デザートのように甘い貴方
こうして、4人でお茶しに行きましたのよ。この前、樹さんに連れて行っていただいた、あのデザートのお店です。日替わりで、別のデザートセットとなるそうでして、わたくしはまだ、ホンの数回しか来ておりません。ですから、今日はとても楽しみにしておりましたのよ。
まさか、樹さん達もご一緒にお茶をすることになろうとは、夢にも思っておりませんでしたが。樹さんと岬さんは、何を買いに来られたのかしらね…。それよりも気になるのは、麻衣沙のご様子でしてよ。以前の4人の時とは明らかに違いまして、まるで…借りてきた猫のようですわね。
仕方ありませんわ。何故か椅子に座る配置が、今までとは違いますもの…。以前ならば、私と麻衣沙がお隣に座り、樹さん達は向かい側でしたのに、今日は…麻衣沙が私の向かい側に、座っておられますもの。これって…。
そうなのです。麻衣沙のお隣には、岬さんが座っておられるのです。ですから、自動的に私のお隣は、樹さんが座られましたのよ…。先にお店に入られたお2人ですが、麻衣沙が座られますと、岬さんが当然のようにして、その麻衣沙のお隣に座られ、麻衣沙は固まっておられましたわね…。私も樹さんもギョッと致しまして、暫し呆然として、側で突っ立っておりましたわ。
「瑠々華さんも樹も、何をしているんだ?…座らないのか?」
「…えっ?!…いや、その………。」
岬さんが、然も当然というように、私達に声を掛けられます。それに対して、樹さんは驚いた表情で、狼狽えられておられまして。お珍しい…ですわね。岬さんが仰る言葉に、戸惑われておられるのは…。ですが今回は、私も他人事ではありませんが。仕方なく…麻衣沙の前側の席に、座りましたのよ。樹さんは、それでも戸惑われておられるご様子で、私と岬さんへと視線が行き来されていて。
「樹も、いい加減に座ったら?」
岬さんが再度声を掛けられ、樹さんは観念されたように、おずおずと…私の横に座られます。う〜ん。何でしょう、この気分は。麻衣沙ではございませんけれど、私も…落ち着かない気分ですわ。そして、樹さんも…。明らかに、ソワソワされておられますよねえ…。この場で唯一落ち着かれていらっしゃるのは、岬さんだけでしたわ。おかしな…気分です。
「麻衣沙は、何を頼む?」と、彼女に一々声を掛けられては、「麻衣沙の頼んだデザートは、美味しいのか?…良ければ、一口だけ分けてくれ。」と仰られたので、麻衣沙が了承されますと、何と岬さんは…驚くべき行動に出られまして…。彼女が一口分を掬った、スプーンを持つ麻衣沙の手に、ご自分の手を上から重ねる形で、その状態のまま…自分のお口に、入れられましたのよ…。
茫然自失とは、こういう時に使いますのね…と、頭の中ではおかしな事を考えておりました。麻衣沙は即座に固まられ、同様に私も樹さんも、見事に…固まりましたわ。…ええっ!?…目の前の岬さんの姿をされたこのお人は、一体、
強引マイウェイな樹さんでも、私には…そういう事をされたことは、未だにございませんわよ。勿論、そういう事をされていましたら、私は疾うに逃げ出しておりましたわね…。まあ、よく考えましたら、いくら何でも…強引マイウェイな樹さんでも、私にはしませんよね…。私達は、名ばかりの婚約者なんですもの。
私は、お隣に座られた樹さんが気になりまして、チラッと目線を横に遣りますと、樹さんは
そう思って樹さんに同情しながら、彼をボ〜と見ておりましたら、樹さんのお顔がこちらを向かれ、彼と視線が絡んだ途端に、嫌な予感が…ビシビシ感じられましたが…。これって、もしかして……。
「ルル、俺も…君のデザート、一口でいいから食べたいなあ。味見しても…いいかな?」
「……っ!………。」
…やっぱり。いえいえ、おかしいでしょ!?…樹さん、貴方は…私と同じデザートセットを、ご注文されましたよね?…どう考えてましても、おかしいですよね?…味見する必要が、ないですよね?
樹さん…まさかと思いますけれど、岬さんの真似されてます?…私はジトッとした目線を送り、当然ですが…デザートは死守しましたわよ。Newヒロインとのイチャイチャの練習台なんて、絶対に嫌ですからねっ!
