第47話:ぼんぼん時計

 結論から言うと。


「うえぇぇぇ。せっかくトーカが案内したのにぃ」

「まぁ仕方ないさ。たまたまあっちが近くにいたんだろうからさ」


 ボスを見つけた時には他の冒険者が既に戦闘中だった。

 

「ごめんな、ルーシェ」

「いいのよ。それよりもボスドロップは何が出るかが私にとっては重要だから」

「じゃあ最後まで見て行くか」


 戦闘の邪魔にならないよう、少し離れた所で雑魚処理に当たった。

 ここのボスは不思議なというか、なんで? というような形をしている。


「なんでボスモンスターが時計なんだろう」

「あれは悪魔系モンスターですぅ。結構いやらしい攻撃をしてきますよぉ」

「へぇ、どんな?」


 全長3メートルもある巨大なぼんぼん時計。

 目も口も鼻もない、正真正銘、見た目は置時計だ。

 ただ振り子が時計の周りに十二本浮いていて、それがひゅんひゅん飛んで攻撃してくるようだ。

 それだけでも嫌な攻撃だと思うんだけど。


「対象周辺の時間操作ですぅ。あ、ほら使いますよぉ」

「ほぉ、どれどれ?」


 交戦中のパーティー人数は五人。

 十本の振り子が飛んでいき、冒険者ひとりに対して二本一組で挟むようにして浮いた。

 すると、途端に彼らの動きがスローモーションになった。


「時計だけに、時間操作系か」

「そうなんですぅ。しかもいやらしいのはこの後で、ほら。残った二本の振り子は普通に動くんですよぉ」

「え?」


 ひゅんっと飛んだ振り子が、冒険者のひとりに飛んでいく。

 彼は必死に回避しようとするが、動きが遅いのでもちろん間に合わない。

 思いっきり攻撃を食らって後ろに吹っ飛ぶが、それすらスローモーションだった。


「ちょっとちょっと、まずいんじゃないか!?」


 吹っ飛ぶ冒険者を慌てて助けに行こうと、ゆーっくり飛んでいる方向に先回りしてキャッチ。

 

「あ、ありがと──戻った!?」

「あ、戻ってる」


 キャッチした冒険者のスローが解けた?

 彼の傍に浮いていた振り子が離れて行き、悪魔時計のところへ戻っていく。

 他の冒険者にくっついている振り子はそのままだ。


「マスターが間に入ったので、効果が切れたのですぅ」

「つまり振り子の針二本につき、効果を与えられるのはひとりだけってことね」

「その通りですぅ~。あ、来ますよマスター。気を付けてくださいっ」


 残った振り子と合わせて四本が飛んで来た。

 咄嗟に石を取り出し、蹴る!


「キック!!」


 小石がボールサイズまで大きくなって振り子にぶつかった。

 ギィーンっという音と共に一本がはじけ飛ぶ。


「"石礫ロックシュート"」

「"暴風サイクロン"にゃー」


 ルーシェとミトが一本ずつ攻撃して弾く。

 残り一本になった振り子は、急停止して本体へと慌てて引き返した。

 まるでアレが意思を持った生き物みたいだな。


「なるほど。二本一組だから、一本じゃ時間操作が出来ないのね」

「なら、効果中のやつも一本壊せばっ」


 石を取り出し、手から零して地面に落ちる前に──「キック!」。

 一本に命中し、その振り子に捕らわれていた人が解放された。

 さっき助けた人は盾役タンクなんだろう。

 大きな盾を振りかざし、仲間のひとりを捉えていた振り子に叩きつけた。

 バキャっと凄い音がして振り子真っ二つ。


 残り二人の振り子も一本ずつ壊して全員を救出。

 お礼を言われたが「先にボスを!」と声を掛けて、再び雑魚処理に励んだ。


 残った振り子はまだ六本ある。

 ただし六本なので、時間操作できるのは三人まで。二人が確実に残るので、仲間の救出は可能だろう。

 実際トーカ曰く、


「悪魔時計は七人以上で挑めば、必ずひとりは魔法にかからないのですよぉ」


 と言っていた。

 ただ実際問題、七人以上のパーティーなんて早々ないだろうな。


 やがてボスモンスターは無事に討伐され、レアモンスターの姿が一瞬にして煙となって消えた。


「いやぁ、助かったよ。サンキューな」

「あ、いえいえ。あの、ところでボスドロップって何が出ました? 俺たち、呪いを解除するアイテムを探して旅をしてまして」


 旅をしているというほどではないけど、少なくともルーシェはそうだ。嘘ではない。


「呪いを? どんなアイテムだろうな。まぁでも悪魔時計から取れるドロップアイテムは魔法剣だよ。今回はでなかったけどね」

「他にもスローのスキルカードが出るっていう噂だけど、迷宮都市にいる間に出たという話は聞いたことないな」

「呪いの解除とか、教会で行える類のものではないのですか?」


 と、神官っぽい法衣を守った優し気な人が訪ねてくる。

 その質問にルーシェは頷いた。


「呪いといっても魔術的なものだから、神聖魔法ではダメなの」

「そうですか。呪いを解く……上の塔の最上階に出るモンスターが、聖属性なんですよね。もしかすると──」


 聖属性モンスターは、治癒系のドロップアイテムを落すことが多い──という話だ。


「そうだ。助けてくれたお礼だ。受け取ってくれないか?」


 そう言って最初に助けたタンクの男性が一枚のカードを差し出した。


「うちのパーティーメンバーは、もうその魔法持ってるからさ」

「ま、魔法?」

「そっちは魔法使いが二人……一匹は従魔のケットシーか? 持ってなければ使ってくれよ。持ってるなら売りに出してもいいし」


 渡されたカードには、読めない文字が書かれていた。

 

 文字の読み書きは急務だな。




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若い方って、「ぼんぼん時計」で分かるかしら?

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