第44話:私有地拡張

「じゃあ二階層の拡張をしますけどぉ、階段はどこに出しますかぁ?」

「あ、それも指定できるのか」


 あまり遠くに階段を設置すると、肉の仕入れに行くのが面倒だな。

 だからといって近すぎるのも……。


『うぽ』

「ん? どうしたんだ、麿」


 麿のために家庭菜園を用意した。彼は森の世話が終わると、日に一度はこの菜園に来て野菜を育ててくれている。

 今日は取れたての茸を持参してやって来た。

 その麿が俺の肩を突いた。


「マロはこう言っているにゃ。森の中に階段を作ったらどうかにゃって」

「森の中?」

『うぽぽ。ぽぽうぽ』

「森といっても家から一番近い所にゃ。それで階段の周辺に岩を置いて、木も植えて──」


 森の中にぽっかりと口を開いた古代遺跡の入口──風にしてみてはどうかと麿は言っている。

 

 うどんが建設中の家はほぼ完成に近い所まで出来ていて、寝泊まりするだけなら十分だ。

 あとは家具を置いて、家の外に竈を作って……まぁ竈は廃村にあるものを参考に俺が造るしかないんだけど。それまでは野宿で使う簡易調理キットでなんとかなる。

 どうせならピザ釜みたいなのも作りたいな。


 その家から森までは、歩いても七、八分程度だ。普通に見える範囲にある。

 森の入口に階段を設置し、そこがまるで古代遺跡の入口に見えるようにオブジェを配置、か。


「麿。なかなかいいセンスじゃないか」

『うぽぉ。んっぽぽぽ~』

「大きな岩を置いて欲しいにゃって。そしたらマロが苔を生えさせて、それっぽくアレンジするにゃよ」

「いいねいいねぇ。トーカ、それで頼む」

「了解しましたぁ~。ではあっちに行きましょう~」






 第二階層が拡張された。


「忘れがちだけど、ここって地下なのよね」

「あぁ。一応そうなんだよね」

「フィールドダンジョンにゃから、地下って気がしないにゃぁ」

「まぁそれも冒険者を惑わす演出になっているのですけどねぇ」


 トーカは少しだけ拗ねたように話す。

 本来ならフィールドダンジョンということで、今自分が地下何階を攻略しているのか分からなくなって、体力の消耗を測って死なせる──なんて目的もあったんだろう。

 俺はそんな使い方する気、まったくないけど。


「よし、じゃあ二階層をさらに拡張して──」

「牧場にするなら一辺が2キロメートルぐらい欲しいですねぇ。必要DPは12万になりますけどぉ」

「ポイントは十分あるし、やってくれ」

「は~い。えいっ」


 ごごごごごっと地面が揺れ、さっきまで近くにあった壁が遠のいていく。

 今度も草原タイプのダンジョンだが、あとで森を作る予定だ。

 更に二階層を分断するために壁を設置する。

 階段付近にはモンスターが寄り付かない。だから左右に行き来する通路は階段前に作った。

 その方がこっちも移動が楽だしな。


 更に壁の一部を城壁にした。ただの城壁ではなく、城門付きだ。

 その城門を囲むように壁と柵とを設置。餌の時間には植物モンスターをここに追い込んで柵を閉じてから城門を開き、草食モンスターを呼んで食べさせるという寸法だ。


 イメージ通りの形にするのに、25万DPになった。


「うん……予想以上にポイント減ったなぁ」

「まぁあとはモンスターの召喚だけですしぃ。一匹100DPから1000DPほどで揃えられますよぉ」

「肉モンスターが好む植物系だとどうなる?」

「んー。好みとかは特になくって、食べ応えがあるかどうかですねぇ」

「つまり大きさってことね。でも大きいとDPがたくさんいるんじゃないかしら」

「ピンポーン!」


 小さ過ぎれば肉用モンスターが満腹にならない。だが大きいとDPもさることながら、モンスターとしてのレベルも高くなる。

 下手すると餌のほうが家畜を喰ってしまいかねない状況にもなると。


「いやぁ、それはマズいだろ」

「お勧めはDP500前後ですねぇ。サイズはミトさんより小さいですが、繁殖力強いので数で勝負です」

「そいつだけだと味に飽きたりしないか?」

「同じぐらいのサイズで、野菜のお化けを召喚しますぅ。サイズは少し小さくなりますが、こちらも数で応戦しますぅ」


 いや、戦わせる訳じゃないから。


 とにかくまずは植物系モンスターを五種類ほど召喚して、あとは自然繁殖をまつとしよう。

 麿が時々二階の森も見てくれるという。


「だけど麿、大丈夫か? 植物系と言っても、相手はモンスターだ。襲われたりするんじゃないか?」

「何言ってるのタクミ。マロもモンスターでしょ」

「ご安心くださいぃ。マッシュマンはレベルこそ高くないモンスターですが、他の植物系モンスターからは襲われませんのでぇ」

「そうなのか?」


 尋ねると麿がぽにんっと頷く。

 なんでもマッシュマンから出る特殊な匂いが、同じ植物系モンスターを穏やかにするらしい。

 穏やかにさせてどうするのかと思ったら──


『うぽぽ』

「胞子を植えてマッシュマンジュニアを栽培するためなんだそうにゃ~」

「つまり……寄生させるため?」

『うぽ』


 またぽにんと頷く。


 麿……案外恐ろしい奴だった。


 その麿が植物系モンスター数匹に胞子を植えて、ファミリーを作りたいという。


「さすがにひとりじゃここと一階の森を見きれないものね」

『うぽぉ』


 トーカが召喚した切り株モンスターは、さっそく麿の胞子が寄生することになった。

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