お茶のお誘いは唐突に…
私と麻衣沙は、自分に最も似合う生地を、お互いに選び合い、その後は…帯やら草履やらの小物類を選び合い、私は麻衣沙を…麻衣沙は私を、コーディネイトしております。自宅にある着物の下に着用するものは、今回は買いません。しかし、帯や草履は、その着物に合うものを使用しなければ、折角の着物が…浮いてしまいます…。ですから、着物の生地に合う小物を、幾つか見繕っておりますのよ。
勿論、私達だけでは不安ですので、着物コーナーの店員さん達が、付きっ切りで対応してくださっておられます。私もあの着物姿の麻衣沙は、
…うふふふっ。出来上がりが、楽しみだなあ~。麻衣沙の着物姿も、そして…私の着物姿も。まさかの樹さんが、私に似合う生地を…取り置きされていたなんて…。麻衣沙からも似合うと、太鼓判を押されたので…決めましたけれど。樹さん…は、どういうおつもりだったのか…。
もしかして、私に似合うと言いながらも、ヒロインに貢ぐおつもりだったとか…。あれっ?…でも、ヒロインには…あの柄の着物は、似合いそうにありませんわね。そう致しますと、まさかNewヒロインの為に…とは、いくら何でも似合うか分かりませんよねえ、樹さんも。では、あれは…本当に、私の為に…?
確かに、店員さん方も皆さん、うんうんと…頷かれておられました。麻衣沙もあの生地を拝見される前は、とても悩んでおられたのに、あの生地を見られた途端に、まるで…私の為の生地だと言いたげに、頷かれておられましたわね…。まあ、私も一目で…気に入りましたのですが…。
今度…樹さんにお会い致しましたら、お礼を申し上げて置きましょう。樹さんが取り置きされておられたお陰で、私はこの生地と出逢えたのですから。樹さんが過去のことと忘れておられても、今の私は…それで良いのです。樹さんが…選んでくださっていただけで、私は…この着物を、一生…大事に致します。樹さんの思い出と共に。樹さんのお別れの
そう満足しながら、麻衣沙と共にデパートを出ました所で、バッタリと…樹さんと岬さんにお会い致しましたのよ。…あららっ?…お2人も、お買い物ですの?
「やあ、ルル。君達も、買物だったのかい?」
「まあ、樹さん達も、お買い物されてますの?…私達はもう、全て終わりましたので、これから…お茶をしに、行きますところでしたのよ。」
まあ…お珍しいのですね。お2人も態々街中まで、お買い物に来られましたのね。それとも、Newヒロインに出逢われる…口実だったりして…。それならば、私達はさっさと…立ち去りましょうか。
「では、これで。」と立ち去ろうとしましたのに、「えっ?…ルル、待って!俺達も買物が終わったから、一緒にお茶しに行くよ。」と、慌てたご様子の樹さんに、引き止められまして。…はて?…Newヒロインに、会いに行かれるのでは…ありませんでしたの?
「樹さん達は、いつもお忙しいですから、無理をされてまでお付き合いくださらなくとも、結構ですわよ?」
「……いや、確かに普段は忙しくしているけど、無理をしている訳ではないんだよ…。それにね、ルル達からのお誘いならば、俺達も喜んで…時間を空けるようにするのに。」
私は樹さん達に悪いと思って、私達の方からご遠慮致しますよ…という、雰囲気をお見せ致しましたのに、何故か…樹さんは必死に、弁明のような言葉を口に出されまして。あらっ?…もしかして、本当にお茶されたいとか…?…若しくは、私達の婚約者としての義務を、果たそうとされていらっしゃる?…相変わらず、樹さんはお優しいお人ですのね…。
「何やっているんだ、2人共?…先に行くぞ?」
「「……えっ?!」」
その時、私と樹さんの会話をぶった切るように、4人でお茶しに行くのが決定事項のような言葉を、岬さんが口にされまして。…えっ?!…岬さんのお言葉に対し、見事に…私と樹さんの驚き声が、綺麗に…ハモりましたわね…。
どういうことですの?…麻衣沙は……あっ、岬さんに摑まって…おられますわ…。岬さんは、麻衣沙の手をしっかりと掴んで、歩き出されまして。本当に…先に行かれるおつもりのようでして。麻衣沙は、真っ赤なお顔で動揺されておられました。岬さんって、案外と…強引ですのね。はっ!このままでは…置いて行かれます!
