第58話:うぽぽ

 麿に鉢植えを預けると、彼はそれをじぃーっと観察した。

 土に指を突っ込んでみたり、花の中をのぞき込んだり。


「どうだ?」

『うっぽ!』

「大丈夫って言ってるにゃよ」

「本当か!? 栽培出来るなら、枯れるのも気にしなくて済むか」

『ぽぽ。うぽぽ』


 麿はミトを通じて教えてくれる。


 この花は短命だから、枯れるのは仕方ない……と。

 麿が栽培したところで、まもなく枯れる。


 花にはおしべとめしべがあるので、これ一輪で実をつけ種になるという。


「ただダンジョンの土でしか芽を出さないし、おしべの花粉は地上の空気に当てられていると受粉に適した状態ににゃらにゃいって」


 だから地上で栽培するのは不可能。

 

「え、ずっと地上に置いてあったはずだぞ、それ」

『うぽぽ。んっぽぉ』

「ニ、三日あれば受粉させられるから、なんとかギリギリ間に合うだろうって言ってるにゃ」

「そうか……麿、ダメだったとしても気にしなくていいからな。ルーシェの呪いは暫く解除しなくていいし、したくなったらその時また探しに行くさ。な、ルーシェ」

「えぇ。何年か、それとも何十年か先になって、もう呪いはいらないってなったら探しにいくから大丈夫よ」


 そうは言ったが、麿はがぜんやる気なようだ。


 さっそく地下二階に下りて行って、土に慣らすらしい。


「二階なのか?」

「マスター。その花はダンジョンボスを倒した際に発せられる魔素を取り込んで発芽から開花までするお花ですぅ。ダンジョンボスと言えば、そのダンジョンの最下層と決まっているですからぁ」

