第37話・偽アロアナの正体


「わざとらしいんだよ。可憐ぶった演技はいらない。おまえはアロアナじゃない。アロアナに上手く化けたつもりのようだが、俺には天と地ほどの大きな違いにしか思えないぜ。魔女さんよ」

「あら。さすがは勇者さまね。あなたの目を誤魔化すことは出来なかったみたいね。残念だわ。フフフ」

「魔女? 嘘だろ?」

「魔王と共に倒したはずじゃ……?」


 ガイムやファラルが、俺の発言を聞いて信じられないような顔をする。俺も信じたくはなかったさ。今のはカマをかけたつもりだったから。

 偽アロアナを睨み付けていると、彼女はほくそ笑んで清楚な女性の姿から、妖艶な美女の姿へと切り替わった。炎のように真っ赤な髪と、白い肌。そしてその肌に映える様な朱色のドレスの腰から下に深く入ったスリットが艶かしさを現わしている。そうだよ。あんたみたいな女は、その姿が一番似合っている。ぬかるんだ闇の中で咲き誇る花のような。悪の親玉の女が一番似合う。


 皆はアロアナ姫だと思っていた人物が、別人へと姿を変えた事で驚いていた。この時点で危ういものを感じたのだろう。元宰相と、現宰相はこの場の危険を感じたのか、手分けして王さま一家や、他の貴族達の退出を促がしていた。シャルも促がされて退出して行った。宰相達のその判断があり難かった。

 これで遠慮なく魔女と向き合える。


「ドーラ。おまえは何しに現れたんだ?」

「おまえのせいだ。勇者。おまえが下手に情けをかけたせいで、妾は生き残ってしまった。妾は魔王さまと共にありたかったのに……」


 ドーラは悲しそうに言うと、掌に炎の玉を取り出した。やべっ。パーティーで帯剣を許されなかったから聖剣手元に無い。と、思ったら脇からすかさず差し出される。オウロが空間ボックスで預かってくれていたようだ。サンキュー。

 他の皆もガイムは剣を、ファラルは聖杖を手にしていて、オウロも呪文を唱えていた。何重にも結界が張られていくのを感じる。強固な結界が張られた中で俺達は魔女と向きあった。


「どうしてアロアナに化けていたんだ?」

「おまえに復讐する為だ。おまえの愛する者の姿を奪い、愛する者の姿で不貞を働けばおまえのことだ、かなり堪えると思ってな」


 魔女の狙いは間違っていない。か・な・り・堪えたさ。でも、魔女の答えは俺にとっては腑に落ちなかった。魔王のあだ討ちにしては、見当違いのような気もする。


「それならアロアナの命を奪えば良かったんじゃないのか? おまえから俺が魔王を奪ったみたいに」

「……殺してしまうだなんて甘い。それでは簡単に終わってしまうではないか」


 魔女は俺に向けてそう言いながらも、この場にはいない者を思って言っているかのようだった。


「長いことその存在に煩わされてきたのだ。そんな一瞬でケリがつくような真似など出来るものかっ」

「それでアロアナを呪ったのか? なぜだ?」


 俺は偽アロアナの正体に検討をつけた時に、アロアナ本人を呪ったのは魔女だろうと思っていた。


「魔王さまが気にかけた女だからだ」


 容赦なく魔女が掌から生み出した炎の玉が、幾つもこちらに向けて飛んでくる。それには魔女の怒りが込められているようで、かすっただけでもひりつく様な痛みを感じた。

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