第60話:悪党をばったばったと蹴り倒す

 いきなり襲ってこられたら、誰だって自分と仲間の身を守るために反撃するよね?


「うっ……な、なんなんだ……こいつは」

「つ、強い……」


 向かって来た男たちの腕から逃れ、咄嗟に出たのはやっぱり足。

 どうやらこの靴は、生物を蹴ってもビッグの魔法付与効果は発動しないようだ。

 けど吹っ飛ぶことに変わりはない。


「いったい何の目的かは知らないが、仲間を傷つけようとするなら容赦はしない」


 恰好からすると騎士……っぽくはあるんだけど、それは俺の先入観かもしれない。

 もしかするとお坊ちゃま風の人は貴族の息子で、その人を誘拐しようとしている悪い貴族の私兵とかそういうのかも?


「それはこちらのセリフだ! ものども臆するなっ。かかれ!!」


 やっぱこうなるのか。

 

 さすがに剣を抜いて突撃してくる奴らに手加減なんかしていられない。


 ルーシェが眠りの魔法で二人を眠らせ、ミトが蜘蛛の糸みたいなので三人の足を絡めとり、俺が蹴りで二人をふっ飛ばす。

 あれよあれよと三人が失神したところで、さっきのおぼっちゃま風の人が飛び出して来た。


「すまなかった!! 彼らは私の部下たちなのだ! 危害を加えようとしたわけではない。許してやってくれ!!」

「え……ぶ、部下ぁ!?」


 部下って、どういうこと?


「お前たちも勘違いだ! わたしは彼らがもつ月光の微笑みという花を譲ってくれと頼んでいただけだっ」

「は、花を? 殿下、いったいどういう……」


 でんか?


 でんかって、オール電化のこと?


 ……それとも、殿下?


 つまり


「王子様!?」






 俺たちは町一番の高級宿にやって来た。そこの最上階が貸し切り状態だ。


「この方は魔法王国ルーンの第一王子、クラウティス・ルーン・ラティス殿下ひゃ」


 最後のしまりのない口調になっているのは、俺に蹴られて吹っ飛んで顔面を打ったからだ。


 騎士っぽい人たちは、正真正銘の騎士。

 しかもクラウティス王子の近衛騎士たちだった。


 そんな人たちを、俺は悪党と勘違いして蹴り飛ばしてしまった訳だ。


「すみませんすみませんっ。いきなりだったんで焦って蹴り飛ばしてしまってっ」

「い、いや。我々も事情を説明せずに、掴みかかろうとしたわけなので」


 そう。この人たちは最初、武器を手にすることなくただただ王子に迫って来ただけだった。

 つまり、無断で城を飛び出し、しかも隣の国まで来てしまった王子を連れ戻しに来ただけだったのだ。


 襲われたと勘違いした俺が、足蹴りにしてしまったって訳だな。

 うん。


「ほんと、すみません。大丈夫でしたか? 骨は?」

「ま、まぁ折れてはいたが、もう治療をしたので大丈夫ですよ」

「そ、そうですか」


 近衛騎士の中に、治癒魔法を使える人がいたようだ。

 さ、さすがだね近衛騎士!


 しかし、月光の微笑みが欲しいと言っていたあの人が王子だったとはなぁ。


 王子様にとって大切な人……婚約者とかかな?

 女の人だって言ってたし。


 でもやっぱり聞いちゃマズいよな。


「それで殿下。花とはなんですか?」

「月光の微笑みは、あらゆる状態異常効果を解除するためのポーションの材料だ」

「あらゆる……アリエーチェ姫のためにですか?」


 王子は頷く。


 姫……王子の妹?

 それとも異国のお姫様で、婚約者とか?


 どちらにしろ、眠り続けているってことだよな。


「貴殿はその花を所持しているので?」

「あ、しているというか……でも今は手元にありません」

「花の世話をしてくれている者に預けているということだ」

「花の世話? 栽培かなにかで?」

「ははは。ミショラン。花は花でもダンジョン産だ。栽培などできはしないさ」


 は、ははは。

 それがどうやら出来るようなんだなぁ。


「出来るにゃよ」

「ほらみろ、出来ると……えぇ!?」

「えぇ!?」


 王子様と俺の「ええ!?」はほぼ同時だった。


 おいミト。何ぽろっと本当の事言ってんだよ!


 一斉に視線が集まり、どういい訳したもんかと悩んでいると……


「栽培が出来るかどうか、まだ分からない状態です。花は地上の空気に触れることで、しおれてしまう性質があるとのことで」

「ル、ルーシェっ」

「タクミ。黙っているより、話せることは話してしまいましょう。その方が説明も面倒にならずにすむし」


 は、話せること?


「栽培できるかもしれないということか!?」

「あくまで『かも』です。それに、栽培出来たとしても次に花が咲いた時には別の効果になってしまっているそうですから」

「そ、それでは困るっ」

「ですが──」


 ルーシェは種から栽培した花が、どんな状態異常でも解除する効果から、解除できる異常状態がランダムになることを告げる。

 眠りから目覚めさせる効果が付くかどうかは不明。

 となると、やっぱり今の状態で欲しいよなぁ。


「頼むっ。どうか花を──いや、蜜を分けてはくれないか!?」

「蜜? 花そのものではなく?」


 王子は頷く。


「蜜さえあればポーションは作れるのだ。一滴で小瓶一本分のポーションが作れる」

「え、たった一滴の蜜から? というか、ポーションの錬成方法をご存じで?」


 そこで王子はふっと笑った。


「このわたしを誰だと思っているんだい? 魔法王国の王子という肩書は、伊達ではないんだよ」


 ──と。

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