第8話:ちゅむーっ
「さ、準備OKだ。いつでも吸ってくれ!」
と、彼女の前で仁王立ち。
レベルドレインって、どうやるんだろう?
そんな興味もあって、彼女をじっと見つめた。
「や、やってみるわ。私も初めてだから……吸い過ぎたらごめんなさい」
「いいさ。その時はまたスライムを倒せばいいんだから」
「別にスライムじゃなくってもいいじゃない……スライムなら群れていたら、私の魔法で一発元通りよ」
笑みを浮かべたルーシェが俺の右手を掴む。
彼女は俺の掌に唇を付け──軽く吸い付いた。
えっ
えっ
ええぇぇーっ!?
吸うの?
俺の手、吸うの?
なんかくすぐったい。あと物凄く恥ずかしい。
そんな時間が数十秒続いた。
「ふぅ……レベル……10貰ったけど……どう?」
頬を赤らめたルーシェは、そう言って俺を見つめた。
パーティーを組む。そうすることで、モンスターを倒した時の経験値が公平に分配されるようになる。
といっても、俺は常に獲得経験値1なんだけども。
「でもどうやってパーティーを組むんだい?」
この世界はゲームのようで、ゲームではない。システムでちょいちょいって訳にはいかないだろう。
「こうやるの」
そう言ってルーシェが手を差し出す。
手を……どうすればいいのだろう?
首を傾げていると、ルーシェが俺の手を握って階段を下り始めた。
そして一番下まで下りた時、頭の中で【汝、その手に触れし者と絆を結ぶか?】という声がした。
「え? い、今のは?」
「頭に直接声が聞こえたでしょ? それを承諾すればパーティーが結ばれるの」
「し、承諾? えっと、承諾します」
「ふふ。声に出さなくても、そういう意思で示せばいいのよ。まぁ慣れるまではみんなタクミみたいに、声に出しているんだけどね」
つまり声に出して返事をするのは、初心者あるあるってことか。
うん。オンラインゲームで相手をパーティーに誘うより簡単な方法だった。
でも本当にこれで経験値が分配されるのかな?
そこで地下一階のモンスターを一匹誘導し、階段の近くまで連れて来てから倒して待つ。
スライムはダンジョンの掃除屋で、人だろうがモンスターだろうが、とにかく死体があれば群がって来る。
わらわらと集まってスライムを、ルーシェが魔法で一網打尽にした。
「凄い……俺何もしていないのに、レベルが上がった」
まぁ水色がいなかったから11にしかなっていない。
だけど今ので経験値分配の確認は出来た。本当にゲームみたいな世界だな。
「スライムだけは、全てのダンジョン、全ての階層に生息しているの。まぁ天井の穴から出入りしているから、全部の階層を行き来しているだけって話もあるけどね」
「あ、天井の穴に帰っていくの、俺も見たよ」
「ふふ、そうなのね。とりあえずここのダンジョンは、地下一階で適正レベル20ぐらいね」
「そんなことも分かるのか?」
彼女は笑みを浮かべ、さっき倒したモンスターの死体を指差した。といっても黒焦げになっていて、さすがにこうなるとスライムは来ないらしい。
「キルラット。レベル20のモンスターよ。ダンジョンではね、同一階に生息しているモンスターのレベルは、だいたい一緒なの。多少前後していることもあるけどね」
RPGと同じだな。ネットゲームだろうとコンシューマーだろうと、だいたいそういう設定だったし。
この階でレベル20なら、30までは上げられるってことだな。
ルーシェのレベルドレインで、StPがリセットされないのは分かった。そしてポイントで増やした分のステータスも下がっていない。
で、今レベルが11上がって、StPは残しておいた分も合わせて12に増えている。
レベルドレインから再レベルアップをさせることで、StPをいくらでも溜められるってことだ。
「ねぇあん──タクミ。あなたさえよければ、ここのダンジョンを攻略してみない?」
「やりたい!」
思わず即答してしまった。
レベルは簡単に上がる。貰えるStPは1だけど、塵も積もればなんとやらだ。
それに、まだ誰もクリアしていないダンジョンが目の前にある。
サッカーの練習の息抜きにやっていたオンラインゲームでも、攻略が難しくてまだ誰もクリアしていないダンジョンなんかはあった。
仲間うちでそれを攻略しようって、結構頑張った経験もある。
そりゃあ行くしかないだろ。
「だけどルーシェは大丈夫なのか? 漂流してたし、疲れているんじゃ?」
「何も今から行こうなんて言わないわよ。タクミの言う通り、さすがに今日は体がだるいし、明日以降ね」
「はは、だよな」
「寝袋は一つなの。モンスターは階層を跨ぐ移動は出来ないわ。スライムを覗いてね。でも見張りはいたほうが安心するし、交代で休みましょう」
それは賛成だ。万が一ってこともあるからな。
ルーシェが先に休み、俺が見張りをやる。
彼女が休んでいる間の薪を出して貰い、万が一に備え──
「これを使って」
「お、短剣?」
「護身用のね。あまり良いものじゃないけど、素手よりはマシでしょ?」
「ありがとう。使わせて貰うよ」
彼女は寝袋を取り出し、少し幅の広くなっている段で横になる。
「もしレベル上げをしたいなら、石を持っているといいわ」
「石?」
「ん。階段の周辺にはモンスターは寄ってこないけど、石を投げて当たればこちらにもやって来るわ」
「なるほど。釣れってことか」
「そ……でも気を付けてね……十分に……何かあったらすぐ呼んで……」
彼女が目を閉じて、ほんの数秒だった。
よっぽど疲れていたんだな。もう寝息を立てて、ぐっすり眠っている。
よし、釣り作戦か。
階段の下は左右に伸びる通路しかない。数十メートル先には枝分かれした通路も見えるが、そこまでは行かないようにしよう。
暫く待つと枝分かれした通路からモンスターが現れた。切り株のあいつだ。
落ちている小石を蹴って、切り株に命中。
足代りの根っこはカサカサと素早く動き、なかなか不気味な移動をしてやって来た。
木って、短剣で斬れるんだろうか?
なんて心配もしたが、あっさりと斬れた。さすがにこれでは倒せず、蹴り飛ばして壁に叩きつけると動かなくなった。
「これ、薪にならないかな?」
短剣で斬れるなら、ちょうどいい大きさにしてみよう。
切り分けても特に内臓とかはなく、やっぱり木だ。
階段に戻って試しに一本焚火に入れてみると、パチパチと音を立てて燃え始めた。
よし。ルーシェが眠っている間に、薪を補充しておくか。
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この作品は・・・・・
えっちではありません!!!
えっちではありません!!!
大事なことなので二度書きました。
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