第2話彩良の命令とは
「立って、牧平君。もう遅いから、帰ろう」
「あっはい」
俺は鞄に読んでいた文庫本を入れて立ち上がり、扉まで行き鍵を開け廊下に出る。
隣に並ぶ結野先輩は微笑みを浮かべている。有名人である、彼女が何故何の取り柄もない俺に声をかけるのか訳がわからなかった。
「あのー、結野先輩とは面識ないですよね。なのに好きって、どういうことですか」
「牧平君。女の子みたいに可愛い顔してるでしょ。牧平君がこの高校に入学してきたときから話したいと思っていたの。可愛いんだもん」
「それでも、さっきのはやり過ぎでは。結野先輩」
「そんなに言わなくても...牧平君はああいうことは苦手なの?」
「苦手っていうか、男子的には嬉しいけど...結野先輩にはああいうことは似合わないと思う...」
俺は言葉を選びながら、口にする。
彼女は少しがっかりしたような表情になる。
「牧平君が言うなら控えるよ。ああいうこと。それとそんなにかしこまらないで。気軽に彩良って呼んで」
「そっそそ、そんな呼び捨てなんて、できませんよ」
俺は大きく手を振り、慌てる。
「私は牧平君に彩良って呼んでほしーの!じゃあ、私の命令っ」
可愛い、可愛すぎるよ。結野先輩の笑顔。
「さ......さ、ら......やっぱり、言えません。彩良さんで許してください」
「仕方ないなぁ。いいよ、彩良さんで。やっぱり、牧平君は可愛い。手を繋ぐぐらいはいいでしょ」
俺は顔が熱くなってきて、こたえることができずにいた。俺の指と指の間に小さく細い彼女の指が絡まる。
ひゃっ、と男らしくない悲鳴をあげた。
「牧平君。女の子と手を繋いだことがないの?」
「はっはいっ。繋いだことないですぅ」
「牧平君の初めてを私が......嬉しい」
下駄箱で靴に履き替え、手を繋ぎなおした俺達は校舎を出て、家に帰る。
「牧平くん、学校で」
美しい声で言われ、癒される俺だった。
結野先輩とは途中で別れた。
家が見えてくる。
あの有名な結野先輩が俺のことを好きだなんて思いもしなかった。
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