内藤莉英。

 彼女もいい奴だ。

 顔もスタイルも俺好み。性格だって悪くない。

 ただ、彼女とも永遠ではなかった。

「ビックリしちゃった」

 呼び出した彼女はコップの水をがぶ飲みする。

「そこでさ、ナンパされそうになってさ。必死で逃げてきた」

「ナンパ?」

「そう。ちょっとチャラい男にちょっと遊ばない? って」

「で、どうしたの?」

「ハッキリ断りましたよ。嫌ですって」

「で、逃げたの?」

「だって、しつこいんだもん。最後はいい加減にしてください!!と怒鳴って逃げたよ」

 彼女も変わらない。

「で、今日は何?」

「何って?」

「どうして会おうと言ったの?」

「ああ、そうだね」

 言葉が浮かんでこなかった。

「ま、とりあえず、何か頼もうか。圭君はチーズコーンピザでしょ?」

 気を利かせたのか、莉英がメニューボードを手に取る。そして、店員を呼んで俺のピザと自分の食べたいものを頼む。

「ちゃんと話したいんでしょ?」

 彼女がメニューボードを机の隅に片付けながら顔を見ずに聞く。。

「え?」

「そうだよね。私も圭君もあの日から避けてはいないけどお互いにお互いから逃げていたよね」

「うん」

「私はあの日、私といると圭君が同じ目に合うのが怖くなったの」

「同じ目って、あれからあんなことが何回かあったの?」

 彼女はかぶりを振る。

「ないない。でも、ありそうじゃない? 私の性格だったら。それだったら、一緒にいるのちょっと嫌だなあと思って」

「そんなこと思っていたんだ」

「大切な人が傷つくのを見たくないからね」

 大切な人。確かに彼女はそう言った。

「あのさ、莉英にとって俺は何?」

「またその質問? その質問、よくするね。圭君は私の彼氏だよ。恋人。あ、正確には恋人だった人か」

 やはり当たり前のようにそう言い返す。

「俺と莉英は最初、シェア彼女だった。本気じゃなかったでしょ?」

「うん。そうだったね。でも、本気で圭君のことが好きなのかなって思うこともあった」

「え?」

「ほら、一緒に歩いていて不機嫌そうな顔していると、どうしたのかな? 私といてつまらないのかなって寂しくなったりして、確か楽しい? って聞いたことあったよね?」

「うん。覚えている」

「そう思うってことは好きだったんじゃないかな? 正直、好きか嫌いかなんてわからなかった。でも、恋人って何? そんなにきちんと愛し合っていないといけないのかな?」

「それは」

 そうだろうとは言えなかった。

 僕らは恋愛初心者だった。

 でも、これから先、誰かに恋をするとしてその質問に答えれるようになるのだろうか。

「こんな気持ちじゃ恋人って言ったらふざけてる? ぶん殴りたくなる?」

「いや、殴るのは暴力だよ」

「そうだね」

「で、圭君は?」

「俺? 俺はその、謝ったけど、あの日に莉英の思った感情が自分の中で許せなかった」

「真面目。カッコいい!!」

「からかっているの?」

「ごめん、今のは少しからかった。というより、少し照れた。圭君は私のこと好きでいてくれたんだね?」

「う、うん」

「何その中途半端な返事は? じゃあ、そうじゃなかったのね?」

「いやいや、そうじゃなくて、俺も莉英と同じで好きか嫌いかわからなかった。でも、最後の方はあまり好きじゃなかったかな?」

「へえ。そうだったんだ」

 彼女は他人事のように楽しそうだった。

「で、今は?」

「今?」

「今は私のことどう思っているの?」

 どう答えばいいかまた言葉に詰まる。

「いいよ。それで」

「ごめん」

「謝る必要ない」

 さっぱりとしてそれでいてこちらの気持ちをくみ取ったとも思えるセリフ。そういう彼女のことがまた好きなった気がした。やり直したい。やり直せるならやり直してみたいかも。そう本気で思った。

「ちなみに、莉英はどう思っているの?」

「私? 私は今でも好きよ」

 そうか。それならば、でも彼女がすぐに付け足す。

「また付き合いたいとは思わないけどね」

 そうか。莉英とも終わったんだ。

 もうこの流れは止めることができない。

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