第39話:命名

 ウッドゴーレムにやって貰いたいこと。

 生成ダンジョンに俺の──いや、俺たちの家を建てて貰うことだ。


 ただトーカやミトの話だと、いきなり作らせるのは危険とのことだ。


「ゴーレムの知能はそれほど高くないのですぅ」

「その代わり学習させれば、ある程度高くなるにゃよ」

「建築技術にも関わって来る?」


 俺の質問にトーカとミトが頷く。


「だけど学習って言っても……まさか大工さんの所に弟子入りさせる訳にもいかないでしょ?」

「そこは~、実際の建物を見せてあげるだけでもいいんですよぉ」

「実際の……いや、でも町に連れて行くのはどうなんだろう? ミトのように見た目も愛らしくて小さいなら怖がられないけど」

『ゴオォォォ?』


 ちょこんと首を傾げるウッドゴーレムが可愛いかと言われると、かなり微妙だ。

 ただルーシェは相変わらず「可愛い」とか言って頬を赤らめてはいるけれど。

 彼女の可愛いの基準がまったく分からない。

 ミトに対しても可愛いと言っているし、そこは間違っていないんだ。

 でもマッシュマンとウッドゴーレムはどうなんだ??


「ふっふっふ。そこで廃村ですよぉ」

「廃村……オブジェか!?」


 にっこり笑うトーカ。

 なるほど。なにも人が住んでいる家じゃなくてもいいんだ。


 廃村を設置するのに必要なDPは10,000ポイント。民家は十軒から十五軒ほどで、ここはランダム要素なんだとか。


「それぞれ似た造りの民家ですがぁ、多少の違いはあるので学習用にはいいと思いますぅ。あとぶっ壊してもいいですよぉ。時間が経つと修繕されますのでぇ」

「……誰が修繕しているんだ?」

「誰でもないですよぉ。オブジェの自動修復機能ですからぁ」


 自動修復されている光景は、きっとシュールなんだろうな。まさにポルターガイストだ。


「ポイントの余りは?」

「十万ぐらいありますからぁ、廃村いくらでも置けますよぉ」

「そんなに貯まっていたのか!?」

「だってスキルレベル330ですよぉ。本当ならこのレベルになるまで、何年もかかるんですからぁ」


 まぁモンスター1匹倒せば、絶対にレベルが上がるんだもんなぁ。

 しかもルーシェのレベルドレイン使えば、ベースレベルを下げられるからスキルレベルだけならスライム倒すだけでもいい。

 その代わり、経験値じゃなくって純粋に戦闘経験は得られないけど。


「十万ポイントかぁ。ひとまず廃村一つ設置してみるか。あ、トーカ。オブジェってあとで撤去は?」

「出来ますけど、ポイントは戻ってきませんよぉ」

「いい。廃村なんてあったら、景観が損なわれるから。とりあえずウッドゴーレムの学習のため」


 草原の、どーんっと広い場所に廃村を設置。

 出現したのは十二軒の民家とちょっとした畑、それに小さな牧場だ。もちろん牧場に生き物はいない。

 あと……なんか廃村の周辺だけ薄っすら霧がかかっている。


「あの霧は?」

「廃村といえばゾンビです! その演出ですぅ」

「ダンジョン内にこういう廃村って一度見たことあったけど……やっぱり霧があったわね。それ演出だったなんて」


 他のダンジョンにもこういうのあるのか。


 廃村が設置されるなり、ウッドゴーレムは目(?)を輝かせて民家を見ていた。

 

「いいぞ、ウッドゴーレム。いっぱい見て建物の構造を学んでくれ」

『ウゴオォォン』


 びょんっとウッドゴーレムが跳ねると、地面が振動する。

 そのままスキップしながら廃村に入っていくと、一軒の民家を入念に見始めた。


『んぽぽぽ』

「ん? マッシュマンも来たのか?」

『んぽぽ』


 マッシュマンは民家じゃなく畑に興味があるようだ。

 あぁ、そうだよな。植物栽培するのが好きなんだもんな。


 ウッドゴーレムは民家を、マッシュマンは畑を。それぞれ楽しそうに見ている。

 時々家を壊してみたり、土をほじくったりして。


「廃村の畑で野菜の栽培とか出来るのか?」

「んー、無理ですねぇ。苗を植えてもすぐに枯れてしまいますぅ」

「こんなどんよりした村で野菜が作れても、ちょっと食べたくないわね」

「にゃ~。毒っぽいにゃねぇ」


 それもそうか。


 二匹のモンスターが廃村をうろうろする光景を見ながら、ふと思いついた。


「なぁ。あいつらって、個体名とかあるのかな?」

「個体名?」

「そ。ルーシェ、ミト、トーカ。名前だよ、名前」

「種族名だけですよぉ~。トーカやこのケットシーみたいに、名付けられない限りはぁ」

「にゃ~」


 そっか。

 これからここで一緒に暮らすんだ。やっぱり名前って大事だよな。


 なんとなくマッシュマン十体がここにいたとして、マッシュマンって読んだら全部が振り向く光景を思い浮かべて身震いしてしまう。

 こっち見んなって感じで。


「マッシュマン……マッシュってのは名前としてはいいんだけど、でも安直だよなぁ」

「あら、いいじゃない、マッシュ」

「カッコいいですねぇ」


 いや、でもマッシュなんて普通過ぎるよ。

 マッシュ……マシュ……白くてぽよんとしたエリンギのような……いや、マシュマロみたいな……。


 でもマシュマロって男の名前っぽくないよな。

 じゃあ──


麿まろだ。マッシュマンの名前、麿でどう?」

「マロ?」

「にゃ~。悪くないにゃよ」


 よし。マッシュマンは麿だ。麿眉みたいなのがあれば最高だったんだけどな。

 次はウッドゴーレムだな。


 ここでウッドはもちろん安直過ぎる。

 ウッド……ウド……。

 ウドはどこかの芸人みたいだし。


 うど……ん。


「うどん……食べたいなぁ。ラーメンもいいなぁ」

「ウドン? ラーメン? どっちにするのよ」

「んー、じゃあうどん」

「ウドンにゃねぇ~」


 え?


「じゃああなたの名前はウドンですぅ」

『ゴオォォォ!』


 え……。


 ウッドゴーレムの名前……うどん?

 

 トーカに名前を告げられたウッドゴーレムは、どことなく嬉しそうに跳ねている。

 まぁ。

 喜んでいるなら、いいか。




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はい。いつものイベントですね。

私のセンスに期待してはいけない。

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