第5話
───そして時間は追い付く
盗賊の最後の一人が失神しかけた時、勇者の手が離された。
「ゲホッ…ガフッ…」
盗賊は受け身も取れず地面に落ちたが、体の痛みなど気にも止めないほどに必死に呼吸をする。
喉がヒューヒューと鳴り、涙目になりながらでも精一杯の呼吸を繰り返した。
そして何度か呼吸を繰り返した盗賊は勇者の足にしがみついた。
その格好は土下座にも似ていて間違いなくみっともなく見えるだろう。
「…何の真似?」
「お前…い、いや、貴方は勇者なんだろう!?
なら正義の味方のハズだよな!だったら命だけは助けてくれ!頼む!!」
それでも必死に頼み込んだ。
しかし自分の足にしがみつき命乞いをする男を、勇者は見下ろしている。
その目に何の興味も宿っていないことは、誰のめにも明らかだった。
「何か勘違いしてないか?」
「…えっ?」
盗賊は顔だけ上を向け、勇者の顔を見る。
「俺は正義の味方じゃない。
大体、誰もが自分の正義がある。それなのに何を基準に分けるんだよ?主観?客観?」
喋りながらもその手には再びエネルギーが集束していく。
しかし今度は先程のような球体ではなく、剣を象ったような形に。
そしてそれは具現化し、一般的に『剣』と言われて想像するようなオーソドックスなものではあるが、それでもハッキリと目に見える形となった。
「字で表すなら俺は『優しき者』で優者ではなく『勇ましき者』で勇者だ。
そして────」
剣を上へ掲げ───
「罪には罰を。人を殺めた者には死を。」
振り下ろされた剣は最後の盗賊の首を通り過ぎ、豆腐でも切るかのように頭と胴体を切り離したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます