第38話・魔王がアロアナ姫に目をつけなければ
「魔王さまはアロアナ姫を望み、自分の配偶者にする為に妾を遠ざけようとした」
「魔王がアロアナに目をつけたのは、彼女の持つ力が厄介だからだろう?」
魔女はアロアナに嫉妬でもしているようだった。その魔女の言葉を聞いて呆れたようにオウロが言う。
「当たり前でしょう。魔王にとって魔を払う聖なる力を持った姫は脅威。ならば彼女を我が物にしてしまえばいい。あなたを遠ざけたのは姫の聖なる力であなたの持つ力が払われてしまうことを恐れてだと、魔王の側近であるあなたは気がつきませんでしたか?」
「そんなのは建前だ。魔王さまは配偶者を今まで立ててこなかった。それなのに……。姫に後継者を産んでもらうつもりだったに違いない。妾では妊娠出来ないから……!」
魔女の攻撃の手は止まることがなかった。妊娠しているのが嘘のような動きで振り回される。炎の玉が見境なく繰り出されるので、俺達はそれを剣や、聖杖などで打ち落としながら、魔女の側に近づこうとした。
この空間は何重にも張り巡らされているとはいっても、魔女の放った炎の玉を打ち払ったことで、それが方々に当たりミシミシと音を立てる。ヒビがはいったようだ。これが大きくなると結界が破れてしまうのは時間の問題だ。
どうしたものかと思う俺の前で、魔女がたびたびお腹の辺りに手を当てるのが目に付いた。お腹は膨らみを持っていた。魔女は妊娠出来ないと言っていたのにこの矛盾した態度はどうだろう?
それと魔王の成り立ちについても聞かされていた事と、異なる気がする。魔王は基本、後継者を作らない。なぜならば後継者が産まれるということは自分の消滅を意味するから。
気になって仕方なかった。
「そのお腹の子はマニス殿下の子か?」
「……妾の子だ」
言いよどむ魔女の態度から、何かを隠しているようにもみえる。
「きさまらが現れなければこのまま国を乗っ取り、我が子をこの国の王に君臨させ、近隣の国に戦いを起こし、この地上を我が子のもと掌握させようとしていたのに……」
「無理だよ。マニス殿下は第二王子だし、すぐには王にはなれない」
ファラルが口を挟むと、そんな些細なことどのようにでもなると魔女は言い切った。
「人間は脆弱なものだ。いつ、いかなる事情で亡くなったとしても、不思議はあるまい?」
つまりは毒薬か、暗殺する気でいたということか。自分の子をいくら王にする為とはいえ、魔女とはこうも卑劣になれるものか?
「じゃあ、あんたの計画では、次代の王はマニス殿下になる予定だったというわけか? 死んだ魔王も浮かばれないな」
俺には目の前の魔女が、魔王の死に際、自分も深い傷を負いながらも、張って事切れた魔王の側に行こうとする女の姿とはどうしても思えなかった。
完璧に思われた魔王も、魔女がガイムに切られたのを見て隙が出たのだ。その隙がなかったのなら俺達は皆、生きてこの場にいなかった。それだけは言える。その隙をついて魔王を倒した俺だから言える事だが、魔王も最期まで付き添っていた魔女の事を特別に思っていたのは確かだった。
俺の言葉に、魔女は叫んだ。
「ふざけるなっ。あんな狭量な人間を王にたてるだと? そんな無駄なことを妾がするものか」
その言葉でオウロは気がついたらしい。彼にしては珍しくも落ち着きをなくした声で問いかけていた。
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