第41話:お風呂事情

 ルーシェのレベルが十年ぶりに上がった──ということで、今夜は町の宿のほうで豪華な食事で祝いをした。

 いつもは生成ダンジョンでテント野宿なんだけども、たまには柔らかなベッドで眠りたい。

 

「はぁ~、お風呂気持ちよかったぁ」

「うどんに建てて貰ってる家にも、ちゃんと風呂は作るつもりだから。そしたら毎日入れるよ」

「楽しみね」

「楽しみじゃないにゃ~」


 野宿の時にはお湯を沸かし、それで体を拭くだけだ。たまに町の銭湯に通ってはいるが、毎日じゃない。

 ダンジョンから生成ダンジョンへは扉一つで繋がっているが、生成ダンジョンから町までの往復は徒歩になる。移動が面倒だし、湯冷めするかもしれないからダンジョン攻略をお休みした日だけなんだよね。


「でもマスター。お風呂のお湯はどうやって沸かすのですかぁ? どこかに竈を作らなきゃダメですけどぉ、うどんは竈造りは無理だと思いますよぉ」

「え? あ、そうか……」


 ガス給湯器も電気温水器もエコ給湯もないんだった。

 竈ってころは、薪で下から沸かすことになるのか。うぅん、まいったなぁ。

 俺ももちろん竈なんて作れないし。


「そこで一つ提案があるです」

「提案?」

「はい。オブジェで設置可能な、お風呂に代用できるものがあるのです!」

「おぉ!」


 風呂を終え、食事も済ませて宿の部屋へと戻った俺たちは、そこでトーカが浮かばせるオブジェ一覧を見た。


 トーカは一覧をすらすらーっとフリックして画面をスクロールしていく。

 結構下の方まで動かしてからピタリと止めた。


「こんなのですぅ」

「どれどれ?」


 トーカが指さす先には、回復の泉というのがあった。

 ただ、そこには──


 回復の泉

 回復の泉(温水)


 と、二種類ある。


 温水……温水!?


「ちなみに温度は40℃固定ですぅ」

「風呂の温度!」

「待ってっ。回復の泉って飲むと傷を癒せる、大型ダンジョンの下層にたまーにあるっていうアレのこと!?」

「そうですよぉ~」


 ルーシェの問いに、トーカはふふんと鼻を鳴らして応える。

 RPGにもあるな。ゲームだと回復とセーブがセットだったりするけど、流石にセーブはないだろう。


「こちらの温水は飲んで好、入って好な泉になっていますぅ」

「……それって、誰かが入った後に、知らずに飲んじゃう人でてくるんじゃ?」

「まぁそうですねぇ」


 そうですねじゃないよ。飲みたくないよそんな泉の水なんて。

 でもまぁ、設置するわけだから未使用品だ。何より飲むんじゃなく入るためならいいかもしれない。


「泉のお湯はどこから?」

「どこでもないですよぉ。泉のオブジェクトから延々と湧き続けるだけですから」

「温泉みたいなものかしら?」

「お、こっちの世界にも温泉があるんだ。効能とかあったりするのか?」

「そりゃあ回復の泉ですからぁ。傷の治癒に疲労回復もありますよぉ」


 そりゃそうだ。

 疲労回復があるのは嬉しい。


 泉の外見も数パターンある。

 小さな池のようなものもあれば、井戸のようなもの、大きな岩から染み出て、その下に溜まっているパターンとか。


「でもどれも風呂っぽくはないなぁ」

「そうねぇ。この池っぽいのも、下は土でしょ?」


 ルーシェの言葉にトーカが頷く。

 土風呂かなぁ。汚れそうだよなぁ。


「あと……フィールドにぽつんとこんなのがあっても、安心して入れないわ」

「モンスターはいないんだ。麿とうどんは襲って来ないし、安全だけど?」

「そ、そうじゃないわよ。こんな広い所でお風呂なんて、丸見えじゃないっ」


 丸見え……あ。


 あぁ。


 ああぁぁぁ。


「そ、そうだね。うぅん、そうなると泉を囲むように小屋を建てて貰うといいのかな」

「そ、そうして貰えると嬉しいかも」


 確かにこの広い草原の中、ぽつんとある泉に全裸で入るのはなかなか勇気がいる。

 泉を設置したあとに壁を作って小屋のようにし、あとは脱衣所も作ればいいか。


「問題は風呂そのものだな」

「泉のお湯を汲んで浴槽に移せばどう?」

「汲み上げるのは面倒だなぁ」

「それにゃったら、これでいいんじゃにゃいか?」


 ミトが温水オブジェの一つを指差す。

 スライムの像が乗った台座だ。そのスライムが水鉄砲を吐き出しているような、そんな感じ。

 まぁしょんべん小僧的な?


「下に大きな木枠を置けば、お湯はそこに貯まるにゃよ」

「なるほど。高い所から落ちてくるパターンの泉なら、下に浴槽を置けば汲み上げる必要もないのか」

「ミトってば賢いぃ」

「それほどでもあるにゃ~」

 

 よし。それじゃあ明日さっそく、うどんにこのことを知らせよう。


 問題はDPかな。


「普通の泉は設置に25,000DPで、温水は35,000か」

「DPの余裕はまだまだありますよぉ」

「なら安心だな」

「ふふ。最初はどうなるかと思ったけど、案外快適な暮らしが出来そうね」

「あぁ。家があってお風呂があって……あとは何かなぁ?」


 そのうち家庭菜園も必要になるだろうな。食糧調達用に。

 でも野菜ばかりじゃダメだ。

 肉だって欲しい。


 肉になるモンスターを召喚する?

 でもその都度召喚するのもなぁ。

 いっそダンジョン内で家畜を飼育するとか。


「トーカ。ダンジョンで牛とか豚とか鶏とか飼ってもいいか?」

「ミノタウロスとオークとコカトリスですかぁ?」

「いや違う。普通の動物。食用の!」

「あぁ。でしたら食用モンスターを召喚すればいいじゃないですかぁ」


 それが面倒だし、DPの無駄使いになるんじゃないかって思ったんだけどな。

 そう話すとトーカは首を左右に振る。


「雌雄で召喚すれば、放置していたら繁殖しますよぉ」

「え!? は、繁殖……するのか」

「環境が合えばぁ」


 それってつまり、ダンジョン牧場計画?

  

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