第51話:どなどな

 鉱山生活が始まって半月。と言っても行きも帰りもマスターキーで、毎食時と夜は、安全絶景なマイダンジョンで過ごしているけど。

 そのマイダンジョンでは本日、ある行事が行われる。


 まぁ行事というか、餌やりなんだけどさ。


「草食モンスターはとりあえず十頭だけど、植物モンスターはどのくらいになっているんだ?」

『もっきゅん』

「百二十匹ぐらいになってるにゃってよぉ」

「おぉ、増えたなぁ」

「半分以上はDPで召喚してますからねぇ」


 あ、そうか。

 けどそれ以外は繁殖で増えたってことだし。


 その植物モンスターが本日、晴れて立派な餌になることに決まった。


「じゃあまずはここに追い込むんだな。と言っても、どうやって追い込むんだろう?」

「放牧している植物系モンスターは、下はレベル10から、上でも58ですぅ。力の差を見せつけてやれば、逃げ出しますよぉ」

「ふぅーん。じゃあ一匹は犠牲になって貰わなきゃならないのか」

「全部を追い込まないでくださいねぇ。繁殖用のモンスターまで餌になっちゃうですからぁ」


 草原で日向ぼっこをしている植物モンスターに近づき、気づいたところで地面の小石を蹴った。

 その石がソフトボールぐらいの大きさになって、マリモのようなモンスターをふっ飛ばした。

 かなり遠くまで飛んで行ったけど、どうなったのかなぁ、おいつ。


『ぎょ……』

『ざわ、ざわわ』


 飛んで行った仲間を見てから、それからこちらを向くモンスターたち。


 蹴るぞ。


 とポーズを決めると、植物たちが一目散に逃げ出した。

 壁に向かって逃げるように誘導するため、ルーシェとミトが炎の呪文を詠唱して火球を生み出す。

 植物だけあって火を嫌う。


 回れ右をして壁のほうへと逃げ出すモンスターたち。

 よしよし。


「はっはーっ。さぁ逃げろ逃げろぉ」

「マスター、悪者みたいですぅ」

「ドナドナだぁ~」


 やがて柵までやってくると、中に追い込んで扉を閉じた。

 そのまま内壁の中に入れ、それから俺たちは撤退する。


 二重になった壁の内側に三十匹ぐらい囲い込むと、次は向こう側の扉を開けることに。


「草食モンスターは来てないようだなぁ」

「まぁ来てなくても、あいつらをこっちのエリアに放てばそのうち食べに来るわよ」

「あ、来たにゃよ!」


 壁の一部に見張り櫓も建てた。そこから様子を見ていたのだが、草食モンスターエリアの森から、十頭ばかりのモンスターがやって来た。

 見た目は大きな豚だ。オークではない。

 角があって、突きをまともに喰らえば命はない。

 といってもレベル150ぐらいだから、恐れる必要はないけれど。


「おーい、飯だぞー」

「こっちにゃー」

「あいつら、群れで行動するのね」

「本来はそうですねぇ。だけど迷宮型のダンジョンだと、群れで行動するのは得策ではないので、バラバラなんですよぉ」

「得策じゃない?」


 トーカに尋ねると、群れていると餌=冒険者にありつけないことが多いからだそうな。

 冒険者は四、六人でパーティーを組んでいる場合が多い。

 草食モンスターと言ってはいるけど、実際は雑食だ。肉も食える。でなければダンジョン内では生きていけない。

 そして群れは十数頭になることが多いが、その数に対して冒険者の人数が少ない。

 餌の取り合いになるのだ。


「だからダンジョン内では群れではなく、それぞれ別行動なのか」

「はいぃ。まぁ召喚したばかりですから、今はこうして群れてはいますね」

「そのうちばらけるのかしら?」

「十分な餌を与えれば、群れのままだと思いますよぉ。その方が繁殖頻度も高くなりますし、こっちの方が理想ですけどねぇ」


 十分な……か。

 DP使って植物系をしっかり充実させておかないとなぁ。

 場合によっては牧場の増築も視野にいれておかないとな。


 そんな会話をしている俺たちの眼下では、植物モンスターが必死に逃げ惑っていた。


「……なんか……なんかさ……俺たちって、悪逆非道?」

「自然の摂理ですよぉ」

「弱肉強食がモンスター界の常識よ」

「かわいそうとか思っていたら、自分が食べられるにゃよぉ」


 この世界の住民は、思いのほかドライでした。






「じゃあさ、果物の樹を植えればいいんじゃないか?」

「確かに果物も食べますけどぉ、栄養が偏りますからねぇ」


 モンスターを飼育するのも、案外大変だ。


 それでも第二階層には、ありとあらゆる果物の木を植えることにした。

 植えるのは階段付近。そこなら麿一族が手入れを出来るから。

 実れば収穫し、俺たちが食べる分以外は草食モンスターエリアに投げ込む。


 果物以外の食事風景は、なるべく見ないようにしよう。


 そうして何日かすると、遂に草食モンスターにも子供が生まれた。


「てか出産早くないか!? だって召喚してまだ一カ月も経ってないだろう?」

「そんなものですよぉ。だからこそ、世界からモンスターが絶滅しないのですからぁ」

「ダンジョンモンスターは、番を見つけることもそもそも難しいのよ。見つけても、出産に至る前に冒険者の手で倒されちゃうから」

「だからダンジョンがモンスターを産むんですけどねぇ」


 そんなもんなのか……。

 なんかモンスター側の事情が、ちょっとかわいそうだとか思ってしまう。

 

 ようやく運命の相手と出会っても、冒険者によって引き裂かれるなんて。


「ちなみに、あのホーンピックのお肉は上質で、高級料理店でしか食べられないものよ」

「ふっふっふ。ボーンピックは生息個体数が意外と少ないので、お勧め召喚にしたのですよ」

「なるほど。じゃあ仕留めよう」


 その日の晩。

 豚肉とはとても思えない、すっごく旨い肉を食べることが出来た。


 

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