第46話:迷宮都市D最下層へ

「最下層に冒険者がいる」


 マイホームが完成し(といっても家具はまだ揃っていない)、新しい生活が始まった。

 主にダンジョンに戻っているので、寝泊まりに帰る程度だけども。


 地上階を目指すためにルーシェとミトのレベルをもう少し上げておきたい。

 なによりボスを倒して何がドロップするのか知っておきたい。


 最下層に到着する少し前にボスが出現したらしく、俺たちが到着する頃には冒険者の姿はほとんど見られず閑古鳥が鳴くような状況だった。

 ボス以外に興味なしってことなんだろうな。おかげでこっちは経験値稼ぎ放題で有難かったんだけど。


「そろそろボスがリポップする時期なのね」

「ほんと、冒険者は現金ですぅ」

「そ、現金なものよ。気を付けてね、ボスにしか興味のない奴らの中には、ノーマルモンスターを他人の擦り付けていくようなのもいるから」

「トレインか……」


 オンラインゲームでの迷惑行為の一つだ。

 大量のモンスターを引き連れて、他のプレイヤーの横を通り過ぎる。

 すると、モンスターがその人にターゲットを変えることがある。

 交戦中に大量の追加オーダーがくるとたまったもんじゃない。瞬間移動系アイテムで難を逃れることもできるが、そういったアイテムがそもそも存在しないゲームだってある。

 その場合には……圧倒的なレベル差があれば生き残れるが、適正レベルでレベリングしていた場合なんかはまず無理だな。

 だからMPK=モンスターを使ってプレイヤー殺しと言われている。


 ここはゲームじゃない。

 セーブもロードもない、死ねばそこで終わりな現実世界だ。


 そんな世界でトレインする奴がいるとはねぇ。


「ルーシェ、レベルをMAXまで吸い取ってくれるかい? 一応備えておこう」

「そうね。今はまだ湧いてないようだし、気を付けながら行きましょう」


 いきなりレアモンスターがどーん、なんてのも困る。

 さくっとレベルドレインをして貰おうと手を差し出すと、その俺にぷにっとした感触が伝わった。


「そういうことは人に見られない所でやるにゃ」

「人に見られない?」

「そうにゃ。さかりのついた猫じゃにゃいんにゃから、ちゃんと──」

「はいはい、なんか勘違いしてるから! トーカっ、なんか変なこと教えてるだろっ」

「ひゅーひゅー♪」


 ならない口笛を鳴らそうとしているトーカは、確信犯だと思っている。

 こいつ、卑猥ですぅーとか言って抗議しつつ、実は面白がってるだろう?


 まぁ何も知らない人が見たら、手にキスしている状況ってのはなんなんだ? ってことになるし、レベルドレインですと説明しても、なんでそんなことするんだってことになる。

 面倒を回避するために、人のいない場所に移動することに。


 袋小路になっている場所で、彼女のレベルを今の上限まで上げる。


「魔法の節約をしてくれ、ルーシェ」

「分かったわ。マリオネットでミトの強化をしておきましょう」

「にゃ~。オイラまた肉弾戦専門かにゃあ」

「最近は魔力にも振ってるんだけど、それでもまだ下がるか?」

「どうかにゃ~」


 ルーシェのマリオネットが発動し、俺とミトのステータスが繋がる。

 繋がって、それから平等に分配される。


「にょ! オ、オイラの魔力が増えたにゃ!!」

「よし!」


 思わずガッツポーズを作る。

 魔力に振った甲斐があったぜ。


 ここまでくると、俺も魔法スキルが欲しくなるなぁ。

 こう、指ぱっちん一つで隕石召喚!

 とか。


 果たしてダンジョン内で隕石召喚メテオが使えるのかどうかという謎もあるけれど。






「出たわね」

「出ましたですぅ」

「トーカ、ボスがどこに沸いたとかって分からないか?」

「DPを消費すれば検索できますぅ。今トーカが貯金しているDPは、267でぇす」

「あんまり溜まってないな。まぁ経験値二倍に使ったり、何本かポーションにもしてるもんな」


 経験値二倍が時間制限だとよかったのに、対象一体に限り有効な恩恵だもんな。

 ルーシェの魔法で同時に何匹かまとめて倒した場合、対象以外のモンスターの数だけ貯金になっていく。


「それで、検索に必要なDPは?」

「100ですぅ」

「多いな! けど使える……」

「使っても遠くだったら、到着する前に倒されてしまいそうですけどぉ」


 そうだよなぁ。

 なんせ俺たちの周辺には、モンスター、モンスター、モンスターな状況だし。


「よし。ここでDPも貯まるだろうから、ダメもとでやってくれ!」

「わっかりました~。んではDPを消費しまして……うむぅぅん──はっ! 出ましたどん!!」


 何が出たんだどん。


「あっちです!」

「あっち?」


 トーカは俺たちが今来た方角、つまり後ろを指差す。


「なんといいましょうか、この恩恵を使うとトーカの視界に赤いリボンのようなものが見えるようになるのです。そのリボンがずっと通路の奥に繋がってて、それを辿った先にボスモンスターがいるのですぅ」

「なるほど。じゃあ道案内、頼むよトーカ」

「はわわぁ、おっまかせくださーい!」


 張り切って歩き始めるトーカだけども、その前にはノーマルとレアのモンスターであふれかえっていた。

 けど、トーカはモンスターに狙われることがない。

 なんでもダンジョン精霊なので『ダンジョンの一部』だと認識されているそうな。

 ズルい。


「さぁさぁみなさん行きましょう!」

「行きましょうじゃなくって、俺たちはそれを倒しながらじゃないと進めないんだよっ」

「レアの弱点! 弱点いいなさいよ!!」

「ひとりだけ狙われないかにゃって、ズルいにゃ!」


 トーカをふるぼっこにした俺たちは、モンスターの弱点を聞いて次は奴らをふるぼっこにして進むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る