第9話 新しい
「いらっしゃいませ」
いつも通りスタッフが迎えてくれた暖かい店内。
奥の席に通された。すぐに神栖くんが来た。
「今日ヘルプで付くからよろしくね。また夢子ちゃんの席に付けるなんて嬉しいよ」
裕貴くんの気遣いだろうか。二人だと気まずいから助かる。
あのモデルが来た。華やかなので目立つ。
裕貴くんは席を外し、モデルと話した直後、彼女は店から出て行った。
「あれ? あの人帰ったの?」
戻ってきた裕貴くんに、神栖くんがすかさず聞いた。ナイス、さすがに私は聞けない。
「今日の俺の顔がイケてないからだと」
裕貴くんは投げやりな感じで答えた。
「夢子ごめん、俺少し席外して整えて来るわ。神栖頼む」
「オーケイ」
裕貴くんと神栖くんは色気のある視線を送り合っていた。対照的な二人が妙にしっくりくる。
「夢子ちゃん、好きな人が結婚したんだって? 俺の前では泣いてもいいよ。それが俺の
二人きりになった途端、神栖くんが私の目を見つめて近づいてくる、決め顔で。いつの話だと心の中でつっこむ。私は笑いそうになったけれども神栖くんは真剣だから笑えなかった。でも笑っちゃいけないと思うほど笑いたくなるんだよね……。
「なーに人の客くどいてんだよ」
裕貴くんが戻ってきた。
「あー残念、もう戻ってきたんだ」
私は助かったよ、あのままだと絶対笑っていたから。
「夢子、注文まだだったよな。何飲む?」
「アップルティー」
「夢子ちゃんって
すかさず神栖くんに言われる。もうギャグにしか聞こえない。
「夢子、お前神栖がいいか?」
「いやぁ……神栖くんとつきあうと疲れそう」
神栖くんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「あははは! 確かにその通りだわ」
裕貴くんは心の底から笑っていた。
「ところで……藤がこっち見てるよな」
「あいつ夢子ちゃんに気があるのかも」
え、嘘でしょ? そう思ったけれども神栖くんはいつだって本気の発言しかしない。
「新しい恋の予感かな?」
神栖くんが思い切り決め顔で言った。私が裕貴くんに告白したの知っている? まさか裕貴くんが言うはずないし……裕貴くんも同じ事を思ったみたい。
「なんで?」
私と裕貴くんが同時に言った。驚いて顔を見合わせて笑ってしまった。
「何? 二人とも」
神栖くんは変わらず決め顔で囁いた。その後ろから藤くんの顔が見えた。
ホ茶クラブ 青山えむ @seenaemu
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