「…岬に…先を越された…。岬が…羨ましい…。俺もルルと…もっとイチャつきたい…。」
何となくそういう呟きが、お隣から聞こえて参りますが、樹さんが仰る訳はないですし…。幻聴が聞こえるなんて、私も
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わたくしは…困惑しておりました。岬さんに恋人繋ぎをされて、お店まで連れて来られたのも、わたくしにとっては…赤面ものでしたのに、わたくしに席を勧めた彼は、何と…わたくしのお隣の席に、座られたのですわ。…ええっ?!…どういうことですの?…わたくしだけではなく、ルルも樹さんまでもが、困惑されておられます。一体、何をお考えなのですの、岬さん…。
どうしたら良いのか分からず、わたくしは落ち着かなく…おろおろと、しておりましたわ。ルルは席に座ってしまうと、意外と落ち着かれておられます。何となく…ルルとは、いつもと立場が逆なのですよね…。……ふう〜。
その後も岬さんの言動は、行き過ぎたものでして。わたくしとは異なる、デザートセットをご注文された岬さんが、一口分けてほしいと仰ったので、「はい。」とお答えしてから、一口分掬い取りまして、彼のお皿へと移そうと致しましたら、彼はそのわたくしの手の上から、一口乗せたスプーンを持たれて、その状態で口に入れられたのです。
「…ふむ。麻衣沙のも、美味しいな。もっと甘ったるいのかと思ったが、これなら…甘いのが苦手な俺でも、食べれるな。」
「……!!!………」
……ええっ!!…な、何を…されるの…ですか!…わ、わたくし…貴方に、食べさせた形式に…なっているでは、な、ないですか…。し、然も…これは。か、間接…キス〜?!……な、な、な……。ルルや樹さんの前で、何を…されるのですの…。
わたくしは、岬さんの思いも寄らぬ行動に、わたくしの身体は…完全に、固まりましたわ。そしてわたくしの脳内では、このようなパニック状態に、なっておりましたのよ…。最初のうちこそ驚き過ぎて、
しかし、それでは終わりそうになく…。今度は岬さんが、ご自分のデザートを切り分けたフォークを、わたくしの口元へと差し出され。わたくしは…目が点になりまして。樹さんのお顔を拝見して、わたくしの顔色は青褪めていきます。まさか…ですよね?
「俺のは、大人の味だな。麻衣沙も一口、食べてみるか?」
「………。」
やはり…。岬さん、ルル達もいらっしゃることを、忘れてお見えでは…ございませんか?…そう思っておりましたのに…。岬さんは…意外と、策略家でしたのね…。それとも、案外と…ド天然のタイプなのかしら…。
「心配しなくとも、樹と瑠々華さんは、自分達のことで手一杯だよ。
「………。」
いえ、そういうことでは…ないのですが。気になったわたくしも、チラッとルル達の方を振り向きましたら、本当に…岬さんが仰った通りに、お2人にはこちらの状況が、見えておられないご様子でしたわ。樹さんが「一口ぐらい…いいじゃないかあ。」と仰って、ルルはご自分のデザートを、自分の身体で隠すようにして、死守されておられまして。なるほど…。先程の岬さんの真似を…されたいのですね、樹さんは……。ということは…バッチリと、見られてしまいましたのね…。
わたくしの顔は、再び真っ赤になり始めましたわ。『恥ずか死ぬ』とは、こういう時に使いますのね。などと…脳内では、馬鹿な事を考えておりまして。意外と頭の中では、冷静なことを想像するものなのですね…。普段のルルも、こういう感じ…なのかしらね?…漸く、ルルの状況が理解出来ましたわ。
「さあ、麻衣沙。誰も見てないから、食べようか?」
「……っ!?………」
た、食べないと…駄目ですの?!…岬さんが、さあさあ…という雰囲気で、わたくしに迫って来られます。一切れを乗せたフォークの先を、わたくしの口元近くに引き寄せられて…。わたくしがずりずりと身体をずらしても、逃がさないとばかりにフォークを差し出されて。このままずっと…わたくしが拒否致しましても、岬さんは…退きそうもなくて。それどころか、そのうちルル達に、気が付かれてしまいそうですわ…。
わたくしは…覚悟を決め。口を開いて、パクリと…口に入れまして。確かに…岬さんが仰られる通り、少しほろ苦い風味の味付けで、大人の味ですわ。…美味しい。思わず…頬が緩んでしまいます…。
「良かった。麻衣沙に…気に入ってもらえて。」
「………。」
岬さんが嬉しそうに微笑まれて、眩しいですわ…。ルル達は未だ、先程のやり取りをされていて、如何やら…気が付かれなかった模様です。……ほっ。間接キスよりも、あ~んを見られなくて良かった…と、心から思ったわたくしでした…。
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元旦から続いております。前半が瑠々華で、後半が麻衣沙の視点です。
副タイトル通り、甘すぎて砂糖を吐きそうな甘さ、を表現してみました。但し、ルルと樹の関係は、相変わらず…ですが。まあ、本編の方の現在進行と合わせていますので、このぐらいで。
※元旦からのお話は、これで終了となります。読んでいただきまして、ありがとうございました。次回は、登場人物紹介です。(番外版用に手直ししました。)
また明日もよろしくお願い致します。
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