貴方に最も似合う生地で
飛び込んだお店は、所謂デパートでした。凄い勢いで飛び込んだ私達に、店員さん達は…驚いたご様子でしたわね。驚かせて…ごめんなさいね?
ゼイゼイと息を切らす麻衣沙に、店員さんの1人がご親切に、お水を持って来てくれた。麻衣沙はお礼を伝えて、お水をもらっておられました。良かったですわあ。あまり他のお客さんが、おられなくて。お客さんにまでは、迷惑を掛けたと知られたら、流石に我が母は…怒るだろうしなあ。
ということで、麻衣沙も賛成されましたので、ご一緒に着物を取り扱う階へと、移動致します。その際に、先程の水をくださった店員さんが、ご丁寧に案内してくださいました。
しかし、あの店員さんは、私達を着物のコーナーまで案内すると、元の階に戻って行かれたのである。ああ…店員さん、カムバック!…まだお話が…ありますのに。そう言い出す間もなく、着物コーナーの店員さんに、さも高級そうな着物を用意されそうになり…。麻衣沙が断ってくださいました。ほっ…。私達は一応まだ大学生ですし、今日は両親も付いて来ておりませんから、こんな高級な品物を選べませんのよ。父には兎も角、母には…確実に怒られますわね、間違いなく。
そういう訳でして、一応は自分達のお小遣いの範囲となりました。お小遣いと言いましても、決して一般市民と同様に考えては…いけません。桁が違いますのよ、桁が…。未成年と言えども、賃貸アパートを契約して、引っ越し業者を頼んで、新生活グッズを買って、というぐらいならば…既に持っておりますわ。
何と言っても、お小遣い貰っても…全然使う必要ががなくて。大抵の欲しい物は、両親が買い与えてくれるし、足りなくなれば即、使用人が買ってきてくれる訳で。自分のお小遣いなんて、使ったことがないですわ…。それは、麻衣沙も同様です。それに比べますと、樹さんと岬さんは既に、会社の経営も一部任されているそうでして、ご自分のお小遣いも、使用されておられます。主に、私達に…。特に私は、お菓子関連でお世話になっておりまして。……申し訳ございません。
ですから、今日は自分達で、着物を買いに来ましたのよ。お互いが選んだ着物を、自分のお小遣いで買うのです。…うふふふっ。前世の夢が…叶いそう。実は、麻衣沙の着物姿は、乙女ゲームで見ていたんですよね、ずっと。ですが現実は、彼女の着物は…ゲームとは異なり、大人しい地味目の着物でしたのよ。ゲームの着物姿を見たい一心から、私は麻衣沙の着物を選びたかったのです。…ふふふ。
漸く…ゲームでの着物姿が、見られますのね…。私は張り切って、彼女の着物の生地を選び始めたのですが、どうも今一これと言うのがない。ゲームと同じ着物の生地が、見つからない。おかしいなあ…。全く同じでなくともいいから、似た感じでも…この際、良しとしますわ!
それでも私がしっくり来ない…と、思っておりますと、先程の店員さんが再度来られ、「一点モノですが…。」と言って、差し出された着物の生地は。
……有ったあ!これだわ。これですわ!…漸く…見つかりましたわ。然もこれ、乙女ゲームの麻衣沙の着物、そのものの生地では…ないですか!…うううっ。感動ものです。本当に同じ生地が、有りましたのね。私が目を輝かせて、着物の生地を見つめていれば、麻衣沙も気が付いたらしく、戸惑いながらも…自分に身体に添えられて。…うん!やっぱり…とても似合うわっ!まるで…麻衣沙の為に、作られた生地みたいですわね…。
店員さん達も見惚れるように、ほお~っと溜息を零されておりましたわ。これで、麻衣沙の着物は決まりました。今度は…私の番ですわね。麻衣沙は、どういう生地を選んでくださるのかしら?…乙女ゲームの私は、着物姿よりも洋服姿でしたし、私も…ああいう派手な洋服は、着ておりません。今の私には、全然似合いませんからね。無理して着たくは、ありませんでしたもの。
でも、あの店員さん、ナイス・アシストでしたわ。ふふふっ。もしかして、前世の記憶があったりして…。なんちゃって…ね。
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瑠々華が私を連れて飛び込まれた所は、老舗のデパートでしたわ。…あららっ。偶然にも…
思った通り、1人の店員さんが慌てて、わたくしに水を差し出してくださいます。ルルが顔バレのことで慌てられますので、わたくしがナンパから助けていただいたことをお伝えし、ファローを入れましたのよ。ルルは…また自分の世界に、籠られておられる間に。「それは…大変でしたね。」と苦笑されておられましたが、大丈夫でしょう。
着物のコーナーへ参りますと、やはり…ご存じの店員さんがズラッと、お出迎えしてくださいます。いつものご調子で、お高い生地を持って来られますので、青褪めたルルの為にも、わたくしが「今回は、自分達の小遣いで選びますのよ。」と申し上げますと、直ぐに店員さん方は行動に移されます。本来ならば、このお値段でも高い方ですけれど、ルルがホッとしたご様子ですから、大丈夫のようですわね。
家柄はルルの方が上位なのですけれども、前世の記憶が邪魔をされているようで、ルルは…お高い物を拝見されると、いつも顔を青くされますのよ。本当に正直なお人でしてよ。…うふふふっ。こういうところが、ルルの可愛いところですわ。
しかし、ルルには…満足のいくような生地が、見つからないというご様子でして。唸ったり、首を傾げたり、違う違うと呟かれたり…。店員の皆さんは、気にされないように見て見ぬ振りをされておりますわね…。そうですわよね…。仮にも…藤野花家のご令嬢ですものね…。滅多なことなど、申せませんわよね…。
中々ご納得しないルルには、店員さんも困っておられます、ルルは…どういった生地を、探されておられるのでしょう…。わたくしが着用する、着物だと申しますのに…。何を…拘っておられるのかしら?
