第36話・褒美は偽アロアナの身柄をお渡し頂きたい


「マニス。おまえにはガッカリした。シャルロッテ嬢を貶めて、ハートフォード家の乗っ取りを企んでいたとはな。ハートフォード家の役割を知らなかったわけではあるまいに。これを捕らえよ。牢へ入れておけ」

「はっ」

「離せっ。父上、話を聞いてください。これは何かの誤解なのです。どうか、お願いです」


 速やかに殿下は近衛兵に回収されて、会場から退場させられた。アロアナ姫にも近衛兵が近付き拘束した。


「さあて、そこのアロアナ姫についてだが」


 陛下がじろりと偽アロアナを見る。カウイはお待ち下さい。と、声をかけた。


「陛下。その者に関してはこちらの者が詳しいかと思います。ナツヒコどの。これへ」

「ナツヒコ?」


 陛下が首を傾げると、周囲からは「勇者さまでは?」と、声があがった。声がした方に顔を向けると、どこかで見たような顔と目があった。


「やはり勇者さまだ」

「勇者さま? あの御方が?」

「勇者さまには我が領地を救って頂いたのだ」


 俺と目があった男が興奮したように、回りの者達に言う。


「勇者さま、オーコールを覚えておられますか? 砦を魔物に襲撃されそうになってもう終わりかと思ったときに、あなたさまが仲間の方と通りかかって助けてくださった」


 その男は感極まったように頭を下げて来た。


「あの時はありがとうございました」


 その言葉に俺は思いだした。確か、サーザン国の国境沿いの町、オーコールに来た時に、魔物の集団を見つけてオウロ達と退治したことがあったのだ。この男は、その時の領主だったらしい。

 言われるまですっかりその事を忘れていた。


「ナツヒコどの。貴殿には辺境伯が御世話になったようだな。その貴殿に何かお礼をしたいと思うのだが、望みのものを取らせよう。何を望む?」

「ではヌッティア国の王女アロアナ姫の名誉回復と、そこにいるアロアナ姫の偽者の身柄をお渡し頂きたい」

「ここにいるアロアナ姫が偽者だというのか? 勇者どの」

「はい。お騒がせして申し訳ありませんが、真っ赤な偽者ですね」


 俺の発言にカウイ爺さんや、シャル、ガイムにファラルを始めとして皆が驚く。


「おいおい、何を言うんだ? ナツ」


 と、ガイムは振られた腹いせに偽者扱いかよ。と、呟いた。そんなんじゃねぇ。あんな女にこうしている時間だってアロアナを名乗らせたくはないのに。


「何を言うの? ナツヒコ。わたしはアロアナよ。あなたを裏切ったことは申し訳なかったと思うわ。でも、あのマニス殿下を好きになってしまったの。許して」


 偽者アロアナはまだ自分が本物だと突き通すつもりらしい。でも俺はチョコの正体がアロアナだと知っているだけに、彼女の行動は鼻に付いた。

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