第34話:変態にゃ
スキルレベルを上げるのに苦労は一切なかった。
経験値が貰えるかどうかはベースレベルに依存しているからだ。
じゃあこの世界の人たちだって、スキルレベルは上げやすいんじゃないか?
と思ったりもしたけど、そもそもレベルなんて本来は一匹倒せば上がる訳じゃない。俺が壊れチートなだけだってことを、たまに忘れてしまいそうだ。
あと──
「タクミの転移ボーナス……絶対に他の人には知られちゃマズいわね」
「にゃ~。マズいにゃねぇ」
「まさかこんな副産物まであったとはなぁ」
キックのスキルレベルが無事に250になって、ベースのレベル上げを再開して数日経ってからだ。
気づいたのはミト。
「オイラのレベルがこんなに早く上がるなんて……普通なら有り得ないにゃから」
「考えられるのは……モンスターを倒して得られる経験値の分配方法でしょうね」
「ルーシェの今のレベルだと、この辺りのモンスターからは経験値が入らないんだよな?」
今は地下四十階。ここに生息しているモンスターのレベルが108だ。
ルーシェのレベルは140をキープしているから、獲得経験値はゼロのはず。
「たぶん入ってないでしょうね。経験値って、結局はレベルが上がらなきゃ入っているのかいないのか分からないものだし」
「中途半端に不自然な世界だよなぁ。ステータスとかの数値はあるくせに、経験値は数値として見れないんだから」
ただレベル一桁モンスターの経験値は解明されている。
基準はあの透明でないレベル1スライムだ。あいつの経験値を1として考え、何匹倒せばレベルが上がるか……という実験を向かいの偉い人(笑)がやったらしい。
レベル5になるまで実験し、そして飽きた……と。
「そうね。数値が見えればミトのレベルアップ速度の速さの原因も、具体的に分かるんだけど」
ミトのレベルが上がるのが早い。
これはミト自身が言ったこと。彼のレベルは卵から孵化したときには50あった。それが今では100になっているという。
ミトのレベルが50上がるまでの間に、俺のレベルはいくつ上がったかなぁ……。
「基準が自分しかいないから分からないんだけど、一カ月弱でレベル50上がるって早いのか?」
「早いわよ! まぁ同じ50でも、レベル1から51に上がるのと、レベル200から250に上がるのとでは全然違うけど」
「たぶんにゃけど、頑張って頑張って、それでだいたい三カ月ぐらいにゃよ」
どうしてそんなことになったのか──原因はやっぱり俺だ。
正確には俺とパーティーを汲んでいるから、かな。
「簡単に説明するとね、モンスターから経験値を100貰えているとするでしょ?」
「うんうん」
「で、タクミは1しか貰えないの」
「そうだな」
「私も今はレベル差の関係でゼロよ。じゃあ100から1を引くと残りは?」
99だ。
その残り99の経験値がパーティーを組むことでメンバーに分け与えられる。
だけどルーシェはレベル差で貰えない。だから99全部がミトに行っている……という訳だ。
「もちろんオイラひとりでモンスターを倒せば、経験値は100全部貰えるにゃ。けどひとりだとモンスターを倒すのに時間が掛かるし、MPだってなくなるから効率的ではないにゃよ」
「そっかぁ。ミトはちっさくて可愛いのに、賢いんだなぁ」
「……オイラはタクミよりよっぽど長く生きているにゃよ……」
「え、そうなのか?」
「ケットシーにゃから! オイラ喋って踊れる猫じゃにゃいからね!!」
えへへ、そうだった。
しかし、俺とパーティーを組んで共闘することで、レベルアップが早くなるなんて……。確かに他の冒険者に知られれば、大人気になること間違いなしだな。
ま、人気者になるぐらいならまだいいけれど、馬車馬のように働かされる未来が薄っすら見えるのも怖い。
EXPが1になるってことは、確かに人に話すべきじゃないな。
そもそも転移ボーナスってところからして、この世界で暮らす人にはないものなんだし。
「よぉし。ミトのレベルもガンガンあがるようだし、それじゃあしっかり活躍して貰いましょうかね!」
「にゃーっ。オイラが馬車馬のように働かされるにゃかぁーっ」
「そう言うなって。帰ったらちゅ~るやるからさ」
「うにゃ!? 頑張るにゃーっ」
実際のちゅーるではない。魚と肉をペースト状にしたつみれ団子みたいなものなんだけど、それを湯に通す前に、要は生で出して貰ったらミトの食いつきが凄かったんだ。
それでちゅ~ると命名した。
「明日は地下六十階に行きましょうか?」
今日の狩りを終え、俺のレベルは120まで上がった。
レベルドレインをしなければ200ぐらい行ってただろうなぁ。
改めて酷いボーナスを貰ったものだ。
「六十って、適正レベルはいくつだっけ?」
「135にゃねぇ」
「ミト、各上になるけど大丈夫か?」
「今更にゃー。今までだって格上階層に行ってたにゃし。それに、確かにオイラのレベルは102にゃけど、ステータス面では人間基準で考えれば+30ぐらいにゃよ」
あれ?
今朝の時点で100って言ってなかったっけ?
じゃあ今日一日でレベルが2つ上がったのか。
「ケットシーのステータスって高いんだな」
「一応ケットシーは、上位モンスターに分類されているのよ。あとミトに関しては私の方でサポートできるから安心して」
「サポート?」
「えぇ。その名もサポート。まぁ正しくはマリオネット・サポートだけど」
マリオネット……人形支援?
聞けば魔法スキルの一つで、対象者と自分、もしくは対象者二人を指定して魔力の糸で繋ぐんだとか。
繋がった二人は効果時間の間、ステータスを共有することになる。共有して、お互い均等に分けられると。
「えーっと、いまいちまだ分からないんだけど」
「例えば腕力が10の人と100の人を繋げるとするでしょ? 二人の合計は110になるわ。それを均等に割り当てて、55ずつになるってこと」
「お、おぉ?」
それだと腕力100の人がめちゃくちゃ下がってしまうじゃん。メリットなんてあるのか?
「タクミの馬鹿みたいに高くなってるステータスが、大活躍するのよ」
「オイラの魔力が下がるにゃぁ」
「そこは我慢して。魔法は私の方でやるから、ミトも物理攻撃主体にね」
「にゃあぁ」
バカみたいなステータス……そんな馬鹿みたいだっけか?
あ、今日の分のステータスを振り分けよう。
ミトが魔力がーって言ってるし、たまには魔力にぽんっと100振るか。
レベル120 MP:326/326
腕力:315 体力:277 俊敏:242
持久:210 器用:295 魔力:197
StP:0
【転移ボーナス】
EXPが1になる
【スキル】
フィールドダンジョン生成100
キック250
【装備によるスキル付与】
ハイ・スピード500
ビッグ500
最近はキックの威力を上げるために器用も多めに振っている。
「今こんなステータスなんだけど?」
ルーシェとミトの二人に今の俺のステータスを説明すると、その視線が少し痛く感じた。
「おかしいにゃ」
「ステータスの上限まで簡単にいくんじゃないかしら」
「おかしいにゃ」
「やっぱりステータスの上限も999なのかしらね? いっそどれか一つに絞って、999まで上げてみて欲しいわ」
「変態にゃ」
へ、変態まで言われるのか、俺……。
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