第13話:生成スキル

 グソクムシのいた場所には、ころんと卵が一つ落ちていた。

 まさかあのグソクムシ……ママンだったのか!?


「あら、モンスターエッグね。珍しいものがドロップしたじゃない」

「モンスターエッグ? あ、お疲れさん」

「お、お疲れ様。ほら見て、ボスがいなくなったから、途端にレアモンスターもいなくなったわよ」


 本当だ。周りを見ると、モンスターの姿は一匹も見えなくなっていた。

 代わりにあちこちアイテムが落ちているけど、魔核を潰した分?

 落ちているアイテムに視線をやっていると、察したルーシェが教えてくれた。


「ダンジョンボスは召喚スキルを持っているんだけど、そのスキルで呼び出されたモンスターは倒せば必ずドロップアイテムを出すのよ」

「魔核を砕いてなくても?」

「というより、召喚モンスターは死体が残らない仕様なのよ。どうしてそうなのかは、誰も知らないわ」


 へぇ。なんかいい物落ちてないかなぁ……と思ったけれど、金銀銅の粒ばかりだ。そして圧倒的に銅が多い。


「そうでもないわよ。あれだけあれば二カ月分の宿賃にはなるわ。それにボスドロップのモンスターエッグもあるじゃない」

「二カ月分か。意外といいんだな」


 と喜んだところで、こんな小さな島に宿なんてある訳もなく……。


「ところでモンスターエッグって、いったいどんなアイテムなんだい?」

「モンスターが中に入っているんだけど、孵化させれば従属させることもできるわ」


 なるほど。テイマーの真似事が出来るのか。


「中に入ってるモンスターは、どんな種類が?」

「卵の種類によって違うの。私も詳しく分からないけど、あれはたぶん動物タイプが出てくる卵かしら」

「ほぉ。上手くいけばもふもふは出てくる訳ですな」

「もふもふ?」


 なんと!? もふもふを知らないとは。

 とりあえず卵インベントリに入れておくか。

 でもこれ、中で孵化とかしないよなぁ?






 セーフティーゾーンまで戻って来て一休み。

 さっきまでのモンスターハウスが嘘のように静かだ。といってもゴブリンはちょこちょこ遭遇するんだけどね。


「そういや、誰かが最下層をクリアしたら転送できるようになるって言ってたけど?」

「あぁ。あれね。魔法陣は階段脇限定なの。だから地上に戻る時も、一度そこまでは歩かなきゃいけないってね」

「なるほど。あ、今のうちにStPを振っておくかな」

「いいわねぇ。自由にステータスを上げられるなんて」


 だけどこっちの世界の人は、レベルアップするときに上がるのは1じゃないじゃん。

 俺的にはそっちのほうが羨ましいよ。


 さて、StPを何にするかなぁ。



 レベル65   MP:75/75

 腕力:185  体力:143  俊敏:102

 持久:108  器用:125  魔力:47


 StP:57


【転移ボーナス】

 EXPが1になる


【スキル】

 フィールドダンジョン生成1



 俊敏を上げるか、それとも魔力……。けど、魔法スキルが無いうちにこれを上げても勿体ないしなぁ。

 ……ん?


 スキル……あれ?


「ル、ルーシェ……俺、スキルを覚えたみたいだ」

「え!?」

「フィールドダンジョン……生成」

「……え?」


 ルーシェの反応からしても、彼女の知らないスキル?


「ダ、ダンジョン……つまりダンジョンを作るスキルってことよね?」

「これ、詳細とかって調べられる?」

「え、えぇ。ステータスウィンドウの下にアイコンがあるでしょ? そこにスキル一覧があるわよ」

「剣と雷のマークだよね。んー……いや、何も書かれてない。スキル名だけだ」

「え?」


 スキル欄にあった『フィールドダンジョン生成1』という項目をタップしても、切り替わった画面には同じようにスキル名があるだけ。

 それをルーシェに説明すると、彼女は手を顎に添えて考え込んでしまった。

 

「んー、まずタクミがスキルを覚えたってことなんだけど、考えられるのはそれがユニークスキルかもってこと。ねぇ、スキル名の横に何かエンブレムみたいなのない?」

「エンブレム……あぁ、六角形に細かい模様が描かれたのが付いてるね」

「それがユニークスキルのエンブレムなの。世界にただ一つのスキルよ」

「ええぇぇ!?」

「ま、ただ一つといっても、効果が異なるユニークスキルは結構あるのよ」


 なーんだ。俺だけなのかと一瞬期待しちゃったよ。

 けど、このフィールドダンジョン生成というスキルを持っているのは、今この瞬間には俺だけってことか。


「次に生成スキルね。私が知ってる限りなんだけど、牧場生成、農場生成、タウン生成の三つよ。そのどれも今は誰も所持していないけれど」

「ん? その言い方だと、あるユニークスキルを持っている人が亡くなったら、まったく同じユニークを持つ人が現れるかもってこと?」

「その通りよ。ユニークといっても、本当にピンキリなのよ。一番くだらないって思ったのは、全身発光ってユニークスキルよ」


 スキル名からしてどうしようもなさそうな効果に思える。

 で、効果も文字通り、スキルを使うと全身が光るものらしい。


「しかも微妙な光なのよ。たとえば薄暗いダンジョンでそれを使って、モンスターの目を眩ませられればいいけど、そこまでの光量じゃないんですって」

「ただの明かり……」

「人間ランタンなんていらないわよ」


 そんな下らないユニークは、実は意外とあるんだとか。

 どんなに汚れた水だろうと触れただけで飲料水に出来るとか、調味料の量を失敗しても必ず美味しくなるとか。

 戦闘とまったく関係ないスキルも少なくはないらしい。


「フィールドダンジョン生成っていうぐらいだもの、フィールドタイプのダンジョンを作れるスキル何だと思うわ」

「ダンジョンなんか作って、どうしろっていうんだろう?」

「さ、さぁ? 牧場や農場、タウン生成は重宝されたんだけどね」


 だけどねっていう〆方が、どこか意味深にも聞こえる。

 だけど実際問題、ダンジョン作ってどうするんだろう?

 ダンジョンマスター的な感じで、侵入者の生体エネルギーを奪ってうんちくかんちく……。


 いやそれ、思いっきり人類の敵側じゃないか。

 

「どんなスキルか、確認しておくのも大事だと思うわよ? 幸いここは小さな無人島ですもの。凶悪なダンジョンを作ってしまったとしても、誰もこないだろうから安心よ」

「なるほど。それもそうだね」

「スキルの使い方は、慣れるまでは口に出して言う方がいいわ。まぁ魔法は慣れても慣れなくてもそうなんだけど」


 スキル名を唱えればいいのか。

 じゃあ──


「"フィールドダンジョン生成"」


 そう唱えると、頭の中に声が響いた。


【スキルの使用には、空洞を作れるような場所に触れてください】

【例:壁・崖・地面】

【ダンジョン内のセーフティーゾーンでの生成は不可能です】


 という内容だった。



 

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