一つだけ、このグループといて楽しみなことがある。

 高校生になってからカラオケの後に必ず行くファミレスで、チーズコーンピザの美味しさに目覚め、毎日食べても飽きないくらいの好物になったことだった。今日も勿論のようにそのピザを注文し食べていたわけだが、美味しさを感じたのは一切れだけだった。

「おい。また彼女とメールしているのかよ」

「いやあ。メール返さないとうるさいからさ」

「でもいいよ。お前の彼女可愛いし」

「何言っているんだよ。お前もいるだろうが」

「俺のはブスだよ」

「ただ、お前の言うこと何でも聞くんだろ?」

「まあな。そこだけだよ。そうそう、お前も最近彼女できたんだよな? 写真撮っていないの? 見せろよ」

 いつものトークが始まる。自分の彼女いる自慢。

 自慢しているつもりはないのかもしれないが、彼女いない=年齢の俺にとってはそうしか映らない。話の輪に入っても仕方ないので、俺はただ自分の好きなピザの残りを口に入れ味を楽しむことにする。

「おい。中川はできたのかよ」

 と、一人が聞いてくる。できるわけないだろう。と振ってくるんじゃねえよ。と叫びたくなったが、それはカッコ悪いし、適当にまあ、と受け流す。

「マジかよ。中川も悪くないんだけどな」

 口からいい加減なことを言っているのが丸わかりの発言。何の慰めにもならない。

「きっとあれだよ。タイミングとかじゃね?」

 だいいち、お前みたいなのにすぐに彼女ができてどうして俺ができないのだろうかと本気で苛立ってくる。仮にタイミングが悪いならば、神様という存在がいて、俺にいじわるをしているというのか。どんどん旨かったピザの味が薄れていく。同時に食欲もなくなる。

「でもさ、この歳で彼女できたことのない奴っているのかなあ」

 その言葉に腹部が一気に冷えてチクチクと痛むよう変な感覚に襲われる。

「いるだろうけど、そんな奴は冴えないダメ人間だろ?」

「そう。親が言っていたけど、仕事できる奴って大体モテるんだってさ。で、モテないやつはだいたい仕事もできないって」

「へえ。大人でもそうなんだな」

「だいたい、俺らだって、彼女作るのに努力しているんだよな。気に入った女子を見つけたら積極的にアプローチして、服のファッションに気を付けたり」

「金はかかるわな」

「そうそう」

「男って辛いよな」

 三人は仲良くため息をつく。まるで俺が生きている価値がない男と言われている様だった。付き合ったことがないこと。それは恥であることは自分もそう思っている。ただ、俺にはどうすれば良いかわからなかった。

「なあ。中川は今まで何人と付き合ったの?」

 ゼロ。そんなこと言えるはずもなかった。こういう場合は嘘が嘘を重ねないように二人とかにしておくべきだろうか。

「あ、何だ。どうしたんだよ」

 そうやって頭の中で考えているうちに違う展開へ動いていた。

 違う学生服を来た女子学生が突然俺たちの前に現れたのだ。

「さっきメールくれて、で偶然通りかかったら誰かといるのが見えて、もしかしてと思って」

 彼女はふてくされた顔でクラスメイトの前に立ちブツブツと彼にしか聞こえないようなト音で話す。

「で浮気だと思ったか? ちょっと座れよ」

 どうやら、先ほど話題になっていた言っていたメールの返信がうるさい可愛い彼女だった様だった。

「で、俺は浮気をしていたか?」

 彼女はゆっくり首を振ってクラスメイトに寄り添う。

「コイツ、嫉妬深くて困るんだよ」

馬鹿と言って、クラスメイトは彼女の頭をポンポンと軽く叩いた。

「あのさ、こいつのどこに惚れたの?」

 別のクラスメイト人が女子高生に聞く。女子高生は照れくさそうに彼氏の顔をチラチラと見つめる。

「全部だよな?」

 女子高生はもうと言って、彼氏の肩を軽く叩いた。確かに、彼女は美人とは言わないものの、小柄で丸顔で愛嬌のある顔をしていた。かと言って、この彼女のどこに惚れたのか俺には理解できなかった。かと言って、羨ましいとか寂しいとか惨めとか色々な気持ちに襲われる。

「でもさ、さっきの話だけど、篠原は彼女いたことなさそうだよな」

「ああ、確かに確かに」

 三人は感情に任せに振った会話へ見事に乗ってきた。

「え? 篠原って誰?」

「ああ、どうしようもなく冴えないクラスメイト。今日ちょっと嫌なことがあったんだよな」

「まあそれはいいけど、あいつ絶対いないぜ。だって、あんな奴に惚れる女なんていないいない」

 一斉に笑い出す。俺もつられて笑ってみたが、そんな篠原にも実は付き合っている女がいるとしたらどうだろうか。篠原は悪い奴じゃない。だが、世間を知らないというか、立ち回りが悪いというか、それこそ、場の空気を読めない人間だと思う。だから、こんな奴らにも馬鹿にされているし、利用されそうになる。

「でもさ、可能性がゼロってことはないんじゃない?」

「いやいや。ないない。それは会ったことがないから言えるんだって」

 彼女の発言はすぐに否定されたが、その言葉は深いダメージを負わせた。篠原に恋人がいたとしたらと考えるだけでさらに腹が冷たくなってくる。そんなことあってはならない。

「でも高校生にもなって彼女いたことがない人ってちょっと私引くな」

 さらに追い打ちをかける言葉が彼女の口から発せられる。

「だってさ、相当魅力がないから恋人ができないんでしょ? 世の中、男子半分、女子半分なんだから、それを考えると、ずっと恋人ができないのってどれだけのもんよと思うの。それなりにやっていれば、それなりに誰か合う人がいるよ」

「おお、言うねえ」

「って私たちみたいにとか言いたいの?」

 少し真顔で言った彼女を少し茶化していたクラスメイトがいたが、俺はといえば完全に気分を害し、一人劣等感を感じずにはいられなかった。

「だから、篠原って子にもいるかもしれないよってこと」

 一体、俺は何をやっているんだろう。

 実は俺って底辺な男かもしれない。

 この四人が実は俺がずっと恋人がいない人間だと知ったらどういう反応をするのだろう。

 早く恋人がほしい。恋人を作らなくては。

 会話が盛り上がる中、残されたピザを無理矢理口に入れた。やはり、ピザは味気なく不味く気持ち悪くなって吐きそうだった。


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