第10話:ステーキ肉

 地下への移動を開始したのは翌日から。

 一階でレベルドレインを三度行い、彼女のレベルは149になったそうだ。俺は限界の31まで上げて終了。


「え、この世界のレベルの上限って……999なのかい?」

「たぶん、ね。そこまで上げた人は、記録にはないみたいだから」

「知られているので一番レベルの高い人は?」

「823! 百五十年前に、南の大陸の戦乱を沈めたって言う英雄よ! あ、南っていうのは、私の故郷のある大陸から見てのことね」


 800超えかぁ。そうとう強かったんだろうなぁ。

 レベル三桁ってことは、30とか40ってもしかして……。


「い、言いにくいんだけど……雑魚……ね」

「雑魚おぉぉぉ……おお、おおぅ」

「まぁ私も元々はレベル185だけど、それでもやっと一人前の冒険者として見て貰えるかもってぐらいなんだから」

「うへぇー。この世界のレベル事情、半端ないじゃん」


 地下二階へは半日かけて到着し、ここでも階段で野宿。

 ミニボアの魔核を破壊して倒すと、ボア肉がぽろんと落ちることも分かった。


「なんで肉の塊がドロップするんだろう」

「そりゃあ動物系モンスターだもの。他にも毛皮や骨をドロップすることもあるわよ」


 そういう意味じゃないんだけど……。まぁこれがこの世界の人にとって『当たり前』なことであって、疑問を抱くこともないのだろう。


「けど魔核を破壊せずに倒せば、肉や毛皮も全部取れるんじゃ?」

「そうよ。ただし死体を置いておくと、すーぐ掃除屋が集まって来るのよね。あいつら、めちゃくちゃ弱いんだけど、とにかく数が集まるから」

「あぁ、スライムか」

「弱いけど、何十匹ものスライムに一斉に襲われると、案外人なんてあっさり死んじゃうのよ」


 そう言ってルーシェは口を鼻を抑えた。

 なるほど。呼吸が出来なくなるほど覆いかぶさられるとそうなってしまうか。


「それにね。魔核を壊す方法以外で倒しちゃうと、素材の傷みが早いらしいの。実際お肉なんて、三日目にはもう腐って食べられなくなるんですって」

「へぇ。じゃあ量は減っても、魔核破壊のほうがいいのか」


 ミニボアの肉は手のひらサイズのブロックの形でドロップした。200グラムのステーキぐらいかな。

 普通に持ち歩いても、この肉は一週間ほど持つそうだ。

 冒険者の多くはドロップした肉を持ち運ぶために、専用の紙や大きな葉っぱを持ち歩いているらしい。


「私は香草を持ってるの。これに包めば生臭さも消えるし、包んでいるだけで味も染み込むから一石二鳥なのよ」


 ただし高価だけどね──と彼女は付け加えた。


「売り物ってことは、栽培?」

「えぇ。暖かい地方だと自生している香草もあるけど、でも虫食いもあるから」

「あぁ、なるほど」

「虫に食われていたりすると、その部分に猛毒が付着していたりするから。それで年間何人かの冒険者や旅人が命を落とすのよ」


 こわ!

 この世界の大自然怖すぎだろ!






 地下二階から三階まで半日、そして三階のあの小部屋に到着したのは夜のことだった。


「ルーシェの懐中時計がなかったら、時間もさっぱり分からないだろうな」

「ダンジョンの中はいつでも一定の明るさだもの、仕方ないわ。冒険者はたいてい持っているものよ」


 俺のリュックにもスマホが入っているけど、とっくに電池切れしている。


「各階にこういう部屋があったけど、これって?」

「セーフティーゾーンよ。どこのダンジョンでもあるけど、難易度の高い所だと各階じゃないのよね」

「休憩スペースなのか。なんでこんなものがダンジョンに」

「さぁ? 一説には、ダンジョンは神から与えられた試練の場だって言われているわ。命を落とすこともあるけど、救いもあるって」


 その救いがセーフティーゾーンか。

 

 地下三階にはレベル25前後のモンスターが生息していた。俺のレベルは最大で35まで上げられるが、ここに到着するまでに何度もレベルドレインをし、再レベルアップしている。

 夜のうちにステータスを振り分け、今はこうだ。




 レベル35   MP:75/75

 腕力:80  体力:89  俊敏:52

 持久:58  器用:75  魔力:47


 StP:2


【転移ボーナス】

 EXPが1になる


【スキル】



 レベルはこの二日で250ぐらい上がったかな。つまり250匹以上は倒していることになる。


「他の冒険者がいないから、戦闘回数は凄く多いわよ。タクミがいなかったら、直ぐに私のレベルは1になってたわね」

「200ぐらい譲渡しているもんな。でもモンスター単体なら、俺でも倒せるから魔法は使わなくてもいいのに」

「だってタクミだってレベルが上がらないのにモンスターを倒しても勿体ないじゃない。せめてスキルカード産でも持ってれば別だけどさ」

「ス、スキルカード? なんだい、それ」


 カードに魔法が封じ込められていて、カードをしゅっとしたら魔法が飛び出すのかな?


「カードの中にスキルが封じ込められているんだけど、それを使うとスキルを覚えることが出来るの」

「おぉ! 想像していたよりもっと凄いのキタ」

「で、モンスタードロップなのよ」

「おぉう……レアドロップ求めてダンジョンを周回するパターンキタ」


 あぁ、懐かしいなぁ。

 欲しいレアドロ武器を求めて、半年近く同じダンジョンに引き籠った思い出。

 結局でなくって、その半年で収集したアイテム売却したら、それを買える金額になっていたっていう。


 ふふ、懐かしいな。ふふふ。


「ど、どうしたのタクミ?」

「あ、いやなんでもない。それで、スキルカードがあると何かいいことが?」

「カードで覚えたスキルがあればってことね。んー、この世界のスキルはね、人に学んだり努力して見につけるものと、スキルカードやユニークスキルみたいにモンスターを倒して得るものとがあるの」


 ユニークときましたか。それはまたあとで聞くとして──


「後者の場合、覚えただけじゃスキルのレベルは上がらないの」

「へぇ」

「前者の場合だと、使用することが経験になってレベルを上げられるんだけど、後者の場合は経験値の分配設定をしなきゃいけないのよ」


 完全にゲームのノリだな。

 スキルカードで手に入れたスキルは、ステータス画面で確認した時に経験値の分配設定が出来るそうだ。

 モンスターを倒して得た経験値の何割かを、スキルの経験値として振り分けられる。そういう仕組みだ。


「でも俺の場合、経験値は1で固定だしなぁ」

「スキルレベルのアップに必要な経験値も1になってないのかしら?」

「……え」


 考えても見なかった。

 いや、今現在スキルを持っていないのだから当たり前か。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る