第59話:捕まっちゃうの?

 バトルロワイヤル階層は単純だ。

 トーカに意見を聞きながら、相性の悪いモンスターを何種類か配置。

 例えば、AはBが大好物で、BはCが大好物。CはDが大好物で、DはAが大好物。

 こんな風にすれば数の調整もできるだろう。


 他にも、それぞれ生息エリアを分けて、ある程度住み分けが出来るようにしてある。

 階層の真ん中に共通エリアを設けて、腹が減ったら命懸けで喰え!


「みたいなさ」

「……鬼だわ」

「……悪魔にゃ」

「その鬼畜さを冒険者相手に発揮していただければ、ランクも簡単に上がりますのにぃ」


 モンスター相手だから出来るんであって、人相手に殺し合いのスタジアムなんて作れるか!


 とはいえ、バトルロワイヤル階層もすぐに開幕出来るわけじゃない。

 まぁまずはある程度増えてからじゃないとな。


「さて。それじゃあさ、せっかく町を移動したんだしこっちのダンジョンも覗いて行かないか?」

「あ、賛成よ。花が出たってことは、それなりにランクのあるダンジョンだってことでしょうし」


 他のレアイアイテムも期待できるんじゃないかってのが、ルーシェの話だ。

 いいねいいね、レア。


 そういやレアアイテムなんて、最初のスキルカード以来これといって出てないんじゃないかな?

 強力な武器とかさ、強力な魔法スキルカードとかさ、そういうの期待したいじゃん。


「じゃあダンジョンの地図と、情報を買いにギルドへ行こうか」


 ってことで町へと繰り出した俺たちは、昨日に引き続き冒険者ギルドへとやって来た。

 ついでに小遣い稼ぎの出来る依頼でもあればなぁと思って、依頼が張り出された掲示板を見ていると──


「あぁ、彼らだよ。月光の微笑みを買い取ったのはね」


 そんな声がして、たぶん俺たちの事だろうと思って振り返る。

 それとほぼ同時に、同年代の男が詰め寄って来た。


「月光の微笑みは!? 花はどうした!!」


 ぐいっと胸倉を掴み、男が声を荒げる。


「え? あ、へ?」

「だから花だ! ギルドから買い取ったのだろうっ」

「え、あ……買い取ったけど。あの、どちらさま?」


 俺がそう尋ねると、男ははっとなって掴みかかった手をほどいた。


「す、すまない。急に大声を出したりなどして」

「いえ……あの、花を探していたんでしょうか?」

「そ、そうなのだ! どうしても月光の微笑みが必要でっ」


 ということは、誰かが魔法では解けない状態異常にでもなっているとか?


「魔法で治療はできない?」


 そう尋ねると、男はこくりと頷いた。


「詳しくは話せないが、その……薬で眠った女性が、目覚めなくなってしまって」


 睡眠薬?

 

 で、女性には司祭や魔術師の魔法で解毒を試みたらしいんだが、まったく目覚めないそうな。

 もうかれこれ一年ぐらい眠り続けているって。


「え? い、一年も!?」

「しっ。声が大きいっ」

「あ、すみません」


 睡眠薬で一年も眠り続けるものなのか?

 いや、ここは異世界だ。地球の常識で考えちゃダメだよな。


 どうもその女性は、この人にとって大切な人みたいだ。


 譲ってやりたいのはやまやまだけど、せっかく栽培しようとしたところだったしなぁ。

 今刈り取ったら種は出来ないし……どうしようかな。


「あの、暫く待って頂けませんか? 今ちょっと手元になくって」

「誰かに売ったのか!?」

「いえ、そうじゃないんですけど」

「では──はっ!? もしや枯れてしまった……のか?」


 枯れてはいない。むしろダンジョンに移してから元気になっている。

 と言っても、麿曰く、あまり長くは咲いていないだろうってことだけど。


「ち、知人に預けているんです。枯れ始めているからその……少しでも花が元気にならないか、世話をお願いしていて」

「そ、その知人を紹介して欲しい! お金なら支払う。ギルドから買い取った金額の十倍支払おう。望むならそれ以上でもっ」

「え? いや、あの……ちょっと待っててもらえませんかね? その知人、人見知りなもんでっ」


 嘘はついていないと思う。


「まずは確認してきますから。花の状態を」

「た、頼む。ぜひとも売ってくれ。頼むっ」


 よっぽどその女性のことが大切なんだろうな。

 恋人だろうか?


 しかしこの男、身なりはいいし、言葉使いからもいい所のおぼっちゃまっぽいな。


 縋るようにしがみつく男性を引き離し、自宅ダンジョンに向かおうとするが……男も一緒に着いて来ようとする。

 それは困るんだけどなぁ。


「あの、お泊りの宿はどちらですか? さっきも言ったように知人は人見知りなんで、知らない人が一緒だと家に入れてくれないんですよ」


 入れてくれないというか、入れたくない。

 なんとか宿で待っててくれるように頼むと、男は渋々と言った感じで了承してくれた。

 その彼が泊る宿を教えてもらおうとギルドを出て暫く歩くと──


「今だ! 捕らえろ!!」


 そんな声が聞こえ、俺たちはあっという間に取り囲まれた。


 しかも、

 俺たちを取り囲んでるこいつらって、ガッチガチのフルプレートメイルを着こんだ……


「どこぞの騎士様ですか?」


 というような連中だった。


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