先程の店員さんが戻られまして、一点ものという生地を、見せてくださいました瞬間に、わたくしは…思い出しましたわ。それは、乙女ゲームの麻衣沙がいつも着ておりました、定番の着物の生地でしたのよ。ルルは、これを…わたくしに着させたかったのですのね…。まさか…これを、ずっと…探されておられましたの?
覚えておられましたのね?…わたくしでさえ、忘れておりましたのに。…いえ、例え覚えておりましても、わたくし…きっと、ゲームと同じ着物は作らなかったことでしょう。似合うと思っておりませんでしたし…。
ルルは、生地を拝見された瞬間に…目を輝かされ、わたくしに目線を合わせられると、キラキラと期待する瞳をされてまして。…ううっ。眩しい…ですわ。そのように期待されても…。取り敢えず、わたくしの身体に合わせて見ますと、店員さん達まで…期待に満ちたお顔をされ…。分かりましたわ。これで…お願い致します…。
さて、次はルルの番ですね。わたくしも、彼女に似合う生地を、いくつか選んでいきますが、これという決め手が…ございませんわね…。…う~ん。何枚かキープ致しまして、その中から選ぼうとしておりますが、今一なんですよね…。ルルならばどれもお似合いでしょうけれど、それでは…今までと全く同じような気が、致しまして。悩んでおりますと、先程の店員さんが「実は…これを、斎野宮様が。」と、またまた生地を持参されまして。…えっ?…まあ、これは…。
わたくしは…その生地に、目が吸い寄せられまして。ルルは…きょとんとされて、首を傾げておられますから、覚えておられないのですね…。自分のことは…後回しのルルらしい、ですわね…。ですが、これを樹さんが…とは、どういうことなのでしょう?
「実は以前、こちらの一点モノを、樹さまが気に入られまして、取り置きして置きましたのですが、その後…何もお話がなく。これは元々、瑠々華さまに似合うと仰ったものでして。」
「…へっ?…これを樹さんが?…私の為に…取り置き?」
「ルル。わたくしも、これは…貴方に、とても似合うと思いましてよ。」
「…えっ………。」
そうでした…。これは、ルルに似合うはずですわ。何しろ、何1つ似合っておられなかった、ゲームの瑠々華が…唯一着ておられた着物なんですのよ。洋服は派手派手でしたのに、この着物だけは…野に咲く花のような、素朴な風合いの着物でしたのよ。そして、ゲームの瑠々華にとっては、婚約者から唯一似合うと褒められた、衣装なのです。ゲームの瑠々華には、大切な着物でしたのよ…。
ゲームでは…それだけのことでしたけれど、現実では…樹さんご自身が、選ばれた生地ですのね。それに、ルルは覚えてはおられませんけれど、この生地には目を引かれておられますようで。さあ、ルル。今度は、貴方が決める番ですわよ。
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元旦から続いております。前半が瑠々華で、後半が麻衣沙の視点です。
乙女ゲームで着用していた、2人の着物を仕立てることになりました。瑠々華の方は、麻衣沙が選んだ訳ではありませんが、樹が選んだ方がいいかな~、ということで。まあ、現世での瑠々華は、樹が選んでも嬉しくないですし、最終的には麻衣沙が似合うと後押しして、瑠々華も選んだ…という流れとなっています。
※次回は、明日に続きます。読んでいただきまして、ありがとうございました。
また明日もよろしくお願い致します。
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