第35話:高級茸

 ミトのレベルを140まで上げたら、地上でテイムカードの作成に入って貰った。

 一日に一枚だけ。それも朝日が出ている時間帯にしか作れないし、作ればその日はずっと日向ぼっこしかしなくなる。

 だけどカード一枚じゃ心もとない。出来れば十枚ぐらい欲しいよねってことで、十日間待つことになった。


『ぽぽぽ』

「お、マッシュマン。どうしたんだ?」


 今日は外が雨なので、ミトは俺のダンジョンで日向ぼっこをしている。

 ぼうっとしているトコロヘマッシュマンがやって来て、何やら黒いものを差し出してきた。


「くれるのか?」

『うぽぽ』


 ぽよんと頷いたように見える。

 

 しかしなんだろう、この真っ黒いぶつぶつとした石みたいなのは。


「トーカ。これが何だかわかるか?」

「んー、どれどれぇ……あぁ! それ、ブラックリュフですよぉ」

「ブラックリュフ?」

「え? え? ちょっと見せて!?」


 な、なんだなんだ?

 トーカもルーシェも、なんだか興奮気味に石に食いついてるけど。なんだっていうんだ?


「これ、高級食材ですぅ!」

「え、高級?」

「そうよ! すっごく高いんだからっ。貴族御用達食材みたいなものよ」


 き、貴族御用達!?


「なかなか育たない茸と言われているですぅ。あぁでもマッシュマンですねぇ」

「マッシュマンがどうしたって?」

『くぽぽぉ』


 マッシュマンが頬というか胴? を赤く染めて何故か照れている。

 それを見てルーシェがまた「かわいい」とか言っているのが聞こえた。


「マッシュマンは茸モンスターですぅ。植物の栽培好きですけど、やっぱり茸の栽培が一番得意なのですよぉ」

「なるほど。それで高級食材のこいつを?」


 頷くマッシュマン。それから何か言っているようだけど、俺にはさっぱり分からない。

 すると丸くなって眠っていたミトが欠伸をしながら目を開くと、


「良い森をくれたお礼にゃって。あとお願いがあるそうにゃよ」

「お願い?」

『うぽ。くぽうぽぽぽ』

「いろいろな森の土が欲しいにゃって。土の中には植物の種や胞子なんかが入っているにゃから」

「土か。トーカ、外から土を持ち込んでも?」

「少量でしたら問題ないですぅ~」


 ならあとで外の土を持って来てやろう。

 この先、迷宮都市を攻略すれば別の土地にも行くし、行った先々で土を持ち帰ってやろう。

 

 気になるのは、この高級茸が──


「これって、これからも採れるのか?」

『くぽぽ』


 ぽよんっと頷くマッシュマン。

 ただミト通訳によると、量産出来るほどには採れないようだ。せいぜい一カ月に数個ぐらい。


「森が大きければもう少し採れるにゃあ」

「そっか。どんな味がするんだろうな。ルーシェ、料理をしたことは?」

「ないわよ。だって高級食材よ? た、食べたことすら……」

「トーカももちろんありませんですぅ」

「ありませんっていうか、トーカは食事もしないだろ」


 エヘヘっとトーカが笑う。

 ルーシェも自信がないからと拒否されちゃったし、どうしたものかなぁ。


『うぽっ』

「マッシュマン? どうした」

「にゃあ~。マッシュマンが料理すると言ってるにゃねぇ」

「え? お前、料理できるのか?」


 マッシュマンがぽよんと頷く。

 肉料理は作れないが、要は栽培したものを使った料理ならなんでも出来るそうだ。

 万能料理人じゃん。


「じゃあ私がマッシュマンを手伝って、お肉を添えるってのはどう?」

「いいね!」

『ぽぽぽぉ』


 さっそく野宿で使う簡易調理キットでの料理が始まった。

 

