年末の思い出は2人っきりで
「相変わらず、瑠々華ちゃんには避けられておりますのね、樹?…貴方、一体何をしましたら、あんなにも怯えられるのかしらね?」
俺は、斉野宮家の長男だ。これでも、家以外の外では、尊敬されていたり、慕われていたり、女性からは告白されたり…と、常に人望を集めている。しかし、それらとは例外な人物が、何名かいた。その内の1人が、我が姉である。2歳年上の姉は、ルルのことを気に入っており、妹のように可愛がってくれる。その事については、有り難いとは思う。
だけれど、時々俺を揶揄うなど、弟で遊ぶのは止めていただきたい…。姉は、何か心当たりがありそうなのだが、俺に対するルルの反応を、心底楽しんでいるようである。流石は…斉野宮家の血を引く、お人だけはある。斉野宮の人間は、少しばかり…いいや、大分腹黒かったりする。現斉野宮家当主・俺の父もそうであるし、今俺の目の前にいる姉も、外面はサッパリした人好きな人間に見えるが、本心は俺と同等くらいに、いやそれ以上に…腹黒い部分があるかな。
そんな姉の本当の姿を知らないルルは、姉に懐いており、姉に憧れているようであるが、俺の本心から言わせてもらうと、姉のようになったルルは、正直…見たくないかな。流石に実の姉だから、俺を敵には見てないだろうし、俺も敵にはしたくないが、姉が可愛がっているルルの事になると、途端に今のように俺をライバル視してくる。いや、元々俺が気に入って、俺が姉に紹介したんだろうが…。
まあ、そういう姉なので、自分に似たような性格の持ち主には、姉弟とか関係なく興味を持てないし、恋愛したいと思っていないのだ。だから、ルルは…姉をお手本には、しないでくれ…。ルルには、そのままの君でいてほしい。そう切実に願う。
「俺は、何もしていないよ。姉さんこそ、邪魔しないでくれないかな。これ以上邪魔をすると、ルルと俺が結婚しなくなり、姉さんもルルに「お姉様」と呼んでもらえなくなるよ?」
「あら、それは困るわね。例えそうなったとしましても、わたくしには呼んでくださると思うわ。」
俺の意趣返しにも、平然とした対応で返した姉。困ったと言いながらも、全く困った素振りは見せずに、逆に大丈夫だと言いたげな、自信満々の話しぶりであり…。これは…何らかの手を、打ってあるんだな…。相変わらず、俺よりもずっと用意周到なお人だよ…。
つくづく姉が、男性で嫡男でもなくて良かったよ。それでなくても、姉には当主の才能があると言われていて、俺はよく比較されていた。ルルと出会った頃は、一応は跡取りとして認められていたものの、姉が女性で俺が男性でしかないと、半分逃げた気持ちでいた頃でもある。
だけど彼女と出会い、彼女の強い意志を聞いて、俺は…やっと本心から頑張ろう、という気になったのだ。それを、ルルが教えてくれた。勿論、彼女は…自分の本心を、吐露しただけだろうけど。
「逃げるんだったら、本気で逃げますわ。そうしないと、逃げる意味がないですもの。本気で追い掛ける人にも、失礼ですもの!」
そう自慢げに言い切ったルル。ちょっと…いや、大分天然が入っているけど、俺にはない考えを持った彼女は、俺がいくら綿密な計画を立てても、片っ端から擦り抜けて行く。本当に、ルルは予想外だよ。
「まあ、いいわ。
「………。ご配慮、ありがとうございます。」
…珍しいことも、あるものだ。ルルに対する事柄には、非協力的である姉が、自分から協力すると言い出すとは…。胡散臭い提案ではあるものの、こういう時には嘘は吐かない、お人だったりする。だからといって、期待し過ぎてもダメだろうな。なので、そこそこに期待しておこう。
そう思っていた俺だが…。年末に、ルルが泊まりがけで遊びに来ていたのには、俺も一瞬声が出せない程に、驚いた。嘘だろ……と。
「樹さん、初日の出を見に、連れて行ってくださるそうで、あの…ありがとうございます。私、一度でいいから、絶景スポットで鑑賞したかったんですよね!」
「………。ルルが喜んでくれるならば、
ルルから、そう聞かされた時には、思考回路が全て停止したけどね。…姉さん。そういう無謀な計画は、当の本人である俺に、丸投げしないでくれ…。俺が慌てて、使用人を巻き込んで、急ぎ…急拵えの綿密な計画を立てたのは、言うまでもないことであった。ルルに期待された以上、一切の手抜きは…したくないからね!
