第43話・ナツともう別れたくない
先ほども女官がきっちりドアを閉めてないのを幸いと見て、部屋から抜け出したのだけどすぐに見つかってしまうし、今回はきっちりドアが閉められているから逃げ出しようがない。
人の身だったならなんなく開いたはずのドア。それを押してもカリカリと爪がひっかくだけに終わってしまう。
(どうしよう。これではナツに会えない)
部屋の中をうろうろしていたら「アロアナ姫が出奔? 婚約破棄?」と、壁越しにあの人の声が聞こえて来た。酷く落胆したような声だ。
「違う。ナツ。わたしはここにいる! あれは偽者なの。わたしに成りすました誰かなの」
ここから叫んでも鳴き声にしかならない。ああ、どうしよう。なんてもどかしいのっ。
わたしの慌てる心を落ち着かせるように、風が横をすり抜けていく。風の通り道が出来ている? 振り返ったら窓際のカーテンが揺れているのが見えた。確かこの部屋と謁見室はバルコニーで繫がっていたはずだわ。
バルコニーへと繫がる窓は、少しだけ開いていた。そこから抜け出すとまっすぐ目的の場所へ向かった。ナツ、ナツ!
窓から忍び込んだ謁見室。わたしは足を忍ばせて王座の後ろに隠れた。誰も私には気が付いていないようで、彼をゆっくり観察する事が出来た。
(ナツ!)
久しぶりに見たナツはもともと端整な顔立ちをしていて凛々しい若者だったけど、さらに男ぶりが上がったような気がする。彼の姿を見てわたしの心は高鳴った。わたしの愛するこの人が魔王を倒して帰って来た。そう思うだけで心にジワリとした、説明のつかない熱のようなものが込み上げてくる。
「姫の後を追う。姫を取り戻してくる」
「無駄です。ナツヒコ。姫はあなたより相手の男を選んだのですよ?」
「分かっている。でも捨てて置けない。姫の一生に係わる事だ。王さまとこのまま二度と会えなくなってしまったなら……。俺の二の舞はもう御免だ」
謁見室では皆が神妙な顔をしていた。ナツの発言に何も言えなくなっているのだ。彼に無理強いさせているのはわたし達だってことを良く知っているから。
ナツはお人よしだ。わたしの偽者が本物だと思い込んでいる彼は、偽アロアナが妊娠していると聞いて責めるどころか迎えに行くとまで言い出した。オウロ達が顔を顰めているのは当然だ。
(あなたって人は……)
でもそんなあなただからわたしは惹かれたの。人によってはそんな所が甘いと指摘するかも知れないけど、そこがあなたの良さだと思うから。
オウロがナツの説得を諦めて詠唱を始めた。転移術が展開される!
(ナツが行っちゃう。そんなのやだ! ナツともう離れたくない)
そう思ったら駆け出していた。
「ナツ?!」
「え?」
「なっ?」
皆の奇声を背にしてわたしは転移術の輪の中に飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます