第49話:月光の微笑み

「『月光の微笑み』ですかぁ? 例えばこんな?」


 そう言ってトーカは、胸を逸らしてドヤ顔風な笑顔を浮かべた。

 これはどう突っ込めばいいのだろうか。


「笑った顔じゃないにゃ。それに全然月っぽくないにゃよお前の顔は」


 隣でミトが真面目な顔して突っ込んでいる。

 あぁ、そうすればよかったのか。


「う、うるさいですしぃ。ほっといてください! それに月光の微笑みについてはちゃーんと知ってますしぃ」

「本当かねぇ」

「マ、マスターまで!? 月光の微笑みはどんな状態異常効果でも治すという、お花のことですぅ!」


 お、本当に知ってたのか。

 じゃあどのモンスターからドロップするのか──


「え? お花はドロップアイテムじゃないですよ?」

「違うのか!?」

「どういうこと!? ドロップじゃないの??」


 トーカは鼻をふんすと鳴らして、再び胸を逸らして正真正銘ドヤ顔を決める。


「お花はダンジョンに自生するのですぅ。ただし咲くタイミングには条件がありましてぇ」

「その条件というのは?」

「はい。その条件は──」


 1:ある程度のランクのあるダンジョンであること。

 2:ボスモンスターを倒した直後であること。


 この二つの条件を満たした上で、更に咲いたり咲かなかったりとランダムらしい。


「ある程度ランクのあるって、どういうことなんだ?」

「まぁ簡単に言うとですねぇ、難易度だったり、構造が複雑だとか、規模が大きいとか、そういうことですねぇ」

「アバウトねぇ。迷宮都市のダンジョンはどうなの?」

「んー……どうでしょうかぁ。トーカは知識として知っているだけで、じゃあ実際どのくらいのランクなのかっていうのはよく分からないのですぅ。それに迷宮都市のダンジョンは自然発生型ですからぁ、どのくらいのランクがあるのかっていうのも分かりませぇん」


 なんとも頼りないダンジョン精霊だ。

 まぁだけど一つの目安はできたかな?

 あとはギルドに行って、ボスを倒して花が咲いたという記録があるかどうか聞いてみよう。






「お花ですか? さぁ、地下ボスを倒して花が咲いたという情報は頂いておりませんが」


 ──という情報を聞くために、俺たちはギルドにお金を支払った。

 理不尽だと思うけど、ルーシェ曰く「こんなものよ」と言うので納得するしかない。


「地下ボスをってことは、塔のほうは?」

「塔の最上階に到達した冒険者は少なく、最近では十五年前にいたぐらいですから。あまり情報はないのですよ」

「すくなっ」


 予想外に少ないな。

 確か塔の六階が推奨レベル260とか言ってたっけ。

 まずは町の外にある鉱山ダンジョンでレベルを上げ、それから塔にっていう流れだったか。


 話を聞きながらルーシェが囁く。


「レベル350を超える冒険者って、意外と少ないのよ」


 と。


 レベル100で初心者を脱したぐらいらしいけど、200もあれば中級冒険者に。そして300を超えれば腕利きと呼ばれるようになるそうな。

 

「塔のダンジョンは、一階登るごとに推奨レベルが5ほど一気に上がります。ですから階層を上がるだけで何カ月も掛かるのですよ」

「なるほど……ちなみに最上階って何階なんですか?」


 そう尋ねるとギルド職員の眼鏡さんは手を差し出した。

 情報料を払えってことか……。

 渋々お金を渡すと、こんどはにっこり微笑んで「100階です」と答えてくれた。


 地下と同じなのか。

 だけど一階あがると推奨レベルが5上がる。最上階だと単純に計算してもレベル500上がるってことだ。

 まぁ五階まではギルド施設だけど、その分差し引いても最上階が高難易度であることに変わりはない。


 スタート地点がレベル260。94階分を足して、推奨レベル730ぐらいってこと?

 そりゃあ……攻略できる人も滅多に出てこない訳だ。


「最上階に出現するボスが、聖属性だって噂を聞いたんだけど本当なの?」

「それは本当です。迷宮都市にギルド支部が出来て百年ほどですが、その間に五組の冒険者が最上階に挑戦して生きて戻ってこられました。彼らの情報では、ボスは聖属性で一致しておりますので」


 生きて戻って来た──ってことは、もしかしたら挑んだものの生きて戻れなかった人もいるってことか。

 そして五組しかいないのもあって、ドロップの検証が定かではない。そのうえ、何をドロップしたのか報告していないパーティーもいたという。

 はっきりしているのは、ポーション類は確実に落としたということ。

 それだけだ。


「うぅん。塔の最上階を目指すのは、ちょっと厳しいわね。何年掛かるか……ううん、何十年と掛かるかもしれない」

「もう少し、例えば推奨レベル300ぐらいのダンジョンをいくつか攻略する方がいいですねぇ」

「私もそう思うわ」

「意見が被ると気持ち悪いですぅ」

「……そうね! 同意見だわ!!」


 睨み合う二人を他所に、眼鏡の職員が「町の外の鉱山でしたら、もう少し低いですけど推奨レベル270ですよ」と教えてくれる。

 どのくらいのランクなら花を咲かせるのか分からないが、ひとまずそちらの攻略を優先するか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る