第32話:お買い物

「うわぁ……武器も防具も、こんなに高いのか……」


 予算は1000G。

 防具は最低限のものでいいとして、問題は武器だ。

 そもそも日本生まれの日本育ちな俺にとって、どの武器を使えばいいのかがサッパリ分からない。


「オーソドックスなところだと、片手剣とか短剣なんだろうなぁ」

「そうね。何を持てばいいか分からないなら、まずはその二つのうちどちらかを選ぶわね」

「オイラは片手剣の中でも、細身のレイピア系を使うにゃー」


 ミトがレイピア使いなのは、なんとなく納得する。

 子供の頃に見た長靴をはいた猫が主人公のアニメで、その時の猫がレイピアを使っていたから。

 あれ?

 あれってファンタジーアニメだっけ?

 いや、中世ヨーロッパ風だった……かな。


 まぁいいや。


「しかし、ちょっといいものだと一本1000Gとかするじゃん。予算も1000Gなのになぁ」

「そうねぇ。タクミのステータスじゃ、安いものだとすぐダメになっちゃいそうだし」

「貧乏って辛いにゃねぇ」

「いやいやミト。普通い宿暮らしする分には、俺たち貧乏じゃないんだからな」


 この貯金1000Gだって、ちゃんと食費込みの宿代一週間分を確保したうえでの余ったお金なんだし。

 しかし武器一本で予算を使い切るのはなぁ。


 他の店も見てみるかな。


「あらぁ、さっきから随分お悩みみたいだけど、何をお探しかしらン?」

「え、武器と防具……」


 店の奥からやってきた店員は、やたらと体躯のいい……お姉ェ?

 こういう店の店員でお姉ェって、定番なのかな。


 そのお姉ェが俺をじぃーっと観察する。

 そりゃもう舐めるように上から下まで、ひえぇぇっ。


「いい体つきねぇ」

「ど、どうも……」

「戦士系……にしては、下半身の筋肉がとっても綺麗。ステキよン」


 ステキよんとか言ってウィンクされても、全力で回避するだろ。


「腕力ステータスが高いの、彼。だからその辺の武器じゃ耐久性が気になって」

「あらン。いくつなの?」

「に、265です」

「なかなかいいわねぇ。ちなみに器用はどのくらいかしら?」


 器用?

 えぇっと、175だな。

 それを伝えるとお姉ェ店員はちょっと驚いた顔をして、それから店の奥でごそごそし始めた。


「175って数字的にはどうなんだ?」


 小声でルーシェに尋ねると、


「高いわよ。器用って戦闘だと、攻撃の命中率とかに関係するんだけど。でも的が大きかったり至近距離ので攻撃だとあんまり関係ないもの」

「ちなみに魔法は狙った場所に当たるから、これまた器用はあまり関係ないにゃー」

「遠距離の、つまり弓での攻撃とか?」


 ルーシェとミトが同時に頷き、他にも投擲系に影響が出るステータスなんだとか。

 でも俺って確か、器用は最初から高かった気がするな。

 今は攻撃力と防御力を上げようと、ゲームと同じ感覚でそっちのステータスを上げてしまっているけれど。


「あった、あったわよン。これこれ~」


 戻って来た店員が持っていたのは、真っ赤に燃え盛る炎を描いたようなブーツだ。足の甲は鉄か何かで補強してあって、まぁちょっとデキの悪い安全靴みたいな?


「これねぇ……なぁーにを考えて作られたのか知らないんだけど、『ハイ・スピード』と『ビッグ』の魔法が付与されてんのよぉ」

「な、なんでそんな魔法を……普通、防具に付与するなら属性耐性が向上する魔法でしょ?」

「だからぁー、普通じゃないからアタシのママンの代から売れ残ってんのよぉ」


 ママンって、母親のことなんだろうか。それとも父親のことなんだろうか?


「ハイ・スピードって魔法が具体的にどんなのか分からないけど、名前からして走るスピードが上がるんじゃないのか? それなら良い付与だと思うんだけど」

「違うわよ。移動速度を上昇させる魔法は、スピードアップって言うの」

「これはねぇ、物体を早く飛ばす魔法なのよん。投擲や投げ斧、投げ槍なんかには使えるんだけど」

「足でものを投げるなんて、出来ないでしょ? それにビッグは触れたものを大きくする魔法よ。効果時間は長くはないけどね」


 物を大きくして、物凄いスピードで投げる。

 そんな効果が付与されたブーツってことか。


 作った奴出てこいよ!


「ふふン。それでねぇ、あなた……」

「うわっ」


 お姉ェ店員がしゃがみ込んで、俺の足をぐわしと掴む。

 脹脛から太もも……あ、その上はやめてください。


 思わず後ずさりすると、「ちっ」という舌打ちが聞こえた。


「思ったとおりね。足の筋肉がとってもセクシーよ」

「筋肉がセクシーとかわけわからないんですけど」

「あなた──蹴り技を極める気はない?」


 蹴り……技?


 ドライブシュートとか、タイガーショットとか?


「このスキルカードとライガン革のジャケット。それにこのブーツのセットで500Gでどうよ!」

「買ったわ!」


 返事は何故かルーシェから上がった。

 お姉ェ店員が提示したスキルカードは、『キック』という蹴り技スキル。

 不人気過ぎて売り物にもならないらしい。

 500Gという値段は、ほぼジャケットの価格だ。


「蹴り技って、そんなに人気ないのか?」

「そうね。格闘技術として、スキルではなく誰でも使えるものにちょっと攻撃力を加えたものなのよ」

「だけどねぇ。足技って下半身のバランスとかも必要でしょう? それに敵を倒すなら蹴るより、武器で殴ったほうが早いじゃなぁい」


 それもそうか。


「効果を現したいときには、魔力を足に貯めればいいのン。分からなければ魔族ちゃんに聞くといいわン」

「慣れるまで大変そうね。ま、私が指導してあげるから大丈夫だけど」


 使うのにコツみたいなものがいるのか。

 でもこのブーツと組み合わせるなら、蹴り技というより完全にシュートだよな。


 お! なんだ、俺との相性っていいんじゃないか?

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る