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お前は、将来この家に入ることになる。そう言われて育った俺。好きとか嫌いとか以前の問題で、麻衣沙とは婚約者として出会った。だから、彼女に対して、特別な感情はなかったけど、あの時初めて彼女の自然な笑顔を見てから、俺は…彼女が気になって、仕方がない。要するに、俺は彼女に恋してしまったようである。
その後、俺は彼女の笑顔が見たくて、色々と努力したけれど、彼女は瑠々華さん以外には、あの満面の笑顔は見せなかった。だけど、瑠々華さんと一緒にいる時は、俺達が居ても…笑顔になる時がある。俺は、瑠々華さんと笑い合っている彼女が、好きだった。だから、俺には笑顔を見せてくれなくても、2人で笑い合ってくれている方がいい、そう思っていたのだ。
瑠々華さんが年末から泊まりに来ると、上機嫌の樹から聞かされた俺は、思い切って俺も、麻衣沙を誘うことにした。と言っても、我が家に招待する訳ではなくて、デートに誘うことにしたのだ。勿論、彼女にはデートとは言わないが。まだ…警戒されたくないからな…。
彼女の趣味の1つである美術鑑賞から、美術館へ誘うことにした。今回、特別な絵画を海外から借り、展示がされている美術館があるからだ。瑠々華さんはこういう場所は苦手であり、麻衣沙が誘うことはないだろう。それにその美術館は、交通機関を使用して移動すれば、2時間も掛かる場所にあり、自家用車と言えでもそれなりに時間が掛かるであろう。何が言いたいのかと言えば、麻衣沙1人では行っていないだろう…と、見当をつけた訳である。
「麻衣沙。明日、
「…えっ?!…どういう風の吹き回しですの?…もしかしまして、ルルや樹さんも来られますの?」
麻衣沙は俺の誘いに、驚いたようである。まあ、そうだろうな。俺が誘う時は、常に…樹も瑠々華さんを誘う時、であったからな。その為、彼女には…今回もそうだと、思われてしまったようである。
「…いや。樹達は来ないよ。瑠々華さんは、樹のお姉さんに誘われて、斎野宮家にお泊りするらしいからな。」
「…えっ?…それでは、わたくしと…岬さんの2人で?!」
「ああ。麻衣沙は、美術鑑賞が好きだろう?…俺も、嫌いではない。こんな機会は滅多にないからな。どうせならば、一緒に行こうかと思って。」
彼女は、俺と2人で行くことに驚いて、警戒モードに入りそうだったから、俺が行きたいから
「そういう事でしたら、良いですわよ。わたくしも…行きたいと思っておりましたので。」
「そうか。ならば、明日は早めに迎えに行くから、準備しておいてくれ。」
良しっ!…デート作戦は、成功だな。誘ってしまえば、後は…他にも、デートプランを練らないとな。時間もあまりないので、その後は直ぐに彼女とは別れ、俺は1人デートプランを考えることにした。
そして最後は、夜景の綺麗なレストランで、ディナーが良いな…。よし、あの店に予約を入れよう。あの店の夜景は、中々良かったからな。などと…考えては、計画を練って行く。普段からこういう計画は、樹としているので、割と得意であったりする。麻衣沙が喜ぶ顔を想像しながら、俺はデートプランを練って行くのである。
「…えっ?…美術鑑賞だけでは…なかったのですの?…クラシックコンサートも久しぶりですわね、ご一緒するのは…。」
「…えっ?…ディナーも…行きますの?…わあ~。とても…素敵な夜景……ですのね。このようなお店は、初めて…参りましたわ。」
今日だけでも、普段は見られないような、麻衣沙の素顔が見られたと思う。こんなに表情が豊かだったんだな…。全く…気が付いていなかったよ。いつもは瑠々華さんが大袈裟に騒ぐから、麻衣沙も落ち着いていたのかもしれないな…。いや、瑠々華さんが…五月蠅いとか令嬢らしくないとか、言いたい訳ではない。まあ、お嬢様らしくない部分もあるけれど、決して…下品とかでは、ないんだよな…。
「…岬さん、今日は…ありがとうございました。とても…楽しかったですわ。ルルではないですけれど、良い思い出に…なりそうです。わたくし、今日のことは…忘れませんわ。」
彼女が喜んでくれたのは、何よりである。俺は彼女の言葉が嬉しくて、それ以上のことには気が付けなかったのである。今思えば、彼女は…意味深なセリフを語っていたのに。こうして俺は、麻衣沙のサインに気付けず、あの時まで…時間を無駄にしてしまったのであった。
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今回は、年末ネタを書きたくなりまして、投稿しています。名無しの新キャラが登場していますが、今後も名前をつけることはありません。
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前半は樹視点、後半は岬視点となります。
内容的には、現在投稿しております本編の方と、話を合わせるように書いていますので、現行の年末のお話は…作れませんでした。それでも書きたくて、過去のお話となりました。時代背景は乙女ゲーム始まる直前、としています。
前回のクリスマスと同じ年齢ですので、ヒロインはまだ登場していません。男性陣もまだ告白していませんので、女性陣も彼らの気持ちには全く気付いていません。
樹のお姉さんは、今後登場するか分かりませんが、名無しもままの登場になるかと思います。本編出て来ない人ですので…。
※広崎美術館は、実存しません。また、例え実存致しましても、筆者の想像上の美術館であり、全く関係がありません。差支えがあるようならば、今後に名称を変更するかもしれません。
※次回は、元旦に投稿したい…と予定しています。読んでいただきまして、ありがとうございました。また次回もよろしくお願い致します。
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