界の敵から世界を救えるのは勇者だけであること。そして勇者は過去現在未来に至るまで1人しか存在しないこと。
「でも、今回の1番目の世界の敵は兵士の皆さんで倒すことが出来たんですよね?」
「世界の敵は初めの方は弱いことが多く、勇者様でなくとも倒すことが可能らしいのです。しかし、後に現れる敵を倒すには、どうしても勇者様の力が必要になると伝えられております。それまでに、勇者様には力を付けていただく必要があります」
「そんなぁ。俺には故郷での家族や仕事のこともあるし・・・」
「勇者様のご家族のことは心配いりません。国の方から連絡や援助をされるようになっております」
「とほほぉ」
勇者は肩を落とし、この先を思い悩む様子が周りの目に明らかにわかる状態であった。
「神官様、貴族様。俺も一緒に同行させてもらえませんか」
「ジン!」
「勇者様にも仲間は必要と思いますし、気心の知れた者がいると安心すると思います」
「問題ありません。勇者には年齢の近い仲間が現れると伝承にもあります。そちらも問題ないですか」
「ワシの方は何人でも問題ない。しっかり鍛えてやる」
「なら、私もいいですか!」
「レイナ!お前も!」
「私はただの田舎娘ですが、少しでも勇者様のお役に立てるように頑張りたい思います」
「問題ありませんよ。では、今夜はもう遅い。皆さん此処に泊まっていきなさい」
「「ありがとうございます」」
神官と貴族は今後のことについて少し伝えたのち、別件があるため退出した。
「しかし、お前たちもよかったのか?これから大変なことに巻き込まれるんだぞ」
「まぁ、仕方ないかな。コールだけに背負わせるわけにはいかないだろ」
「コールだけだと心配だからね」
「うぅぅ、やっぱり俺は良い友達を持った」
勇者は涙ぐみながら、お礼を言った。
そして、勇者の長い苦難の旅が幕を開けたのである。
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