第14話:精霊

 一度階段まで行って、魔法陣を使って地下一階へと戻った。

 すぐ脇には地上へと出るための階段がある。

 その一階の壁に手を突いて、もう一度詠唱した。


「"フィールドダンジョン生成"」


 ──と。

 すると壁にぽっかりと穴が空いた。穴と言っても縦横2メートルの、アーチ状になった穴だ。


「この中がダンジョン……なんだろうか?」

「え? この中って、どの中?」

「どのって……まさか見えてない?」


 こんなに大きな穴、気づかないはずがない。あるとすれば、見えていないという以外に考えられない。

 するとルーシェは首を傾げ「見えないわ」と答えた。


「もしかして術者だけ? でもそんな生成スキル、なんの役に立つのだろう?」

「さ、さぁ? どうするタクミ。あなたしか中に入れそうにないし、危険なら止めておく?」

「いや、入ってみるよ。俺が術者なんだし、中にモンスターがいてもたぶん襲って来ないだろうと思う」


 その自信はないけれど。


「わ、分かったわ。防御魔法をかけるわね。さっきのはとっくに効果時間切れてるし」

「うん。ありがとう、助かるよルーシェ」

「お、お礼なんていいのよ。気を付けてね──"見えざる魔法の鎧──マジカル・アーマー"」


 防御魔法を貰って、更に彼女から万が一にとランタンを手渡された。

 火は点いていない。代わりに魔法のライトを灯してくれた。


 もう一度お礼を言って穴の中へと一歩進む。

 入って数歩進むと下り階段に。振り返ると、心配そうに俺を見つめるルーシェがいた。

 いや、たぶん俺の姿は見えていないのだろう。彼女にとってここは壁なのだから。


 階段を降りた先は暗黒の世界、かと思いきや突然頭の中に声が響いた。


【ダンジョンが生成されます。以下からフィールドタイプを選択してください】


 目の前に浮かぶ白い文字は三つ。これが選択可能なフィールドタイプってことだろう。

 

【草原タイプ】【草原&森林タイプ】【砂漠タイプ】


 とりあえず草原にしておこう。


【選択が完了しました──フィールド生成が完了しました】


 メッセージの後、突然視界が開けた。

 風が吹き、空には太陽と白い雲まである。足元には草、確かに草原……かな?


 地上とまったく同じ──という訳ではない。


「意外と狭いな」


 500メートル×500メートルぐらいか。壁に囲まれた正方形っぽいのフィールドだ。

 壁はずーっと空まで伸びていて、途中からもう見えない。


 で……これだけ?

 ただフィールド作るだけなのか!?

 

「こ、こんにちは、マスター」

「こんにち……え?」


 声がして思わず返事をしたが、いったい誰がここにいるって?

 答えは──


「ワ、ワタシはダンジョンの精霊なの」


 と、頬を染めた幼女がいた。


「マスター、ワタシに……お名前つけてください」

「な、名前!? いや、ダンジョンの精霊って、いったいなんあんだ?」


 幼女は首を傾げてきょとんとする。

 それからはっとなって、


「ゴメンナサイッ。マ、マスターは生成スキル初めてで、分からないですよね。えっと、えっと……」


 首を右に左に傾げて、ぽんっと手を叩いた。何かを思い出したようだ。


「ワタシはユニークスキル『フィールドダンジョン生成』をお手伝いする精霊です。ダンジョン造りのサポートをする精霊なの」

「精霊なんているのか……他の生成系スキルにも」

「はい! マスター、まずはお名前が欲しいです。名前を付けて貰えないと、力が発揮できないので」


 な、名前……ねぇ……。

 うぅーん、うぅーん。


 チラりと幼女を見る。外見的特徴で何か浮かばないかな。

 長い髪は癖のあるふわふわとした感じで、瞳の色と同じ薄いピンク色だ。

 まるで桃の花のような……お、なんかいけそうだ。


 桃花──トウカ。


「トーカはどうだ? 桃の花みたいな、可愛い色の髪と瞳をイメージしてみた」

「トー……カ。はいっ。トーカーはトーカに決まりました」


 そう言って、トーカが花のような笑みを浮かべた。


「ではマスター。早速ですが、生成スキルを上げましょう!」

「上げましょうって、どうやって上げるんだよ。ダンジョンを生成しまくるのか?」

「それでは上がりません。まずどこかでモンスターを倒していただかなくては」


 戦闘か。モンスターならなんでもいいんだろうか?


「スキルレベルを上げるのに、モンスターのレベルはどれでもいいのか?」

「そりゃあダメに決まっていますよぉ。マスターのレベルはおいくつですか?」

「ん、65」

「おや、思ったよりもひく──あ、いえなんでもありません」


 こいつ今さらっと「低い」って言おうとしたな。

 くっ。カンストレベル999の世界で65って言えば、まだまだ雑魚の域を出られないんだろうけどさ。


「それでしたら、最低でもレベル56のモンスターでないといけませんね。出来れば60ぐらいがいいですが」

「うぅん。それは無理だなぁ。最下層でもレベル32のゴブリンだし」

「そうなのですか……困りましたねぇ」


 ネームドボスタイムになれば、またさっきみたいなモンスターハウスになるだろうけど。次いつリポップするか分からないしなぁ。

 うぅーん困ったな。


「あ、そうだ!」


 だったら俺のレベルを下げればいいじゃないか!


「レベルを30ぐらいまで下げれば、どの階層でも経験値が入る──はずだ」

「え? レベルを30に下げ……え?」


 混乱するトーカを他所に、俺は階段を駆け上がって外へと出た。

 そこで待つルーシェに向かって、


「ルーシェ、吸ってくれ!」


 と声を掛けた。


「え? す、吸う!?」

「あぁ、吸ってくれ」


 右手を差し出し、その手を彼女がじっと見つめる。

 その顔は真っ赤になっていて、それから思い出したかのように両手で頬を抑えた。


「レ、レベルドレインね。うん、そういうことね」

「いや、そういうことって。それ以外に何が?」

「なんでもないわっ。それで、いくつまで下げるの?」

「そうだな。40ぐらい下げれば、どこの階層でも経験値が貰えるだろ?」


 レベルはいつでも簡単に上げられる。スキルレベルも簡単に上がるといいなぁ。


「吸うのはいいんだけど、タクミ、その子……誰?」


 と、ルーシェがもっともな質問をしてくる。

 その問いかけにトーカがドヤ顔で、


「マスターの嫁ですぅ!」


 と答えるので、とりあえず空手チョップをしておいた。

 あと、ルーシェの顔が凄く怖くなった。


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