第52話
肉の種類──いや、家畜モンスターの種類も少しずつ増やし、充実した食料事情ももうすぐ完成。
畑や家畜の世話は、麿とうごんに任せ、俺たちは日々炭鉱ダンジョンでレベル上げに勤しんだ。
「なかなか花、ドロップしないなぁ」
「そうねぇ」
俺のレベルだけで言えば、レベルは280だ。
鉱山の最下層に生息するモンスターがレベル270で、ボスと一緒に出てくるレアモンスターが285。ボスは290だ。
レアモンスターが出て来た時には一時的にレベル295まで上がるが、あとでルーシェにレベルドレインして貰うのでまた下がる。
まぁ安定して270から280を行き来しているんだけども。
鉱山に籠って一カ月。
その間にボスを三度討伐したが、花は咲かず。
ここのダンジョンランクだと無理なのかなぁ。
「他の冒険者からも、花が咲いたって話は聞かないしなぁ」
「まぁ情報を出し渋る冒険者もいるから、一概には出ないとは言い切れないのよね」
「なんで黙っておくんだ? ギルドに行けば情報を買い取ってくれるんだろ?」
ボスドロップなら、それなりの金額で売れるらしい。
実際にはドロップじゃないけど、タイミング的にはそう思われるだろう。
花が咲いた。
ただそれだけの情報に、ギルドはお金を払ってくれるんだ。
そんなん、ワクワクして売りに行くだろ?
「情報料より価値のあるアイテムだったら、誰にも教えずに他の人が情報を売るまで黙っておいた方が、アイテムの価値がもっと上がるじゃない」
「逆にドロップ情報を操作して、ゴミカスばっかり出るって流せば、ボス目的も少なくなるにゃ」
「そうですねぇ。ライバルを少しでも減らせれば、そのアイテムを独占できますですしぃ」
……人間って……汚い生き物だな。
今日も一日、お疲れ様!
特に目ぼしいアイテムもなく、三日に一度の清算タイムのために迷宮都市へとやって来た。
インベントリのおかげでアイテムはため込んでから、まとめてギルドに売りに行く。
このタイミングでついでにいい情報はないかとか、鉱山で出来る依頼はないかとか見ているんだよね。
「あ、タクミさん。そろそろ来る頃だと思っていましたよ」
「そろそろ来ました」
週1で、ため込んだアイテムをごっそり持って来るもんだから、ギルドの職員さんにも覚えられてしまった。
「あなた方に会いたいってパーティーがいるのですが、お時間よろしいですか?」
「え? 俺たちに?」
「はい。以前、地下の迷宮で助けて貰ったことがあるっていう方々です。ボス戦での」
あぁ、あの人たちか。
会いたいって、なんだろう?
隣接する冒険者専用の宿にいるって言うんで、職員の人が呼びに行くと言う。
暫く待つと彼らがやって来てが、その顔は随分とにこやかだった。
「やぁ、久しぶりだな。鉱山に行っているそうだけど、調子はどうだい?」
「いやぁ、目的のアイテムがなかなか出なくって。まぁ出るかどうかも分からないんですけどね」
パーティーリーダーが握手を求めてきたのでそれに応じながら、こちらの近況を話す。
すると目を輝かせ、うんうんと頷いてから彼は満面の笑みを浮かべた。
「そりゃよかった。実は北のミシュリクン王国で……」
そこまで言うと、彼は小声で囁くようにして話した。
「従兄がギルド職員をしているんだけどさ、月光のなんとかって花が見つかったって情報があってね」
「え!? は、花?」
「そう。ボスを倒した後にぽんっと咲いたらしい。鑑定すると、どんな異常状態も治せる薬の材料っていうんだよこれが」
まさに月光の微笑み!
「ただ買い手がなかなか付かなくって、枯れる前になんとか売り出したいらしくてさ」
「か、枯れるんですか!?」
「そりゃあ植物だからね。今は魔法でなんとか、枯れるのを遅らせているようだけど。持って半月だろうって」
ルーシェを振り返ると、彼女も驚いたような嬉しいような、それでいて不安そうな表情を浮かべている。
「急げば半月も掛からず、ギルドのあるコキットまで行けるだろう。割高の馬車になるけどな」
「他の買い手が現れない様、先にギルドに手付金を支払った方がいいですよ。手付金はここのギルドでも支払えますから」
「でもどうやって向こうのギルドに、購入希望者がいるって伝えるんです?」
と俺が尋ねると、あっちのパーティーみんなして首を傾げた。
「ん? 君は知らないのか?」
「伝言水晶があるじゃないか。ギルド同士は水晶を介して言葉のやりとりができるんですよ」
「水晶?」
「す、すみません。タクミっては田舎から出てきたみたいで、常識とかもちょっとズレてるの。うふふ」
あぁ、普通に常識なんですね。
なんでも伝言水晶はマジックアイテムみたいなもので、指定した水晶を通して向こう側の人と会話でのやりとりができる、要は携帯電話みたいなものだ。
なるほどなるほど。
さっそく職員のお姉さんに伝えて、そのコキットという町の冒険者ギルドと話をつけて貰った。
ボス討伐後に咲いたってのもあって、安いものではなかったが、逆に高級品でもなかった。
「状態異常を回復させるのは、神聖魔法にもありますし、魔法的な呪いにしても魔法で治せるものもありますから」
「え、じゃあルーシェのは?」
と尋ねたが、彼女は首を左右にふる。
「先生に頼んで解除の魔法をかけて貰ったけど、ダメだったの」
「特殊な呪いを受けられているのですか? まぁそれだと花を試すのはありでしょうねぇ。では向こうに販売の差し止めを依頼しておきますね」
「よろしくお願いします」
これでルーシェの呪いが解ける!
教えてくれた冒険者にお礼をいい、夕食を奢るからと言ったが断わられた。
助けてもらったお礼だからと。
お礼ならあの時受け取ったのになぁ。
「これでようやく、マスターのお手々をちゅっちゅしなくてすむですのぉ」
「言い方!」
「ちゅーにゃ~」
「だから言い方!」
まぁだけど、これでいちいちレベルが下がることもなくなって、ルーシェのレベルアップもしやすくなるんじゃないかなぁ。
良かったね──と思っていたのだけど、ルーシェは浮かない顔だった。
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やっとネタがまとまりましたorz
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