第9話:吸ってくれ!
「それでレベルが31に?」
目を覚ましたルーシェに、薪をたくさん用意できたから新しく出さなくてもいい──ということを伝え、ついでにレベルが上がった報告もした。
実際には三十匹ぐらいモンスターを倒しているんだけど、地下一階のモンスターはレベル20前後と、あっという間に経験値が貰える上限に達していた。
レベルが31になったってことは、レベル21のモンスターがいたんだろう。
「それでさ、ちょっと不思議なことがあったんだけど教えてくれないか?」
「不思議?」
「あぁ。ウリボーがいてさ」
「ウリ? え、何がいたの?」
ウリボーが分からないのか。じゃあ、
「猪の子供」
「猪……あぁボアね。それ、子供じゃなくってミニボアっていうモンスターよ。そいつもいたの?」
あれは猪の子供モンスターじゃなくって、そういう種族なのか。
まぁ後ろから見た時は可愛かったが、振り向いた時にはげんなりするほどブサイクだったしなぁ。
そのミニボアを倒した時、何かが割れるような音がした。そして死体は残らず、代わりに銀色の小さな石が落ちていた。
「あぁそれね。モンスターの体内には魔核と呼ばれるものがあるの。心臓とは別に、それも急所の一つよ」
「二つ目の心臓みたいな?」
「そ。だけど心臓が止まると暫くして、魔核は消えてなくなるの。その前に壊せれば肉体は消滅して、代わりにアイテムを落とすって訳」
ドロップアイテム!
じゃあミニボアを倒した時、運よくその魔核っていうのを壊せたのか。
たまたま貫いた場所にそれがあったのかもしれない。
「で、これはポピュラーなドロップアイテムで、銀の粒よ。買取屋や冒険者ギルドに持って行けば、重さに応じて換金して貰えるの。この世界の通貨でもあるからね」
「銀……じゃあ金とか銅もあったり?」
「えぇ。ただ落すものは完全にランダムで、最強種のドラゴンから銅の粒が……なんて話も聞いたことあるわ」
ドラゴン倒してそのドロップが銅貨の材料とか凹むな。
「じゃあこの世界には、金銀銅は鉱山から取れるわけでは……」
「何言ってるのよ。鉱山から取れる訳ないじゃない」
金銀銅の産出元はモンスター……。しかも彼女の話だと、この世界の金銀銅は俺が知るソレとは随分違う。まさかの耐久年数あり!
「え、じゃあ十年で消えてしまうのか?」
「そうよ。十年ぐらいたつと色あせてくるの。そうしたら両替所に持って行って、新しい硬貨と交換して貰うのよ」
「タダで?」
「もちろん。偽物でなければね」
あぁ、色あせた硬貨のふりして偽物を持ってくる奴もいるのか。
両替所には鑑定士がいて、直ぐに偽物かどうかバレてしまう。たまに巧妙な、鑑定妨害を施したものを持ち込むプロもいるらしい。
「だけど硬貨偽造は、バレると極刑なの。そうそうやる奴なんていないみたいだけどね」
「なるほどねぇ。じゃあモンスター退治を生業にする職業も人気なんだ」
「命懸けだけどね。戦うだけの力が無ければ出来ないんですもの」
それもそうか。それに、ドラゴンから銅って……倒し甲斐もまったくないし。
そのことを話すと、ルーシェは小さく笑って「ごめんなさい」と謝った。
「さっきのは『そういうこともあった』ってだけで、ドロップするのは粒だけじゃないの。レベルの高いモンスターになればなるほど、それ以外をドロップする確率の方が高くなってくるわ」
「じゃあドラゴンから銅を出した人は……めちゃくちゃ不運だったってこと?」
「そりゃそうよ。伝説にまでなるほどだもの」
「うへぇ。嫌な伝説だなぁ」
まぁある意味、激レアを引いたとも言えるんだろうな。
そんな話をしていると、ふと階段上から光が差し込んで来た。
もしかして──
「朝だ……嵐も収まったみたいだぞ」
「本当だわ。外に出てみましょうっ」
二人で階段を駆け上がり外へと出ると、真っ青の空と、それを映し出す海とが広がっていた。
「まだ少し波があるけど、遠くまで見渡せる。島とか、他に船とか見えないか?」
「……ダメね。いったいここ、どこなのかしら」
島をぐるりと一周してみたけれど、水平線の彼方までなー……んにもなし。
あったのは島に打ち上げられた魚数匹だけだった。
「食べられる魚?」
「もちろんよ。煙でいぶして、保存食にしましょう」
ついでに朝飯だ。
切り株オバケをぶつ切りにした薪を外に運び出して焚火を作る。
ルーシェが三脚のようなものを取り出し、それを焚火を囲むようにして置いた。
三脚の上に細い鎖があって、それに彼女が捌いた魚を釣るしていく。
「へぇ、そんな道具まで持ち歩いているのか」
「旅をしていると、こうして魚や動物を仕留めて食べることもあるわ。でもそれだって毎日捕れるわけじゃないもの」
「捕れた時に燻製にして、日持ちさせるってことか」
「そういうこと。時間があれば、本当は一度塩漬けにして、それからまた真水で洗って乾燥させてってやりたいんだけど……」
さすがにそれをやる時間はない。
一尾を除いて燻製にし、塩水で味付けした魚は焚火で焼いて直接食べた。
それから階段で少し休んで、起きてから行動開始だ。
「と言っても、まずは私とあんたのレベル上げね」
「了解。薪ももっと集めておいた方がいいだろう?」
「そうね。下の階層に植物系モンスターが出るとは限らないし、集められるだけ集めておきましょう」
「じゃあますは……吸ってくれ!」
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