第61話:お着替え

『んぽぽぉ』

「ありがとう麿。一滴あれば十分だって言ってたけど、ティースプーン一杯分にはなったな」

『んぽぉ~』

「花が元気になってたから、蜜が溜まったにゃよぉ」


 ダンジョンに戻って麿に事情を説明すると、それならすぐ採れるというのでさっそく三階へ。

 麿に小瓶を渡して、彼に蜜の採取をお願いした。


 麿曰く、花を持ち込んだ時の状態だと蜜はほとんどなかったらしい。

 でもダンジョンの空気に触れ、少しずつ元気を取り戻した花には段々と蜜が溜まって来ていたらしい。


『ぽぽぉ』

「でも明日には枯れるだろうって言ってるにゃ」

「そっか。うまく種ができるといいな。よし、さっそくこれを持って王子のところへ──」

「ま、待ってっ」


 ルーシェから待ったが掛かった。

 

「お、王子様のところに行くのよ? さっきは流れでこのままだったけど、今度はちゃんと正装しなきゃダメよ!」

「え、正装って言ったって……」


 着替えの服はあっても、今着ているものとそう変わらない。

 でも確かに、一国の王子様に会いに行くのに、この汚れた服じゃマズいよなぁ。


『んぽぉ』

「麿が任せろって言ってるにゃ」

「え、任せろってどういうこと?」

『うっぽぽぉ~』


 麿は弾みながら階段を上っていく。

 ついていくと、途中でうどんを呼んで何やら話していた。


 すると今度はうどんが俺の所にやって来て──正確にはミトのところだけど──ある植物とモンスターが欲しいという。

 トーカに用意できるか尋ねると、お安い御用だそうな。


「なるほどぉ。トーカは分かっちゃいましたよ!」

「何が?」

「ふっふっふ。まぁまぁ。さてマスター、綿花の設置許可をくださぁい」

「綿……あぁ、なるほど」


 綿花から綿を取り出すんだろう。けど、今からそんなことやって、どう服の準備をするっていうんだ?


 更にカイコウ蛾というモンスターを呼び出し、そいつをじゃんじゃん倒せという。

 レベルは180程度なので苦戦もしない。


 こいつは糸を吐くという攻撃をしてくる。


「その糸を集めるですぅ~」

「なるほどね! カイコウ蛾の吐く糸は、上質な絹になるって聞いたことがあるわっ。私の生まれ故郷のある大陸じゃ、カイコウ蛾は生息していなかったから、特に高級品として他所から輸入していたみたい」

「へぇ~」

「カイコウ蛾は本来、西の小さな大陸にしか生息していないのですけどぉ。そこはダンジョン生成の特典。どこだろうと、世界各地に生息するモンスターを召喚できるですぅ」


 ふぅん。

 全国モンスター博覧会とか出来そうだな。

 やらないけど。


 カイコウ蛾を召喚しては、わざと糸を吐かせて絹玉を作る。

 その絹玉を麿に渡すと、ミニ麿たちが洗ったりほぐしたりいろいろやって──

 うどんは綿花を育てているようで、小さな綿花畑の周りをうろうろしていた。


 30分もすると、そこには何故か綿生地と絹の生地が出来上がっていて、俺たちは採寸されている。


 さらに30分経過すると、小綺麗な服が完成していた。



「えぇっと、どこから突っ込めばいいのから」

「麿やうどんたちは、植物の取り扱いエキスパートですぅ。まぁスキルみたいなものですよぉ」


 スキルで作るものと、手間暇かけて作るものとでは完成度が違うそうだ。

 しっかしりた物を作るなら、やっぱり手間暇かけたのが一番。


「ですのでぇ、このお洋服たちは防具機能はまったくないのでぇ~」

「いや、こんなキラキラした光沢のある服で、ダンジョン攻略なんかしないよ」


 むしろこれ着て町を歩くのもちょっと恥ずかしい。


 ご丁寧に染色までされたそれは、騎士の隊服っぽくもある。

 派手過ぎると王子様より悪目立ちするし、当たり障りのないデザインだ。

 ミトも同じデザインで、ズボン無し。長靴を履いたなんたらにより一層近づいたな。


 ルーシェは乙女感マシマシになっていた。ふりるが眩しい。

 トーカは薄桃色のワンピースを着て、くるくる回っている。こうしてみると、バレリーナ教室に通う小学生みたいだな。


 ちょっと時間が掛ったが、蜜入りの小瓶を持って町へと向かう。

 そしてまたあの高級宿へ──。






「これだけあれば数本分のポーションが作れそうだ」


 小瓶を見てクラウティス王子が歓声を上げた。


「ありがとうタクミ殿!」

「他の材料はあるのですか?」

「うん、大丈夫だよ。数種類の薬草を配合して作るエキスが必要だけど、それは準備出来ているからね」


 ただそれがあるのはお城の、王子専用の研究室。


 王子様が研究?

 と思ったけど、研究は研究でも魔法の研究室だそうだ。


「魔法王国っていうぐらいだから、やっぱり魔術が盛んな国なんですかね?」

「おや、君は知らないのかい? 我が国は古くから魔法が栄えた国でね。魔術師を志す者のほとんどが、我が国の学院で学んでいくんだよ」

「へぇ~」


 まるでファンタジーの世界だ。

 って、ファンタジー異世界だったか。


 その国の王族なので、やっぱり代々高い魔力を持っているそうだ。

 王子は今、少ない魔力でも使える生活に便利な魔法の研究をしているという。

 

「問題は、その薬をどうやって彼女の下へ届けるか……だな」


 深刻そうに俯く王子。

 薬を届ける程度で悩むなんて。まぁ一国の王子たるものが、気軽に「荷物のお届けでーす」なんて出来ないもんな。


 よし、じゃあここは──


「もしよければ、俺がその薬を届けますよ」


 どーんとお任せあれ!

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