第42話:牧場作り
「牧場専用階層ですかぁ?」
そう。牧場専用で階層を追加しようと思う。
一階には俺たちの住居と麿の森があって、家が完成したあとは景観を重視したオブジェの配置をする予定だ。
そこに牧場を展開する余地はない。
あと牧場って、臭いも気になる。
絶景を見ながら清々しい朝を迎え、ぷぅーんっと流れてくる糞の臭いとか絶対嫌だ。
「た、確かに嫌だけど……モンスターって臭うの?」
「トーカに振らないで欲しいですぅ。流石にそんな情報は、トーカにもありません」
「地上のモンスターはう〇こするにゃけど、ダンジョンモンスターはしないにゃよぉ」
「え? そう、なのか? でも……牧場をこの階層に作るのはなしだろ。広さ的にも」
俺的絶景ポイントは、草原、湖、白く染まった雪だ。
その雪山が湖に写りこむとか最高だと思っている。
この山と湖で結構スペースを取りそうなんだよ。
たぶん一階の拡張も必要じゃないかなと思っている。
「階層の拡張は10,000DPが必要ですが、広さはデフォルトで500メートル四方ですぅ」
「牧場としては狭いわよね」
「モンスター牧場にするならぁ、そのモンスターの食糧となるものも必要ですのでぇ」
「肉食、だよな?」
モンスターはモンスターを食う。自然界の肉食動物も然りだ。
「そうですねぇ。ただ食用になるモンスターは、植物系モンスターを主食としますので、草食とも言えますよぉ。それに本当に草を食べたりもしますのでぇ」
「へぇ。なら草原にして、植物系モンスターも充実させないとダメか」
「先に植物系モンスターを繁殖させたほうがいいんじゃないかしら? でないと、同時に召喚しても植物系モンスターが繁殖するまでに食い尽くされちゃうわ」
「もしくはエリアを分けるにゃねぇ」
エリアを?
するとミトはトーカが浮かべたオブジェ一覧を見ながら指さす。
そこには【壁】【柵】【城壁】なんてのがあった。
「壁はぁ、迷路を作る時に使うものですぅ。柵はお手製牧場や、墓地を囲うのに使えますぅ」
「墓地?」
「はい~。アンデッド演出用ですねぇ」
なんでも演出用なんだなぁ。
けど壁はいいかもしれない。
壁は1メートル、5メートル、10メートル、50メートル単位でDP交換か。
長くなればなるほど、交換コストは安くなるようだ。
エリアとして区切るなら直線でいいし、50メートル交換だな。
けど、デフォルトの500メートルに壁を作って分断するだけでも、35,000DPもいる。
出入口も必要だし、その分壁を撤去しても少し減る程度。
「ポイント、ちょっと足りなくないかな?」
「そうですねぇ。少しレベルを上げて頂いた方がいいと思いますぅ。一階の景観用も考えてレベル150以上は増やして頂かないと」
「となると、スキルレベル500ぐらいになるわね……とんでもないレベルだわ」
「タクミは変態にゃからなねぇ」
変態じゃない!
いろいろ混ぜないでくれよっ。
「けどレベル上げだけでDP稼ぐのも、限界があるよなぁ。いっそスキルレベルもルーシェにドレインして貰えたらいいのに」
「ふふふ。さすがに無理よそれはぁ」
「やっぱ無理なのか」
と改めて尋ねると、ルーシェは笑顔のまま固まった。
何かを考えているようだ。
そして──
「わ、分からないけど、たぶん無理なんじゃないかしら」
──と。
たぶん。
ってことは、100%ダメとは決まっていない。
「き、禁術には相手のレベルを吸い取って自分のものにするって書いてあったんだけど」
「それってベースレベル限定で?」
「え、っと……どう、なのかしら?」
こうなったら試すしかない。
だけどベースレベルとスキルレベルを、どう指定したものか。
「ルーシェ、普段はどんな感じで吸っているんだい?」
「ん。そうね、普段は──呪文を唱えて。あ、唱えるといっても、思い浮かべるだけなの。魔法と同じで、簡略化できるから」
「脳内詠唱でいいのかい?」
「にゃ~。魔術に精通していれば、それも可能にゃ。魔族は特に魔力コントロールが巧いにゃから」
「ふふ。でもね。ちゃんと詠唱したほうが魔法の威力はあがるのよ」
無詠唱だと速攻性重視で威力が落ち、詠唱をちゃんとすると威力は上がるが速攻性に欠けるということらしい。
威力とか関係のないレベルドレインは、無詠唱でも効果は変わらない……と。
「スキルレベルを吸収するようイメージしてみようかしら」
「うん。試せることはなんでも試そう」
「そうね。じゃあ……タクミ」
「おし!」
右手を差し出すと、彼女がそこに口づけをする。
『うぽ!?』
『ごあ!?』
「な、なんだよ麿、うどん」
いつの間にやって来たのか、麿とうどんがルーシェと俺を見て驚いていた。
麿の白い柄がほんのり赤みを帯び、もじもじしている。
「ん……ダメね。とりあえずレベルを5つ吸い取ったけど、どう?」
「えっと……ベースが下がってるな」
「やっぱりダメね」
「いやいや、諦めるのは早いって。スキルレベルを吸い取るぞって、意識する練習もやろう」
「ちゅーちゅー卑猥ですぅ」
「「卑猥じゃない!!」」
まったく、掌にキスしてるだけじゃないかっ。
何度も練習を重ね、そして遂に!!
「あ、俺のレベルが1になった」
「ご、ごめんなさいっ。やっぱり無理なんだわっ」
「いやいや、何事も試してみないとさ。気にしないでよルーシェ」
レベルが簡単に上がるし、特に問題もない。
まぁどんなにドレインしても、ルーシェのレベルが上限になっているとあっちが上がらないから勿体ないのはあるけれど。
「むしろタクミのレベルが1の状態でドレインしにゃら、案外スキルが吸い取られたりしてにゃ~」
「ははは。それは試す価値ありそうだな」
「む、無理よきっと」
「何事も試してみなきゃ分からないだろ?」
そう言って俺は右手を彼女に差し出す。
真ん中あたりがほんのり赤くなっているのは、所謂キスマークってやつですか?
嬉しいような恥ずかしいような虚しいような……。
だってこれって、好意で付けられたものじゃないしさ。
「じ、じゃあ……これが最後なんだからね」
ルーシェが口づけをし、ちゅっと音がする。
もしスキルレベルのドレインが不可能だったとして、ベースレベル1だとどうなるのか。
それを知るというのも大事なことだ。
そして──
「うそ……こうなってたのね」
「こうって?」
彼女がステータスを確認する仕草をするが、直ぐに首を傾げた。
俺もステータスを開く。
レベル1 MP:353/353
腕力:315 体力:307 俊敏:312
持久:240 器用:295 魔力:247
StP:0
【転移ボーナス】
EXPが1になる
【スキル】
フィールドダンジョン生成320
キック250
【装備によるスキル付与】
ハイ・スピード500
ビッグ500
どこが変わっているのか……うぅん?
そう思っていると、後ろでトーカの悲鳴が上がった。
「はあぁぁ!? せ、生成スキルは10減ってるですうぅっ! ト、トーカとマスターのラブラブデートが出来なくなるじゃないですかあぁぁっ」
──と。
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