第12話:ダンジョンボス

 モンスターのリポップタイムは、だいたい30分から一時間ぐらいという。

 階段付近を掃除したあと、一気に奥へ目指すことにした。


「ルーシェ、レベルは?」

「176よ。レベル50ぐらいなら一撃で倒せるから平気」


 い、一撃で、しかも複数同時だもんな。

 時々袋小路になっている道に行きあたってしまった時には、やべーって思ったけど、逆にここを利用することに。

 通路の敵を一網打尽にすれば、その辺りにわざわざモンスターが来ない限りリポップまで数十分ある。

 その時間を利用してレベルドレインと、それから休憩時間をとった。


「なんとかルーシェのレベルはキープ出来ているな。こんだけ数が多いと、君頼りだもんなぁ」

「ふぅ。なんとかなってるわね。さすがにレベル100を切ると怖くなるけど」

「レベルが下がると、魔法の威力も?」

「えぇ。例えば最初にレベル100になったときに魔力が+10されていたとするでしょ? そしたらね、レベル100から99に下がるときにステータスは-10されるのよ」


 一度に+10もあがるのか……なんて羨ましい。


「ちなみにレベル99の時にレベルドレインして100にすると、魔力はまた+10されるわ」

「じゃあ最初にレベルが上がった時と、まったく同じ上昇の仕方をすると?」

「そうみたい。あとついでにね、ここに来て初めて分かったんだけど、ドレイン出来るのは最高レベル185までみたい」


 レベル185は彼女の元々のレベルだ。ドレインではそこまでしか上がらないというのが、さすが呪いといったところか。


 狩り、レベルドレイン&休憩を何度か挟み、不自然に開けた場所が見えた。もちろんそこもモンスターハウスだ。その中に、ひと際大きな虫……いや、モンスターが見える。


「またダンゴムシ……」

「でも体が平たいから、丸くなれないんじゃないかしら?」


 そういや少し平らな気もする。

 あぁあれ、テレビで見たことあるな。深海に住むやつで、きもかわいいとか言われてたグソクムシに似てる?

 

 どっちにしろビジュアル的にきもぃ。あれが可愛いなんて信じられないよ。

 もしかしてルーシェもそのタイプ?


 と思ったけれど、顔が無表情だ。あまり好意的ではないようだな。


「早くやっちゃいましょう」

「そうだな。じゃ──お願いします!」

「なにそれ、もう。私に頼りっきりじゃない」

「いやいや、スキルもない俺が、あの中に飛び込めるわけないだろ」

「分かってるわよ。さ、やるわよ」

「おう! もちろん何かあればすぐに俺が飛び出すから安心してくれ」


 後ろも警戒しつつ。彼女が呪文を唱えるのを待った。

 待った。


 ん?


「どうしたんだ、ルーシェ?」


 顔を覗き込むと、頬を両手を覆ってぽぉっとする彼女がいた。


「お、おい、大丈夫か?」

「へ!? だだ、大丈夫。い、行くわよ──"来たれ、戒めの業火──灼熱閃爆バーミリオン"」


 一瞬の間──そして耳をつんざく爆発音。

 ひぇーっ。凄い火力だな。


 たった一発で中にいたモンスターの半分が消し飛んだ。

 彼女がすぐに次の呪文の詠唱に入る。同時にモンスターもこちらに気づいて襲って来た。


 ごろごろ転がって来るダンゴムシを──蹴る!


「シュゥゥゥーット!」


 どこーんと蹴ったボウリングバグズがグソクムシに命中!


『ギョギッ』

「お、効いたのか?」

「下がって──"切り裂け、刃の風よ──烈風破斬ゼフィロスブレード"」


 今度は風属性か!?

 目視すら出来る三日月型の風の刃が、いくつも飛んで行ってモンスターを切り刻む。

 何体かは偶然にも魔核をぶった切ったのか、塵になってアイテムがころんと落ちている。


 だが──ほとんどのモンスターが倒れる中、あのグソクムシだけは悠然としている。


「うそ……まさかあいつ、魔法耐性が高いタイプなの!?」

「魔法が効果ないってことか? なら俺がやるしかない。ルーシェ、雑魚は任せる」

「わ、分かったわ。その前に……"見えざる魔法の鎧──マジカル・アーマー"」


 なんだか可愛らしいネーミングの魔法だな。

 ただ確実に防除系の補助魔法だってのは分かる。


「サンキュー、ルーシェ」

「ど、どういたしまして」


 ボスグソクムシに近づくと、物陰に隠れていたボウリングバグズとバウンドバグズが出て来た。

 バカの一つ覚えのように、転がるか跳ねるかの移動手段。おかげで蹴りやすいったらありゃしない。

 うん。短剣で斬るより効率がいいな。とくにボウリングのほうは地面を転がって来るので、斬るためには腰を曲げなきゃいけない。体勢が悪いんだ。

 バウンドのほうはタイミングが合えば短剣で突き、そうじゃないときは蹴る。

 もちろんグソクムシに向かって。


「……雑魚……少し残しておいた方がいいかしら?」

「あ、そうしてくれ。いやぁ、雑魚を攻撃しながらボスにもダメージ与えられるって、一石二鳥だろ?」

「そ、そうね」


 カサカサと必死に近寄って来ようとするグソクムシに、こっち来んなとばかりにバグズを蹴りまくる。

 あ、グソクムシの目が潰れてしまった。


『ギシャエオエ──』

「あ、悪い。そんなつもりじゃなかったんだ」


 そんなつもりとは、叫んだ奴の口の中にバグズを放り込んでしまったこと。

 不可抗力なんだ。


 吐きだそうとしているが、バグズのサイズがピッタリフィットして無理そうだ。

 まぁ俺は構わずシュートを決めまくるけど。

 やがて奴の細い足が一本、二本と次々折れていき、体を支えきれなくなって地面に這いつくばる。


 もう動け無さそうだな。それでも正面から行くのはどこか怖い。あと気持ち悪い。

 背後に回り込んでその背中に短剣を突き立てると、パキンっと音がした。


「あ、魔核?」


 グソクムシは黒い靄となってダンジョンの壁や天井、そして地面に溶け込んで行った。



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