エンドロール1

 白い壁。

 クリーム色のカーテン。

 ピッピピッピと頭の上でうるさい機械。

 硬いベッド。

 そこに寝ている俺。

 状況把握に時間がかかる。

 ちょっと息苦しい。身体が痛い。思うように動かない。やっと動いたのは腕だった。

 最初に白衣を着た女性が目の前に現れて、俺の顔を見るなり血相を変えて何かボタンを押してうるさい機械を確認して俺の手首を持って何かしている。ちょっとすると、白衣を着た中年くらいの男性が来て、俺の身体を触りながら何か話して二人は時々中川さん!! と声掛けしながらせわしなく何かしている。 

 意識がはっきりしてくると、いろいろなことを周りのスタッフがゆっくりと教えてくれた。ここは病院で、俺は自宅で首つり自殺をしようとしたのを偶然それを窓の外から観ていた通行人に通報されて助けられたという。

 一カ月ほど昏睡状態だったという。

 信じられなかったが、徐々にこれが現実だということを認識し始める。そして自分がそんなことをした理由もわかり始めた。

 お見舞いに両親が来て泣いて喜んでくれた。心配させて、つまらないことをして申し訳なかったと心から思い詫びた。

 一週間ほど入院したのち、退院して自宅へ戻った。

 仕事は親が休職届を出してくれていた様でしばらく休めることになった。

 そう。俺の名前は中川圭。大学を卒業後、IT企業へ就職した。年齢は三十歳。年齢=彼女いない歴の独身。一人暮らし。休日は遊ぶ友達もいなく一人でいることが多い。

 と、簡単にプロフィ―ルを説明できるほど薄っぺらい生活をしていたんだなと必要最低限の生活家具しかない整頓されすぎている部屋を見渡しながら思う。

 これからどうすればいいのか。

 死のうとした理由はいろいろとあったけれど、結局はそれだった。後は気分。

 とりあえずテレビを付けてみた。テレビからはなにかのドラマの再放送がされていた。ちょうど、夜に抱きしめ合ってキスするシーンだった。

 くだらない。

 テレビを消した。俺にはそういう未来はなさそうだ。それは死にたくもなるかもしれないと悪いこととわかっていながらも死んだ自分に同情した。

 本棚に目をやると高校の頃の卒業アルバムが目に入りおもむろに手に取って開けてみた。

 懐かしい顔がそこにはあり、その中には莉英と篠原の顔もあった。

 あれは夢だった。

 現実世界は彼女と彼とはさほど関りがなかった。篠原がいじられているのを莉英が止めた事件があったのは事実だが、それ以降は特に何も起きず篠原は普通にその後も俺たちのグループにいじられていたし、普通にそのまま高校を卒業していった。莉英ともシェア彼女どころか、会話する機会すらなく、ちょっと気になる生徒ぐらいだった。

 長すぎる夢。リアルすぎる夢だった。

 リアルすぎて、今いる現実が夢ではないかと錯覚に陥るくらいだ。

 どうしてあんな夢を観たのだろうか。彼女がこの年までいないことに異常なコンプレックスがあったのも事実。何もない自分に虚無感があったのも事実。しかし、それ以外にも何かある気がしてならなかった。とは言っても、そんな原因を追究したところで何になるわけでもないし、現実が変わるわけでもないが、暇なのでいろいろと考えたがわからなかった。

 携帯電話を取り出して、電話帳から井口健太郎の電話番号を呼び出す。最後にキャッチボールをしに会ったのは確か、高校三年生の頃だったからもう、彼とは十年以上会っていない。

 もう電話番号も変わってしまったかもしれない。でも、もしかしたらと思い、電話をかけてみる。

 呼び出し音が三十秒くらい続き、諦めかけていた時、電話の向こうから懐かしい声が聞こえてくる。

「もしもし」

「あ、あの、中川だけど」

「おお、、ええ? マジか。久しぶり」

 電話の向こうの彼は前と変わらなそうだった。

「で、どうしたの?」

「えっと、ちょっとかけてみたいなと思って。電話番号変わったらアウトだったけど」

「だな。ちょうど、携帯会社変えようと思っていたころだったから良かった」

 しばらくお互いにしゃべらず間が空く。

「で、何?」

「あ、あのさあ。もしよかったらなんだけど、会えないかなと思って」

 断られても仕方なかった。彼が今どういう状況であるかわからないし、だいいち、十年以上会っていない奴と会いたいと思われるかわからない。

「いいよ。どこにする?」

 あっけないほどに、すぐに返事は返ってきた。

 それから、とんとん拍子に日にちと場所が決まって五分ほどで数年ぶりの電話は切れた。

 彼と会う。電話を切った後、一体何を話せばいいか少し緊張している自分がいた。

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