現代剣豪大戦(お題:架空の長編作品の第三話目っぽいお話を書く)
【前回までのあらすじ】
平凡なサラリーマン、小野田伊助。しかし、その正体は、日本にかつて実在した伝説の剣豪の一人「柳生宗矩」が、生前の記憶をもったまま、輪廻転生した姿であった。現代社会という「剣豪」の居場所が消えた時代でも四苦八苦しつつ、現代の世界に順応していた。それと同時に、“いつか来る日のため”に、生前の自分を超えるために、人目を盗み、日々修練に励んでいた。
しかし、とある日、帰宅途中に、「まるで時代劇から飛び出してきたかのような、着流しの男」に襲われる。戸惑いと共に「時が来た」ことに喜びを隠せない小野田。男と小野田の死闘は、結局引き分けで終わる。そして、男は名乗った。それは、小野田……いや“柳生宗矩”が知らないわけがない名前、「柳生十兵衛」であった。
そこは平凡な、なんの変哲もない、チェーン展開している喫茶店でしかないはずだった。だが、今このとき、店内だけでなく、店外からすら、多くの野次馬が、店内のとある一角に注目していた。
群衆の目線の先にあるのは、四人掛けのテーブル……ではなく、そこに座る二人の男。一人はスーツを着ている、ワックス上方を几帳面に整えている、三十代前半の優男。よくいるサラリーマンである。問題はその向かい側にいる、スーツの男よりも年増で強面の男だった。二〇二〇年という現代において、時代錯誤にも程がある格好だ。ヨレヨレの袴に着崩した着流し、そしてなにより特徴的なのは、時代劇でしか今や見ないであろう、ちょんまげというヘアースタイル、そして、右目を覆う黒い眼帯。この風貌を見て、どんなに歴史に疎い人間でも、まさか!と思うだろう。なんでこんなところに、柳生十兵衛が?と。
「ふむむ……」
十兵衛は、目の前に置かれているアイスコーヒーを興味深そうに散々除きこんでから、一口飲んで一言。
「なんじゃああこりゃあ!」
「コーヒーだ」
「こんな不味いもんを……おみゃあ、俺を小馬鹿にしてんのか?」
そう言いながら、十兵衛は傍らにある刀を手に取り、ちゃかちゃかと揺らす。対する小野田は、そんな十兵衛を物ともせず、自分の分のコーヒーを飲み、吟味し、ふう、とひと呼吸。日々のストレスの多い生活において、コーヒーは貴重な気分転換の一つであった。
「ところで……」
小野田はこうやってこの「柳生十兵衛」を名乗る男と休息をしているのは、あることを問い詰めたいからだ。
「お前は“本当に”柳生十兵衛……なのか?」
「そうだ……って、なんだよ、俺を疑うのか?」
「ああ、そうだ」
「なんだよ、えらい自信だなあ」
「当たり前だ。俺はかつて“お前を育てた”んだから」
「はあ?」
ざわざわと、盗み聞ぎしていた野次馬が騒ぎ出すが、構わず続ける。
「お前がどこから、どうやってこの時代、この世界に来たのかはわからない。ただ、一つ言えるのは……」
そう言って、十兵衛の右目……眼帯を指さす。
「俺の知ってる十兵衛は“左目”に眼帯をしていた。見間違えるものか。ずっと見ていたんだからなあ」
「お前何言ってんだよ」
十兵衛は反論する。
「じゃあ、何か?お前は、俺のおやじだって言い張るのか?眼帯の左右の区別もつかねえのに?」
「そうでなければ、お前が柳生十兵衛だという証拠はあるのか?今の時代、お前のような恰好をしている奴はコスプレイヤー扱いされて終わりだぞ」
「こすぷれいやあ?」
「今は知らなくていい言葉だ」
「ああ~面倒癖ええなあ」
十兵衛は苛立ちながら立ち上がる。
「じゃあ、てめえが俺のおやじ、柳生宗矩だっていう証拠を見せてみろや。お前、自分が俺達に何をしたのか、忘れたとは言わせねえぞ」
「ほう、言ってみろ」
実際、十兵衛と宗矩は、最終的に道を違えていた。宗矩は「活人剣」という、剣道の基礎を極めた道を開いたの大して、十兵衛は実戦……いや、最早殺し合いに適した「殺人剣」の道を進んだからだ。十兵衛にだって、色々思うところがあるのだろう。
そう、思っていた。
「そうだな……てめえが無様な妖術で蘇ってきたときのことだ……」
「おい、ちょっとまて」
「はあ?」
「俺が、蘇った?」
「おう、そうよ。てめえが『魔界転生』なんて妙なことを」
「おい、『魔界転生』だと!」
「はあ?」
「……十兵衛、少し待ってくれ」
そうやって、小野田は懐にあったスマートフォンを操作し、とある作品を検索する。
「『魔界転生』……本当に間違いがないんだな?」
「ああ、そうだが?」
「……落ち着いて聞いてくれ、その言葉は俺も知っている。いや、この国のある一定数の数が知っている、嗜んでいるものだ」
そういって、スマートフォンに表示されている、とある本を十兵衛に見せる。
「山田風太郎……『魔界転生』……だあ?」
「そうだ……お前、まさか……」
そのまさかだ。この男、柳生十兵衛は「この世界」の過去からやってきたのではない。「創作の世界」から、やってきたのだと。
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