 マッシュマンのぽにぽにした手だが、意外なほど見事な包丁さばきを見せてくれる。

 ルーシェが先にフライパンで肉を焼き、その肉汁でマッシュマンが野菜を炒めていく。

 ブラックリュフはスライスされ、肉と野菜を痛めているフライパンへ。


「ん? なんかいい匂いがしてきた」

「ブラックリュフは火が通ると香りが良くなるですぅ」

「ほんとう、いい匂いぃ~」


 ルーシェとトーカが鼻をひくひくさせる。

 案外似た者同士なんだよなぁ、この二人。


『くっぽぽぽぉ~』

「お、完成か! ん~、うまそうな香りだな」

「にゃあ~。ご飯にゃねぇ」


 それまですぴすぴ寝ていたミトが起きて来て、ちゃっかり自分用のフォークとナイフを持って座っていた。

 マッシュマンがお皿に料理を盛ってくれて、それを俺たちに差し出してくれる。


「あ、トーカはいらないですぅ。トーカは精霊ですから、ご飯を食べる必要はないのですよぉ」

『うぽぽ。んぽぉ~』

「悪いなトーカ。俺たちだけ美味い物食べたりして」

「お気になさらずにぃ~。トーカは精霊ですからぁ」


 そうは言いながら、どこか寂しそうな表情のトーカ。

 よし。ここはトーカにも美味しいということを伝えられるよう、食レポを頑張るぞ!


「いっただきます!」


 せっかくだし、ブラックリュフと肉を一緒に。

 う……これは──


「うまい!」

「美味しいのですかぁ」

「ほんと、美味しいわ」

「香辛料みたいな感じなのか、とにかくうまい!」


 野菜と一緒に食べてもうまい!

 ブラックトリュフだけ食べてもうま──いや、ちょっと微妙?


「不思議だな。ブラックリュフだけで食べてみると、結構微妙な味がする。若干ピリっとするような?」

「んー……あ、本当だわ。他の者と一緒だと凄く味を引き立たせてくれているのに、これだけだと変っていうか……ピリっとする以外に味があるのかないのかわからないわね」

「うにゃうにゃうにゃ。んにゃんにゃんにゃ」

「へぇ~、そうなのですかぁ」


 じぃーっとトーカが俺の皿を見つめる。

 その目はどこか食べたそうに見えるのは気のせいだろうか。


 ふと気づくと、ルーシェもこちらを──いや、トーカを見ていた。

 時々自分のお皿とトーカを見比べたりなんかしている。


「トーカ。食べたいなら食べればいいじゃない。食べたからって死ぬわけじゃないでしょ?」

「むっ。べ、別にトーカは食べたいなんて言ってないですぅ」


 またぷぅーっと頬を膨らませて火花を散らそうとする。

 だけど今日のルーシェは違っていた。


「あっそう。トーカは他の精霊とはちょっと違うのかなーって思っていたけど、別に特別って訳じゃないものね」

「ト、トーカは特別な精霊ですぅっ。べ、別に何かを食べたからって死にはしないですもん」

「ふぅーん。じゃあ食べてみれば?」


 そう言って、ルーシェは肉とブラックリュフをフォークに刺したものをトーカに差し出す。

 

「え? え?」

「食べないの?」


 目をぱちくりさせルーシェを見つめるトーカ。


「じゃあ私が食べちゃおうっと」

「あっ」


 ルーシェが口を開けてフォークを引き戻そうとすると、トーカが縋りつくように彼女の手を取る。

 にぃっと笑うルーシェ。

 トーカはぷぅっと頬を膨らませたまま、フォークにぱくりと噛みつく。


「ん。ん。なんだか奥地の中がじゅわ~っとするですぅ」

「そ。じゃあ次はこれね」

「あむっ。むっむっ……む?」


 肉&ブラックリュフの次は、ブラックリュフ単品だ。

 トーカが首を傾げ、眉尻を下げる。


「な、なるほど! これが美味しいのと微妙なのですね!! たしかにお肉と一緒ですと、じゅわ~ではう~んな感じでしたが、単品ですと最初につんとしたものがあって、その後はよく分からないですねぇ」

「それが味の違いってやつよ」

「トーカは味の違いを理解したですぅ~。あーん」


 にこにこ顔でトーカがルーシェに向かって口を開ける。

 まるで餌を欲しがるひな鳥だな。


「え、もうあげないわよ。上げたら私の分がなくなっちゃうじゃない」

「えぇ!? 酷いですぅ。トーカに美味しいというものを教えておきながら、もうくれないなんてひどすぎますこの女ぁぁ」


 案外この二人は仲がいいのかもしれない。


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