第三の性別(お題:TS)
『
つまりだ。「男らしさ」からも「女らしさ」からも解放された、自分の自認している性別を男と女だけに縛られない人々を指す……らしいのだが……言葉だけは浸透しているが、正直これを我々『地球人』に適応できるとは到底思えない……
何故なら……と思っていたところで、待っていた相手がやっと来た。予定の三十分遅刻、飲んでいた喫茶店のコーヒーも既に空っぽだ。まあ、電車の遅延で遅刻したのだから、彼を……いや、彼女を?ああ、こうやって
この扱い方があっているのか、私にはわからないが……
彼ら、外宇宙からやっていきた異星人たちと地球のファーストコンタクトから今年で何年だ?私が学校の歴史で習うレベルだから、相当前だったはずだ。まあ、だからこそ、ようやく、地球でも異星人の“性”について、地球の枠組み以外でも取り扱うようにしたのだろう。『子供を産む性』である女性、『子供と妻を守る性』である男性という枠組み自体がナンセンスだ。そもそも、地球ですら、性別に関するアレコレで揉めた歴史があるのだ。異星人にそれを適用するの自体無理がある。
そんな時だ。『ジークナメ星人』という「男女の性別がない」星出身の漫画家から、新人賞への投稿があったのだ。異星人の漫画家など珍しくない時代だったが、いざ、所謂『第三の性別』の新人が来たとなると、編集部もかなり扱いに困っていたのは事実だ。作品の内容に問題はないのだが、私達が扱うのは“男向け”の作品なのだ。これが女性だったら、まだアドバイスの仕方などは思いつくが、今まで性別という概念を持っていない漫画家へのアドバイスなど、どうすれば……
「遅れて申し訳ありません!」
ポンラ氏は到着なりペコリと頭を下げるので、俺はいいよいいよ、と座るように促す。外見だけなら地球人と変わらないが……確かに女性とも男性とも判断が付きにくい。中性的というのだろうか。
早速、ポンラ氏の持ってきてくれた新作の読み切り漫画の確認をする。
「ふむふむ……」
「どう……ですか?」
胃痛に苦しんでいるかのような神経質な表情をポンラ氏はする。ポンラ氏は漫画家としては、かなり真面目な部類だろう。こっちが指摘したことを次回には必ず修正するし、アドバイスや批判点などのフィードバックもできている。だが、それはつまり、私次第でこの漫画の性向性を決まってしまうのだ。もっと男向けの要素を入れることもできるだろう。それくらい、今まで触れてきたコンテンツによって、創作者の傾向は変わってしまうのだ。性別で漫画家の優劣はつかないが、少年漫画と少女漫画、そのどっちかのみしか経験してない創作者では傾向に大きな差は生まれるのだ。
だが……
「ポンラさん……」
「はい」
「……これ、前読んだときより遥かに面白くなっていますよ!」
「本当ですか!」
「ええ!ただ、ここの最後のシーン、もっと派手にしたほうが印象に残るかもしれません。例えば……」
私は別に人権家でも、第三の性別を浸透させる主義もない。だが、今読んでいる、この漫画を『傑作』にすることが、最優先だ。そのために一番いいのは、ポンラ氏の漫画家としての“全力”を出させることだろう。それで、仮に漫画が男向けにならないとしよう。
どれがどうした。面白ければいいのだ。
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