第67話・呪われたお姫さま
「さあて、そこのアロアナ姫についてだが」
陛下がじろりとわたしの偽者を見る。そこへカウイさまが待ったをかけた。
「陛下。その者に関してはこちらの者が詳しいかと思います。ナツヒコどの。これへ」
「ナツヒコ?」
陛下が首を傾げると、周囲からは「勇者さまでは?」と、声があがった。ナツの名前は勇者として知られている。陛下は知らないの?
「やはり勇者さまだ」
「勇者さま? あの御方が?」
「勇者さまには我が領地を救って頂いたのだ」
ナツと目があった男が興奮したように、回りの者達に言う。
「勇者さま、オーコールを覚えておられますか? 砦を魔物に襲撃されそうになってもう終わりかと思ったときに、あなたさまが仲間の方と通りかかって助けてくださった」
その男は感極まったように頭を下げて来た。
「あの時はありがとうございました」
さすがはナツ。驕りぶらないところが素敵だわ。謙虚な性格が皆に慕われているのをわたしは良く知っている。
ナツはその男に言われるまで、自分がした功績を忘れていたらしい。ナツらしいわね。
「ナツヒコどの。貴殿には辺境伯が御世話になったようだな。その貴殿に何かお礼をしたいと思うのだが、望みのものを取らせよう。何を望む?」
「ではヌッティア国の王女アロアナ姫の名誉回復と、そこにいるアロアナ姫の偽者の身柄をお渡し頂きたい」
「ここにいるアロアナ姫が偽者だというのか? 勇者どの」
「はい。お騒がせして申し訳ありませんが、真っ赤な偽者ですね」
ナツ有難う。オウロの腕の中で感激していると、カウイさまや、シャル、ガイムにファラルを始めとして皆が驚いていた。
「おいおい、何を言うんだ? ナツ」
と、ガイムは振られた腹いせに偽者扱いかよ。と、呟いた。そんなこと、わたしのナツがするわけないでしょう。
「何を言うの? ナツヒコ。わたしはアロアナよ。あなたを裏切ったことは申し訳なかったと思うわ。でも、あのマニス殿下を好きになってしまったの。許して」
わたしの偽者はまだ自分が本物だと突き通すつもりらしい。でもナツには通用しなかった。当然よね、わたしが側にいるんだから。
「わざとらしいんだよ。可憐ぶった演技はいらない。おまえはアロアナじゃない。アロアナに上手く化けたつもりのようだが、俺には天と地ほどの大きな違いにしか思えないぜ。魔女さんよ」
「あら。さすがは勇者さまね。あなたの目を誤魔化すことは出来なかったみたいね。残念だわ。フフフ」
「魔女? 嘘だろ?」
「魔王と共に倒したはずじゃ……?」
ガイムやファラルが、ナツの発言を聞いてハッとした顔をした。わたしも自分に呪いをかけるぐらいだから唯の人間とは思わなかったけど、魔女だったとはね。意外……と、言いたいところだけど、やっぱりね。と、この状況に納得する自分もいた。
ナツが偽アロアナを睨み付ける。彼女はほくそ笑んで妖艶な美女の姿へと切り替わった。深淵の闇のような黒髪と、白い肌。そしてその肌に映える様な朱色のドレスの腰から下に深く入ったスリットが艶かしさを現わしている。
あの日の再来を思わせるような女がそこにいた。
魔王の側にいた女は少しも変わりがなかった。あの時から十年も時が過ぎているというのに嫌らしいほど、色気があった。
皆はわたしだと思っていた女性が本性を露にした事で驚いていた。元宰相と、現宰相の指示で皆、この場からの退出を余儀なくされた。わたしはこの場に残りたかったけど、シャルに抱かれてままならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます