第41話・俺の切実な願いはまだ叶えられそうにない
先月、実は俺はアロアナと結婚したのだ。アロアナとの挙式は彼女の希望を取り入れて密かに行われたので、参列者はアロアナの親父さんで先代の王さまに、宰相、ガイムにファラル、オウロと領主館の使用人達のみ。一国の王女としては慎ましやかな式となったけれど、今はこの領地内にある神殿長となったファラルに寿いでもらって夜中に式を挙げた。
とても素敵な満月の夜だった。俺の望みはまだ果たされていないけど。
「そんな……!」
「おい、シャル」
シャルは何度も諦め切れないように、俺の左手の薬指を見てその場に崩れ落ちた。その彼女をガイムが受け止める。
「ナツ。済まない。シャルにはオレが説明するから」
「……ナツさま。チョコちゃんとお揃いのリングなのですね?」
シャルは勘の鋭い子だ。俺とチョコの首から下がっているリングがお揃いだと一目で気がついた。
「アロアナ姫は魔女でしたけど、本物のアロアナ姫はひょっとして……?」
「ごめん。今まで隠してきたけど、チョコはアロアナなんだ。魔女が彼女の振りをして色々やらかしてくれたけど、彼女は猫の姿となっても俺の側にいてくれたんだ。そんな彼女を俺は裏切る事はできないよ。きみの気持ちは嬉しいけれど」
「そうでしたの。とても敵いませんわね。ナツさまとチョコちゃんはずっと互いを思いやってきたのですね」
俺の告白に、シャルはなんとも言えないような顔をしていた。
「……分かりましたわ。わたくしはお二人のとんだお邪魔虫でしたのね。恥ずかしい」
「シャル」
深く息を吐いてからシャルが納得したように言う。その彼女の肩をガイムが優しく抱いていた。
「お兄さま。今夜はわたくしに付き合って下さる? 今夜は思い切り飲み明かしたい気分ですわ」
「何言っているんだ? シャル。おまえはまだ未成年だろうが。お酒は早いから果実水でな」
「はあい」
シャルは十六歳の少女らしい笑顔を見せて俺はホッとした。自分が振る立場となったとはいえ、可愛い子はなるべく泣かせたくないから。
仲良く肩を組んで馬車の方へと歩き出した従兄妹を見送って、俺はチョコを抱きしめた。
「さあ、行くか? チョコ」
「ニャアン」
最愛の女性と結婚したのにまだ童貞続行中の俺。現在二十九歳。魔女との戦いが済んだ後、アロアナの呪いを解くには、彼女を抱けばいいとオウロに教えられたのに、残念ながらまだ実行出来ていない。
なぜかって? すぐに横槍が入ったんだよ。魔女を倒したことをファラルが中央神殿に報告したら、偽アロアナの行動で聖女の加護が失せたと落ち込んでいたらしいお偉いさん(大神官)が、事の真相を知って大喜び。
実は当代聖女の力が失われると、次代の聖女が現れるはずなのにその傾向がなく、そわそわしていたらしい。
神の許しなく聖女が処女を失うと、国に災いが起こると信じられているからね。
当人は魔女の呪いで猫に姿を替えられていたと知り、ファラルに保護を命じて来た。でも先手を打って挙式を決行した為、神殿側は渋々それを認め、その代わり保険として次代の聖女が見つかるまでは、アロアナの聖なる力が失せるようなことはしないようにと、ファラルをお目付け役に宛がってきた。
ファラルには神殿側と俺らとの板ばさみで辛い思いをしてるかと思ったら、わりとけろりとしていた。立場上、お目付け役だけど、チョコの遊び相手となって楽しんでるようだ。
おかげさまでアロアナとは一応、清い仲。ちょっとだけグレーゾーン入っているけど仕方ないだろう。新婚夫婦なんだから。盛り上がっちゃっていいとこまで進んじゃうのはさ。
ただ、夜の生活は寸止め状態だからキツイのなんのって。早く次代の聖女さま現れてほしい。心から願う。カモン! 次代さま。
次代の聖女さまが現れるのが先か、俺が魔法使いになるのが先かどうか分からないけど。
このままじゃ、オウロの弟子まっしぐらだろ俺。オウロは魔術師だけど経験ありなんだよ。キィー、悔しい。オウロは若い頃からモテにモテたらしくてさ、若い頃は相当、ブイブイ言わせていたらしい。
魔法使いまでは後一年。焦る俺の切実なる願いは現状では当分、叶えられそうにない?!
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