私と樹さんは、慌てて…お2人を追いかけたのでした。
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新年の着物を仕立ててもらうよう、デパート店の店舗にて注文致しまして、漸く先程全ての注文が、終了致しましたわ。自分で生地を選ぶのも良いですけれど、こうして親友に選んでもらったり、わたくしも親友のを選んだり…と、とても楽しい一時を過ごしましたのよ。こういうのも…アリですわね。
こうしておりますと、ルルもわたくしも…乙女ゲームの設定に、大分感化されておりますわね。結局、ゲームキャラの衣装を…
デパートを出ましたところで、偶然(?)にも…岬さんと樹さんに声を掛けられます…。如何やら、待ち伏せされていたご様子ですわね…。お暇では…ないでしょうに…。岬さんは首を竦めておられますから、樹さんはどうしても、ルルにお声を掛けたかったのでしょうね。まあ…生地選びでは、邪魔されませんでしたし、
樹さんの問いかけに応じられたルルでしたが、必要事項をお話されますと、もう用がないとばかりに、わたくしと共に立ち去られようと、樹さんに背を向けられますのよ。慌てて…樹さんが引き止められますが、ルルは相変わらず勘違いされておられまして、素っ気ない態度を取られます。別に…冷たくあしらわれた訳ではなく、勘違いから来る…彼女の気遣いなのですのよ。まあ、樹さんには…要らぬお世話、でしょうが…。
樹さんは尚も…必死で、ルルに好意的な事をお伝えされますが、ルルには…全く伝わっておりませんわね…。…とまあ、これらの出来事を他人事のように見ておりましたら、岬さんがわたくしに近づいて来られて。わたくしの…耳元で、囁かれたのです…。わたくしは即座に…固まってしまいまして。
「何…他人事のように、思っているんだ?…麻衣沙は今更、俺の誘いは…断らないよな?…俺は正直、2人でお茶しに行っても、良いんだけれど。」
「………。」
わたくしの顔は…きっと、真っ赤に染まっておりますでしょう。耳元で…囁かれるなんて、卑怯ですわよ…。現世のわたくし、殿方のこういう行動には慣れておりませんのよ。前世も……かもしれませんけれども。…み、耳元は…駄目ですわ。
真っ赤になって固まったわたくしに、岬さんは満足そうな笑顔をされて、何を思われたのか…わたくしの手を掴み、彼の手を…絡められましたのよ…。こ、これは…恋人繋ぎ…というものでは!?…み、岬さんと…わ、わたくしが…恋人繋ぎっ!!
わたくしの頭の中は、パニックとなりまして、目を見開いたまま…固まってしまいましたわ…。は、初めての…恋人繋ぎに、頭の中で悲鳴が上がっておりますのに、現実では全く…声すら出ない状態でして。あまりにも驚き過ぎますと、人間はこうなりますのね…。自分が経験致しまして、初めて理解出来ましたわ。
そして未だに、意思の通じ合われていないお2人に対して、「何やっているんだ、2人共?…先に行くぞ?」と、岬さんは宣言されて…。漸く、お2人はこちらの状況に、気が付かれたご様子でしたわ。ルルだけではなく樹さんも、わたくし達の繋いだ手を…ジッと見つめておられましたが…。驚かれているお2人を、本当に置いて行かれるご様子で、サッサと歩き出される岬さん、並びに…手を繋がれたまま、ドナドナという形で連れて行かれるわたくし。
わたくしはどうして良いのか分からず、後ろを振り返っては、ルルの方を見ようとして。ハッとしたように、ルルと樹さんも、慌てて追い掛けて来られましたので、わたくしも…ホッと致しましたわ。このまま…2人っきりにされましたら、どうしようかと…思いましてよ。
最近の岬さんには、振り回されてばかり…ですわ。わたくしは、既にもう一杯一杯でして、彼の言動にはついて行けませんのよ。本当に…どうしたら良いのか、分かりません。あまりにも直線的な行動に、困惑してばかりの…わたくしですわ。
「樹さん、知っておられましたの?…岬さんが、その…麻衣沙に告白めいた言葉を、告げられたことは。」
「…うん、まあ…ね。岬の気持ちは、ずっと前から知っていたからね。…って、何でかルルは、岬の行動には…疑わないんだね…。俺の言葉は…スルーなのに。」
「…えっ?…それはですね~。樹さんは、誰にでもお優しいですけれど、岬さんは…麻衣沙にだけ特にお優しいんですよね~。だから、そうじゃないかな~って、思っていたんですよね。」
「………。ルル、酷いよ…。俺も、ルルには特に優しくしているのに…。」
「そうですよね。樹さんは、婚約者にも優しいお人ですものね。」
「………。」
後ろからついて来られる、お2人の会話が聞こえて参りましたけれど、樹さんの道のりは…遠そうですわね…。お可哀そうに…。
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元旦から続いております。 前半が瑠々華で、後半が麻衣沙の視点です。
着物の仕立てを注文した後は、婚約者が…待ち伏せしておりましたね…。岬とは違い、樹は空回りしているかも…。
※次回は、明日に続きます。読んでいただきまして、ありがとうございました。
また明日もよろしくお願い致します。
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