第39話・戦いは終わった


「お腹の子は……魔王? あなたは死んだ魔王の魂を……その身に?」

「魔導師の目は誤魔化せなかったか。そうよ。妾のお腹にはあのお方の命が根付いている」

「「「……!」」」


 嘘だろう。本人も子供が出来ないと言っていたのに? どんな技を用いたんだ? 魔王の魂をお腹に宿すとは? 普通に妊娠したわけじゃないよな?


「あの憎き女に出来る事が、妾に出来ないはずはない。魔王さまの魂は昇天する前に妾が掬い出した。その御霊をあの男の中に降ろし、妾と交わった結果、妊娠した。あの男は子供が産まれた後にその体を食わせてやろうと思ったが、その必要もなさそうだな。ちょうど良い餌がここに四匹もいる」

「おまえはメス蟷螂か。そんな最後はご免だな。俺達は食べても美味しくないぞ。口に入れたが最後、お腹の魔王がびっくりして昇天してしまうんじゃないか?」

「誰がカマキリだ。きさまらの結末は見えておる。安心して行け!」


 魔女が手を振り上げると、再び炎の玉が飛んで来た。俺は悔やんだ。前回、この魔女に情けなんかかけるんじゃなかった。自分の甘えがこのような無駄な戦いを生んでしまった。


「魔女っ。今度は容赦しないからなっ」

「笑止!」


 聖剣を振り落とすと、剣から放たれた波動が一直線に魔女へと向かう。今度は迷わなかった。女だからって手加減はしない。魔女の命はもらう!


「ぎゃっ。ぐっ……!」


 魔女が波動を食らい、その場に足止めとなったところにガイムや、ファラルが切りつけ、最後に俺が心臓を突いた。深く、深くもう二度と蘇る事のないように。これで最期だ。魔女、あばよ。


「ぐああ……!」


 聖剣は魔女の心臓の奥深く突き刺さる。聖剣を引き抜くと、魔女はその場に背から倒れて行った。仰向けの状態で動かなくなった。


「やったな。リーダー」

「これで終わったね。ナツ」


 ガイムとファラルが喜びの声を上げたが、問題が一つあった。俺はオウロと顔を見合わせる。


「お腹の魔王をさてどうするかだな? どうする? オウロ」


 オウロがしゃがみこんで魔女のお腹に手を翳している横に並ぶと、やっぱりと彼は呟いた。


「魔女は妊娠してません。お腹は空です」

「妊娠していない? じゃあ何でお腹膨れているの?」

「詰め物でも入れていたんじゃないか?」


 オウロの診断にファラルがそんなことあるの? と、驚き、ガイムは妊娠に見せかけていたんじゃないかと言った。


「恐らくこれは想像妊娠じゃないか? 俺のもといた世界では稀にあったことだ。俺もあまり良く知らないけど、女性が実際には妊娠していないのに、妊娠しているような精神や体がそのような状況になるらしい」

「そうですか。一般的に魔女は妊娠しないので変だとは思っていたのです。この魔女の言うとおり魔術で何とか出来ないこともないですが」


 それほどまで魔女は、魔王を喪ったことを認めたくなかったんだろうか? 魔王を喪った時に彼女の精神状態は壊れてしまったに違いない。魔女はもう死んだようなものだったのだろう。自分の腹に宿って生きているって信じる事で生き延びていたとしたら哀れだ。

 とにかく魔女を討ち果たし、俺達の戦いはこれで終わった。

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