結んで連れて
有月のん
第1話
「翔也ぁ……うっ…どうして……どうして母さんより先に行くのよぉ…!!!!」
「ごめんよ母さん、俺がもっとちゃんと周りを見てれば良かったのにな…。」
咽び泣く母さんの背中をそっとさする。さっきからずっとそうしてるが、母さんは一向に泣き止みそうにない。
それも当たり前だ。
俺、死んじゃったし。
「父さんも翔也もいなくなったら…私…どうしたら良いのよ…」
そう言いながら母さんが握っているのは俺の、いや、〝さっきまで俺だったもの〟の手である。
不幸にも俺は学校に向かう途中で、突如横断歩道に突っ込んできたトラックにぶち当たってしまった。
もちろん即死。
左半身はまだマシだけど、右半身はぐちゃぐちゃ。正直自分でも見たくない。
ぶち当たって意識が無くなったすぐ後、はっと目を覚ましたら目の前にぐちゃぐちゃになった俺がいた。
思わずかなり大きな声で叫んでしまったが、ぐちゃぐちゃの俺の周りに集まった通りすがりの人たちは、何も聞こえてない様だった。
そこで俺は、自分が死んで幽体離脱したことを悟り、その後救急隊に運ばれた俺の死体を追って今に至る。
死んでからだいぶ時間は経ったが、あの世に行くとかそういうことは全く起きない。
「もしかして俺、成仏できないとか…?」
このまま母さんやその他諸々の知り合いに認識されずに、孤独に過ごすことになるのだろうか…。それはなんだか怖い。あの世に行くってのも得体が知れなくて怖いけど、ひとりぼっちはもっと怖い。
そんなことを考えてる時だった。
「やっとみつけました。こんなところにいたんですね。」
「ぎゃぁぁぁあああ!?!?!?」
不意に肩を何者かに叩かれ、驚いた俺は本日2度目の叫び声を上げる。勿論、母さんも医師たちも俺の声には気づいていない。
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには背の低い少女がいた。
長い黒髪に黒い重そうなコート。
白すぎると言いたくなるほど雪の様な綺麗な肌、こちらをまっすぐ見つめる瑠璃色の瞳。
超絶美少女だが、どことなく生命を感じない。今の状況だと死神に近い存在に感じる。
「だ、誰…?」
「
「まってまってまって!?なんでそんな俺のこと知ってんの!?てか、結人ってなんだよ!?」
「結人はこの世とあの世を繋ぎ、死者を導く仕事のことです。そして結人は透視能力を持つので、死者のある程度の情報はわかります。そうでもしないと、こんなにも沢山人がいる中で、目当ての人を探すことなんてできないでしょう?」
めちゃくちゃ早口で説明してくれた。
なんとなくわかったが、思考が追いつかない。
「ま、まぁ…そうだね、そっか。お迎えが来たってことかな?うん、なんかようやく死んだ実感出てきたよ。」
「それより、聞きたいことがあるのはこっちです。なんでこんなところでうだうだやってるんですか。」
「と言いますと…?」
「普通死者は本能的に、あの世に行ける〝歪み〟を探して歩き始めるんです。でもあなたは行かなかった。何か強い未練でもあるんですか?」
「未練?無いよ未練なんか。強いて言うなら、母さんを1人残して逝くのが心配なくらいかな。」
「母さん…?」
ユユはふっと視線を母さんの方へと移す。
相変わらず泣き止むことなく必死に俺の名を呼ぶ母さんを見たユユは、一つ大きく溜息を吐いた。
「多分、未練があるのはあなたの母親の方ですね。あなたのへのかなり強い執念のにおいがします。これがあなたをこの世に引き留めることになってるんでしょう。」
「じゃあ、母さんがの未練が消えないと俺は成仏できないってこと?」
「そんな感じです。…仕方ない、術を使います。」
そう言って彼女は懐から小さな鍵を出すと、それを母さんの背中に刺した。
思い切り、ぶすりと。
「えええええええ!?!?大丈夫なのそれ!?」
「いちいちうるさいですね…。こちらNo.15618。協会長に術の使用を要請。…ラミラル、10-2をお願い。」
何かよくわからないことをユユがいうと、すぐに鍵が青白く光を放ち始めた。
「展開!」
カチャリ、と音を立てて鍵を右90度に回しゆっくりと引き抜く。
すると母さんはぐったりとうなだれてしまった。
「蓮田さん!?蓮田さん……ね、寝てる?」
「疲れたんでしょうか…。」
急に眠り始めた母さんを医師たちが不思議そうに見つめる。
「すごい、魔法?」
「そうです。今のは人を眠らせ、幸せな夢を見せる術です。きっと今頃、家族3人で幸せに暮らす夢でも見てるはず。」
「でもどうしてそんなことを?」
「人間は幸せな夢を見てる時、少しだけ未練が薄れるんです。悪夢だと逆になってしまうんですけど。だから〝歪み〟に向かうなら今のうちってことです!」
彼女は俺の手を引き、いきなり走り出す。
「急いでください。歪みはこの世にいる時間が長いほど見つけづらくなるんです。」
結んで連れて 有月のん @ooharaasuka
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