第55話:その頃の勇者様②

 勇者であるボクがこの世界に召喚されて三カ月。

 ついにレベルは99を超え、なんと150まで上がった!

 が、驚いたことに、この世界のカンストレベルはどうやら999のようだ。

 

「はぁ……ようやくレベル150かのぉ」

「しかし陛下。僅か三カ月でレベル1から150というのは、驚異的な早さでありますから」

「まぁ主がそう言うのであれば……して、作戦はいつ頃決行できそうなんじゃ?」


 フッ。

 驚異的なレベルアップか。そうだろうそうだろう。

 ボクのパートナーである桃井愛奈ももいあいなは、ちょっと変わったボーナスを授かっている。


 彼女のボーナスは、その名も「経験値ボーナスday」。

 スーパーのポイントdayのように、この世界の特定日に合わせて経験値が倍増する。

 暦の2が付く日は経験値二倍。

 5が付く日は五倍。

 10、20、30はなんと、十倍だ!!


 このボーナスを生かし、王宮騎士や司祭、宮廷魔術師らの力を少しだけ借りて、ボクらはぐんぐん成長した。

 愛奈にはヒーラーになって貰うべく、魔力を優先的に上げて貰っている。

 彼女自身、可憐な聖女は自分にこそ相応しいと、やる気満々だ。


 しかし……作戦か。

 ついにボクたちが勇者として、魔王を倒す旅に出るときが来たのか!


「王様、ボクたちはいつでも出立の準備は出来ている。確かにレベルは150だが、それは仕方のないことです」

「アカザキ、仕方ないとは?」

「考えても見てください。この世界にはレベルが存在する。だけどレベルは一度に1から999に上がることは無い。どれだけ実力があり、強かろうと、ひとつずつしかレベルは上がらないのだ。そうだろう、騎士団長?」


 ボクの言葉に騎士団長は頷く。

 

「数字上では確かにレベル150ですが、勇者であるボクがその程度である訳がない!!」

「赤崎くん、カッコいい~」

「ありがとう愛奈。君もステキな聖女だよ」


 愛奈は教会が用意した法衣ではなく、オーダーメイド品の特別仕様だ。

 モデルをやっていただけあって、彼女はプロポーションがいい。

 そのボディラインを惜しむことなく曝け出した、ちょっと大人な法衣を身に纏っている。


「なるほど……確かに勇者殿と聖女殿のレベルは、ステータスだけでは判断できませんな」

「我らは生まれた時からレベルが存在し、幼き頃の鍛錬によってもスキルを得て、そのレベルは上がっております。しかし勇者殿たちはこの世界に来た三カ月前からレベルが出現している──と考えれば、確かに数値だけではその強さは測れませんな」

「その通りです騎士団長、高司祭殿。であるからして。陛下、魔王討伐の命、どうぞお与えください!」


 ボクに負担を強いるのは心苦しいと思っているのだろう、この王様は。

 親切なボクは自ら魔王討伐を口にし、彼の負担を和らげてやった。

 その成果もあってか、王様の表情が驚きに変わる。


「魔王……知っておったのか?」

「ふ……勇者が召喚されるというのは、そういうことでしょう?」

「うぅーむ……相分かった。勇者アカザキよ。頼む……魔王を──いや、魔王子を連れてくるのじゃ!」


 魔王子?

 魔王の息子か。

 しかし倒すのではなく連れてくる?


 いったいどういう事なのかと思っていると、ボクらは謁見の間から別室へと案内された。


 そこはピンクを基調とした乙女チックな部屋で、愛奈が意外なことにときめいていたようだ。


 豪華な天幕付きベッドで眠っているのは、十七、八歳ぐらいの女の子。

 眠っているけど、きっと可愛いんだろうなってのは予想がつく。


「娘じゃ……」

「姫、ですか?」


 王様が頷く。

 かれこれ一年近く眠っているのだとか。


「え!? い、一年?」

「呪いじゃよ……隣の魔国の王子のな」


 魔の国……やはり悪か!


「我が国と隣のルーンはここ数十年、緊張状態が続いておってな。一年前にルーンの魔王子が和平の申し出だと言って娘に花束を贈ってきおった」

「花……もしかしてその花に呪いが?」


 王様は頷き、高司祭も視線を落として項垂れた。


「眠りの呪いなのです。私や他の司祭たちが何度も解呪を試みましたが……」

「全てダメじゃった……。宮廷魔術師長に調べて貰ったが、この呪いは術者でなければ解けないであろうと」

「なるほど。それで魔王子を倒すのではなく、連れて来なければならないのですね」

「その通りじゃ。出来るか?」


 こういった場合、実は倒す方が楽で、生かして連れてくることこそが高難易度になる。


 ふっ。

 だがボクは誰だ?


 ボクは勇者だ!


 勇者に不可能はない!!


「お任せあれ! 必ずや、その魔王子とやらを連れ帰りましょう!!」

「本当か!? 娘を──アリエーチェの命を救ってくれ!! 目覚めたなら、その時には勇者殿を娘の婿として迎え入れようぞっ」

「は! お任せくださいっ」


 ふ……ふふふ。


 一国の王子か。悪くない。

 国王が引退すれば、つまりボクが王様になる!!


 これでこそ異世界転移だろう!


 さぁ、待っているがいい魔王改め魔王子よ!


 この勇者赤崎が貴様を倒してみせる!


 いや、捕まえてみせる!!


 

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