第11話:地下五階

 地下四階は俺も足を踏み入れてないのもあって、五階への階段を見つけたのが夕方頃だった。

 階段を下りて少し進んでみるかと下りてみると……。


「ルーシェ……これ……どうすんだ?」

「迂闊だったわ。考えてみれば当たり前なのよ」


 階段を下りて半径10メートルぐらいにモンスターはいない。だけどその範囲の外はモンスターだらけだ。

 その数、ざっと見ても数十匹……。


 余りの多さに慌てて階段に逃げ込むと、俺たちに気づいた十数匹が階段下でガウガウ言っている。

 モンスターハウスだな、こりゃあ。

 階段は決して上り下り出来ないらしいけど、そうじゃなかったらと思うと生きている心地もしないな。


「誰も足を踏み入れてないダンジョンだから、こんな風にモンスターが溜まったのかぁ」

「ううん、そうじゃないの。前にもしたでしょ、ネームドモンスターの話」

「倒せば転送の魔法陣が出るって言う?」

「そう。ネームドモンスターは、最下層だけじゃなくって、十階毎に湧くのよ」

「いや、でもここ五階……あ、もしかしてここが……このダンジョンの最下層?」


 ルーシェは頷いて階段下を睨む。


「ネームドが湧くとね、それまで生息していたモンスターにプラスして、レアモンスターが湧くの。それが元々いた数の数倍なものだから……」

「こんなことになるのか」


 俺も階段の下に視線を向けた。

 さっきまで唸っていたモンスターは、何故か俺たちに興味なさ気な様子で徘徊を始めている。


「あ、これって階段からアレを倒せないのか?」

「倒せるわよ。"炎よ渦巻け──フレイム・サークル"」


 ゴウッと階段の下にドーム型の炎が燃え上がった。その範囲内にいたモンスターが消し炭になる。


「どう、レベル上がった?」

「え……あれ、40のままだ」


 地下四階はレベル28から30のモンスターがいた。だから俺の最大レベルは40なのだが……何匹か倒しているはずなのに、レベルは上がってない。


「楽しても、それは強さにはならない。っていうのが、神様ってのの考えなんでしょうね」

「ズルはダメってことか。じゃあ下に行かなきゃダメなんだな」

「今夜は少し戻ってセーフティーゾーンで休みましょう。さすがにここじゃ落ち着いて眠れないわ」

「そうだな。でも少しレベルを上げてもいい?」


 ルーシェは頷き、二人で揃って階段下から左右の通路を確認した。

 俺は右を、彼女は左を。


 10メートル先にモンスター……いっぱい。


「左のすぐ近くに一匹よ。奥にはいっぱいだけど」

「じゃあその一匹を俺が食い止めるから、ルーシェは奥に一発、魔法を打ち込んでくれるか?」

「倒したらすぐ階段ね」

「もち」


 短剣を握りしめて階段を下りる。左通路にいたモンスターが俺に気づき、襲って来た。

 俺には攻撃スキルがない。だがレベルが上がりやすいので、ぽんぽん増えるStPを腕力に振って攻撃力の底上げは出来る。

 

「おっりゃぁー!」

『ゴシャッ』


 雑魚オブザ雑魚のゴブリンか。まさかこいつがレアモンスター?

 と思ったが、あっさり一撃で倒せた。

 核を潰したのではなく、急所である首を斬って倒した。

 

 その間に後ろで爆音がして、「戻るわよ!」というルーシェの声が。

 すぐに階段へと引き返すと、またガウガウと吠えるモンスターが。その中にゴブリンも混ざっていた。


「あの緑色のガリガリに痩せ細った小鬼みたいなのは、ゴブリンとかって名前だったりする?」

「あら、よく知っているわね。あいつはたぶん、この階層に元から生息している奴ね。あいつのレベルは32だもの」

「やっぱり雑魚ってこと?」

「もちろんよ。あ、レベルはいくつになったかしら」


 んー、今ので俺のレベルは……。


 うわぁーお。レベル53になってるよ……。俺が一匹倒している間に、ルーシェは十二匹も倒したのか。

 やっぱり魔法って凄いな。


「それにしても、このやり方だとドロップアイテムを拾う余裕が無いわね」

「でも魔法で倒したら魔核は潰せないんじゃなかったっけ?」

「モンスターを倒して数分は魔核も残っているのよ。無抵抗なモンスター相手だと、魔核も難なく潰せるでしょ? そうでなければこの世界の魔術師は、パーティーにも入れなければお金も稼げず飢え死によ」


 あぁ、そうか。ただ数分というタイムリミットがあるので、出来れば直接魔核を潰せるような攻撃のほうがいいんだろうな。

 ちなみにゴブリンのドロップは……


「石。薬草、あとは金銀銅だけど、石と銅率が異常に高いから、嫌われ者筆頭モンスターね」


 クソ雑魚過ぎ。

 まぁどっちにしろ、もたもたしていたらあっという間に囲まれるこの状況じゃ、倒した後に魔核狙うのも無理だ。


 次のトライで俺のレベルは64になったが、倒したモンスターの数を考えるとこれが経験値を獲得できる限界レベルのようだった。


「レアモンスターのレベルは54みたいだな」

「ボウリングバグズとバウンドバグズがレアモンスターね」


 50センチ超えのダンゴムシで、丸まってコロバるのがボウリングバグズ。跳ねてるのがバウンドバグズ。

 どちらも高速移動……するわけでもないので、脅威とはいえない。

 ただボウリングは地面を転がり回っているので、短剣を振るうにしてもしゃがまなきゃならないので狙いにくい。

 跳ねる方もタイミングを合わせないと空振りしてしまう。

 案外厄介なモンスターだな。


「あぁ、じっとしてろクソが!」


 何度目かの空振りでイラっとして、ついやってしまった。

 いや、ある意味いつもの癖というのかな。

 丸くなったバグズを、俺は利き足で蹴飛ばした。


「お、いい感触」


 サッカーボールを蹴っているようだった。

 弾力性があり、適度な硬さの皮膚は、まるでサッカーボールだ。

 思いっきり蹴ったのもあって、壁にぶちあたると……エ、エグいことになった。


 べしゃっという音と共に、中身がでろーん。


「うっ……気持ち悪い」

「タクミ、いったん引きましょう」

「オケ」


 そっか。ダンゴムシ系に蹴りは有効なんだな。

 ふぅ、サッカーしといてよかったぜ。


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