「あ、そうか……でも二階は──」


 牧場なんだよなぁ。

 草食モンスターに踏み荒らされないか心配なんだけど。


「麿。花専用に地下三階を増設しようか?」

『うっぽ! ぽぽぽぽぽぽっ』


 うん。喜んでいるみたいだ。


 麿とトーカに意見を貰いながら、花を咲かせるのに最適な環境の地下三階を作る。

 そしていずれはボスモンスターになる奴も配置しなきゃな。


「問題は、ある程度ランクのあるダンジョン……っていうアバウトな条件だよなぁ」

『んぽぽぽ。うぽぉ』

「それにゃら大丈夫にゃ。一度咲いた花から取れた種は別の品種になって、開花条件が緩くなるにゃよ」

「別の品種……え、ちょっと待ってくれ!」


 それじゃどんな状態異常でも治すポーションの材料には……。


『うぽ。うぽぉぽっぽ』

「花によって解除できる状態異常が、ランダムになるにゃけにゃ」

「ラ、ランダム?」


 つまりはこうだ。

 花Aは毒状態を解除でき、花Bは麻痺を解除できる──ポーションの材料になる……と。


「なるほど。元の花はどんな状態異常にも対応できるが、その種から咲かせた花はどれか一つだけなんだな。

「にゃ~。なるべくたくさんの種を取らないとダメだって言ってるにゃよ」

「たくさんの種?」

『うっぽ』


 たとえば十種類の状態異常があったとする。

 種から咲かせた花が九輪しかなくって、九種類の状態異常を回復できる花になったとする。

 例えば毒を解除できる花が単体受粉によって種をつけた場合、その種から咲く花は毒状態を解除する花にしかならないそうな。


「つまり最初の種で、全種類咲かせられなかったら……」

『んぽぽ』

「答えは二つにゃ。この先も全状態異常に対応した花は咲かにゃいか、今度、もう一度別の月光の微笑みを持ち帰って完全補完するかにゃ」


 そっか。機会があればまた花を持ち帰ればいいのか。

 とはいえ、なかなか難しいだろうな。

 滅多にお目にかかれない代物だし。


 とりあえず花は麿に任せよう。

 その為にもまずは地下三階を増設することにした。






「洞穴じゃないとダメなの?」


 ルーシェは洞窟の前に立ってそう尋ねて来た。

 地下三階は特に拡張もせず、森タイプにして半分ほどの面積を使って山を設置。

 山というより、断崖絶壁か。高さは100メートルほどとそう高くもない。

 そこに洞窟を設置し、花はそこで栽培される。


「ダンジョン内の太陽は偽物ですけどぉ、実物の太陽と同じ効果を持っているですぅ。月光の花は太陽光を嫌いますからぁ」

『うぽぽぉ』


 麿は鉢植えを持って洞窟の中へと進む。

 まぁL字になっただけの一本道洞窟なので、迷うこともない。深さだって100メートルほどだし。


 洞窟の壁にはヒカリゴケを転々と生やし、そこそこの明るさも確保してある。

 その一番奥で、麿は先に地面に穴を掘った。

 掘った穴に鉢植えの土ごと花を植え、優しく土に慣らしていく。

 最後に自身の体を揺らして白い粉をまぶすと立ち上がった。


『ぽ』

「これでいいにゃ」


 最後の粉はなんだったんだろう……。


 

 翌朝。朝食を済ませて地下三階へ、花の様子を見に行った。

 

「お。なんか葉っぱとかシャキーンってしてないか?」

「そうね。花びらにも張りが出て、元気になってるみたい」

「ダンジョンの方がよかったんにゃねぇ~」


 麿がじょうろを持ってやってくると、花の周りに申し訳程度の水を差していく。


「それだけでいいのか?」

『うぽ』

「少しでいいにゃって」

『うぽぽぉ』

「あと出来ればモンスターを数種類配置して欲しいそうにゃ」

「モンスターを?」


 モンスターを倒すと魔素が漏れ出る。魔核を破壊して出てくる、あの黒いもやもやっとした奴だ。

 そのほとんどはダンジョンに吸収され、再びモンスターを形成するための素材となる。

 月光の微笑みはその魔素を栄養にして成長するそうだ。


「そういやここだと、モンスターは自然繁殖で増えてるんじゃなかったっけ?」

「以前はそうでしたけどぉ、最近はようやくダンジョンがリポップさせるようになりましたよぉ」

「……リポップするのか、やっぱり」

「ある程度、ダンジョンランクが上がればそうなりますぅ」


 また出たダンジョンランク。


「ダンジョンランクはぁ、ダンジョン内でモンスターが死んで魔素や、それ以外の生物が死んだ時に出る怨念とかぁ思念が一定量に達すると上がるんですぅ」

「それ以外の生物……」

「主にダンジョンを攻略しようと入って来た冒険者とかですねぇ。時々普通の動物とかも入って来ますけどぉ」


 が、ここには冒険者も動物も入って来れない。

 

「つまりここではモンスターを倒して発生する魔素だけでしか、ランクを上げられないんですぅ。人の怨念が一番いいんですけどねぇ」

「それはなしな。けど魔素か……あんだけスライムチャレンジしていたのに、ようやくリポップできるランクになったってことは──」

「あ、レベル1スライムの魔素なんて、ゴミみたいなものですからねぇ」


 ……ゴミなのか。


 結局、草食モンスターが、植物モンスターを食べるときに発生した魔素によって、ここのランクは上がったらしい。

 モンスター同士の共喰いでもランクがあがるっていうなら、それ用の階層を作ってもいいな。

 だけどそうなると花を植える階層を変更しなきゃならないし……。


「トーカ。ここを最下層にしたまま、階層を増やすことは出来ないのか?」

「え? 出来ますよ。地下一階と二階の間に、新しく拡張すれば一階ずる下がっていくだけですから」

「できるのか。じゃあやって貰おうかな。階段の位置はそれぞれのすぐ横に作ってくれ。その方が麿の移動も楽だろうし」

「了解しました~。でも何に使うんです?」


 それはもちろん……


「魔素をどんどん発生させるための……モンスターバトルロワイヤルのためさ」




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タイトルが思いつかなかったんだ。

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