1-6

「あら、おかえり。案外早かったわね」

 シルヴィアさんと別れて家に帰ると、洗い物をしているアリサが顔を出して出迎えてくれた。

「ただいま」

 何となくそのまま部屋に戻る気になれず、僕はリタで少し休憩させてもらうことにした。セレンも一緒にと思ったが、彼は遅めの昼寝がしたいと一人で上がっていってしまった。

「無事終わったの?」

「うん、おかげさまで」

 僕はアリサにホットミルクを注文する。今はあのべたつくほど甘すぎる味が恋しくて、砂糖多めで、と言うと、彼女は子どもっぽいとおかしそうに笑った。

「ねえ、アリサ」

 厨房の方へ去っていく彼女の背中に向かって、呼び止めるように声をかける。

「なに?」

 そう言って振り返る彼女に、僕は一体何を言おうとしたのだろう。少し考えたあと、僕は何となく思いついた言葉を口にした。

「ありがとう」

 唐突すぎる僕の言葉に、彼女は不思議そうに首を捻る。しかし僕は初めて抱いた今のこの気持ちを上手く伝えることができない気がして、それ以上言葉が続かなかった。そんな風に口ごもる僕を見て、彼女はまたあどけない笑みを見せる。

「なんか、ちゃんと言っておかなくちゃいけない気がして……」

 何とか精一杯振り絞って、それだけ言うことができた。たぶんまだ何を言っているのかよくわからなかったと思うけれど、彼女は何かを察したように頷いてくれた。

「どういたしまして」

 彼女は満足げに僕を見て、くるりと身を翻してホットミルクを作りに奥へと戻っていった。

「……あとでセレンにも言わなくちゃな」

 この言葉に意味があるのかはわからないけれど、たとえ意味なんてなくても、きちんと伝えておきたい。伝えればよかったと後悔する頃にはもう遅いから。

 けれど、彼は結構ドライだから、こんな漠然とした言葉ではかえって怒られてしまうかもしれないな。そうしたらいつかまた、ちゃんと伝えられるようになるときまで、待ってもらうことにしよう。

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