第54話:濃厚な
「ん……ちゅ。ん……」
「ル、ルーシェ?」
「んちゅ……ちゅうぅっ」
「いつもより激しいにゃ」
戦闘が終わると、ルーシェが駆けて来てレベルドレインの催促をしてきた。
そりゃそうだ。いったいどのくらいのレベルが下がったんだ?
しかも何故か彼女は、一度のレベルドレインで全部を賄おうとしない。
「な、なんでこまめにレベルを吸い取っているんだい? いつもみたいに一気にばぁーって持って行けば……」
「んちゅ……ダ、ダメかしら?」
真っ赤に染まった頬。潤んだ瞳。
そんな顔で見つめられて「ダメです」なんて言えるほど、俺は出来た人間じゃない。
顔が緩むのが自分でも分かる。
「ダメじゃないさ。ル、ルーシェのしたいようにしていいから、うん」
「ありがとうタクミッ。んちゅ、ちゅっちゅ。んちゅうぅ」
こんな綺麗な子に掌を吸われるとか、嬉しくないわけがない。
今の俺、きっと鼻の下伸びてるよな。
ミトが俺のことをじと目で見ているけど、気にしない。気にしないもん!
けどほんと、どうしたんだろうなぁ。
いつもと違う戦い方に、いつもより激しいレベルドレイン。
考え事をしていると言っていたけど、いったい何をそんなに悩んでいるのか。
落ち着いたらもう一度訪ねてみよう。
で、ようやくルーシェのレベルが戻った頃、顔を赤くした男性がひとりやって来た。
「あ、ありがとうございます。いやぁ、お強いんですねぇ。しかし、浮遊魔法と蹴りスキルをあんな風に使っている人は初めて見ましたよ」
と、交戦中だったパーティーのリーダーらしき人がぺこぺこ頭を下げる。
年のころは30代。俺より人生の先輩に、こうして頭を下げられるのはなんだかむず痒い。
あと、どうやらずっと俺たちのことを見ていたらしい。
非常に恥ずかしい。
「靴にもちょっと変わった魔法効果が付与されてまして。まぁそれもあって変わった戦闘スタイルが役立ってます」
「蹴り主体のスタイルですか。珍しいですね。や、とにかくありがとうございます」
ぺこぺこと何度も頭を下げる彼の後ろでは、被害にあった馬車をどう修理するかという話が行われていた。
修理に半日は掛かりそうだとか、またモンスターが襲って来たらどうするのかとか、いろいろ声が聞こえてくる。
で、考えた。
「御者さん、今夜の休む場所までどのくらいですか?」
昼を過ぎたばかりだから、野宿する場所までまだ結構遠いかもしれない。
「あと50キロほど行ったところに町があって、今夜はそこに泊ることになってるんですよ」
「50キロか。ミト」
「なんだか嫌な予感がするにゃ~」
俺はミトを手招きして、被害を受けた馬車へと向かう。
「修理は安全な場所で行った方がいいでしょう。ひとまずここを離れませんか?」
「次の町まで転がすのは無理ってもんですわ。それよりお願いがあるんですが……」
たぶん馬車の修理が終わるまで、護衛してくれってことなんだろう。
だけどそれはお断りしなきゃならない。目的の花が枯れる前にコキットへ到着しなきゃならないから。
だから提案した。
「俺とこのミトのスキルを使って、この馬車を瞬間移動させます」
──と。
「"テレポート"にゃ~」
ミトの疲れたような声が聞こえると、視界が一瞬にして変わった。
といっても、街道、草原、木々、岩ごろごろな代り映えしない風景が続いているだけだ。
「よし、次は俺の出番だ、ミトは少し休憩な」
「に、にゃあぁぁ」
今俺とミトは車輪が壊れた馬車の屋根の上に座っている。
中には乗客が乗り込み、ルーシェも一緒だ。
ミトのテレポートで馬車を数百メートルぐらいで瞬間移動を繰り返す。
視界の悪い場所は俺が馬車に浮遊を付与し、馬車から下りて後ろから押す──というよりは、キックボードみたいな感じで足で蹴って漕ぐ感じかな。
ただ勢いよくやると猛スピードが出るし、馬車自体の操作も難しいから、こまめにしか漕げない。
こっちの馬は俺たちが乗っていた馬車の方に繋いで、町まで連れて来て貰っている。
時々変な方向に馬車を漕いでしまうこともあったが、御者の人の指示で軌道修正をし、夕方には町へと無事に到着した。
「い、いやぁ……なかなか凄い旅でした」
「強行突破しましたが、俺たちも急いでいるのでそちらの護衛はできなかったし、だからって見捨ててもおけなくって。すみません、かなり揺れたでしょう?」
「いえいえ、普通に乗っているのとそう変わりませんでしたよ。ただ一瞬で景色が変わる光景になれなかっただけで。いや、助かりました」
そう言って御者は頭を下げ、今夜の食事代にと謝礼をくれた。
ありがたく受け取って、御者お勧めの店で夕食を取る。
その間もルーシェはため息を何度も吐いていた。
今夜の宿は乗合馬車組合が用意している宿だ。
簡素な宿だが、ベッドがあるだけで十分だ。もちろん、この宿代も乗車賃に含まれている。
その宿の部屋で、俺はルーシェと向き合っていた。
「悩み事があるなら……俺が聞いてもいいようなことだったら、聞かせて欲しい」
「タクミ……」
「んにゃ~、ゴロゴロ」
ベッドでゴロゴロと喉を鳴らすミトを無視して、俺はルーシェの瞳をじっと見つめた。
視線を逸らした彼女は、ちらちらと俺を見て、それから意を決したように真っ直ぐ視線を向けた。
「あのねタクミ! 月光の微笑みが見つかったら、私の呪いは解けてしまうわっ」
「そ、そうだね。それが目的の旅だったろ?」
「えぇ。そう……そうなのよ。私の目的はこの呪いを解くため。そして……あなたとの契約も、呪いの影響を補うためだったわ」
そう。レベルが簡単に上がる俺は、呪いでレベルが下がる彼女にとって最適なパートナーだったんだ。
最適な……
あ、
あれ?
じゃあさ。呪いが解除されたら、もう俺は必要ない?
だって元のレベル以上はドレイン出来ない訳だし。
呪いが解けたらそもそもドレインする必要もなければ、ドレインも出来なくなるってことじゃ。
俺……用無し?
「でもねタクミ! ……タクミ? ねぇタクミ??」
なんだろう。急に眩暈がしてきた。
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エロくないんだからね!!!!!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897457813
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