第5話

 俺の婚約が俺自身に伝えられてから、死ぬほどマナーや作法を教え込まれてから、2ヶ月が経ったーー


 「アルバートお坊ちゃま、いよいよ顔合わせでございますね」


 「ソウデスネ」


 「お相手は王女様ですから、粗相のないように気を付けねばなりませよ?」


 「ソウデスネ」


 「…レッスンの復習をなさいますか?」


 「すいません、ごめんなさい、勘弁してください」


 「全く…そこまで不安にならなくとも、努力を積み重ねてこられたのですから、堂々となさらばよいのですよ」


 「うーん、不安ってわけじゃなくて単にメンドクせーんだよなぁ。ま、精々頑張りますよーっと」


 (本当に大丈夫かしら?)


そんなこんなで準備をしているとーー


 「アルバート様、王女様がそろそろご到着なされるとのことです」 

 

 「分かった。俺もそろそろ玄関に向かうわ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 大層、豪勢な馬車がうちの屋敷の前に停まりそこから天使と見紛うような可愛い容姿をした少女が、これまたキレイな容姿のメイドさんに手を借りながら降りてきた


 (王家ってだけで、何で俺と婚約したのか分かんなかったけど、本人を前にすると余計分かんなくなるな)

「始めまして、リニア王女。お……私がアルバート・ハイスインツ・フォン・クランバルグ・ラルファルグでございます」 


「え、えーと、わたしが…りにあ・らんくりあす・りるくりあ・らるふぁるふぐ…よ」


 (うーん、メチャクチャ緊張してんなぁ。ま、俺と同い年だからしゃーねぇか。俺もマナーとかそこら辺は自信ねぇしなぁ、シルハには悪いが)

「ご丁寧にありがとうございます。よければこれから屋敷の案内をさせて貰いますが」


「どうして…あなたがわざわざ……?」


「いえ、せっかくですので友好を深めようと思いまして……」


 勿論これは嘘で父から使用人伝に王女を応接間から少しの間離せと言われていたからだ。大方お姫様がいてはしにくいお話があるのだろう。

 

「ご迷惑でしたら……」


「う、ううん、ぜんぜんめいわくじゃないです…じゃなくて、めいわくじゃないわ」


「良かった。では早速……」


「まって!あの、その…」


「どうかないましたか?」


「え、えっと……て、てを」


「……わが屋敷は広いのでよろしければお手を拝借しても?」


「……!はい、よろこんで!!」


何故かは知らないが、手を繋がせて貰えるくらいには気に入られたようで、俺は少しだけ安堵した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とりあえず一通り屋敷を案内し終えた俺は応接間に戻ろうとしたのだがー


「いや!!まだふたりでいたい!」


「ですが、そろそろ応接間に参らねば…」


「いやったらいやなの!!……そんなにわたしとふたりはいやなの?」


「そのようなことは…ただそろそろ戻らなければ怒られてしまいますよ?」


「でも、でも、、」


「……分かりました。では私の取って置きの場所に案内しますので、それでどうかご容赦を」


「とっておき?」


「私とリニア様の、たった二人しか知らない場所です…気になります?」


「!うん、わたしとってもとってもきになるわ!!」


「ではこちらへ、あ、後これは二人の秘密ですよ。誰にも知られてはなりません。……それと、そこからは帰ったらすぐに皆の元に戻りましょうね」


「うん、わかったわ。だれにもいわないしかえったら、みんなのところにすぐにもどるわ」


「では、行きましょうか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 取って置きの場所とは勿論「裏山」の「隠れ家」のことだ。こういうのは子供には大ウケだろうと思ったのだ。


「すごい!すごいわ!!まるで、えっと、とにかくすごいわ!!!」


「お気に召したようで何よりです。」


 思った通り、王女様には大ウケで大はしゃぎしておひ、さっきまでは緊張していたのに年齢相応な所が見えており、とても微笑ましい光景が広がっている


「このいえはだれがつくったの?」


「僭越ながら、私めが」


「へぇー、あなたはしょうらいきっとすごいけんちくかになれるわ!!」


「……フフッ。ええ、リニア様のお墨付きなら、それこそ世界で一番の建築家になれそうですね」


「ええ。そうなったらわたしおとうさまとおかあさまにわたしのだんなさまはせかいいちのけんちくかなんだってじまんするわ!」


「それは……素敵ですね」


「うん、とってもとってもすてきね!」

「……ねえ、またわたしがあなたのおやしきにきたらここにつれていってくれる?」


「勿論、喜んでご案内いたします」


「ほんと?ぜったいよ?やくそくよ?」


「ええ、約束でございます」


「やった!やった!」


「では、そろそろ戻りましょうか。リニア様」


「はい。……あの、てをつ、つないで?」


「…!勿論、喜んで」


「…えへへ」


(前世の年齢だったら犯罪だなぁこれ)

(ま、王女様とも親しくなれたし万々歳だな。

…………どこに行ってたのかの言い訳がクソダリィけど。ま、いっか)


 





 


 その後、この王女と俺の小さくされど大切な約束が守られることはなかったのだった。






 

 


 

 

 

 

 

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