第31話・いよいよ決戦の日


 宮殿について練習の成果を試される時が来た。俺はびしりと背筋良く立ち、シャルのエスコートをする。魔王討伐の最中にも幾つかの城に立ち寄ったことがあるから他人の目には慣れていると思っていたけれど、パーティー会場へ足を踏み入れた時、シャンデリアが幾つも天井から下げられた明かりが目にも眩しく緊張を強いられた。

 そこには美しく着飾る人々がいて、こちらに目を向けてくる人もいるが全く気がつかれていない。それというのもオウロが俺達に姿が消える魔法をかけたからだ。

俺達は透明人間状態でこのパーティーに入り込んだ。ここに到着する前までは普通に表から堂々と登場する予定だったのに、オウロが急遽、このような案を打ち出してきた。


「王子側はシャルロッテ嬢が失踪したと公表しているのですから、死んだものと思っているかもしれません。そこへ本人が現れたら騒ぎになります。下手すると門前払いされて終わりかも知れません」


 オウロは自分達がパーティーに集まっている人々の前で、王子の仕出かしたことを洗いざらいぶちまける前に、退出を余儀なくされたら意味がないと言った。

今夜のパーティーでは、マニス王子が新しい婚約者をお披露目すると情報を得ている。王子の計画としては、婚約していたハートフォード家のシャルロッテが失踪したので、その彼女とは婚姻破棄し、新たにその代わりとなる婚約者と婚約を交わしたと表明する気でいるはず。

 彼の後見先はハートフォード家で、宰相であるカウイは失脚し、彼に代わって娘婿がその座に着いている。


 俺は、シャルから前に聞いた話とカウイの現状から、王子とシャルの親父さんは結びついているんじゃないかと思っている。現役バリバリの爺さんがいつまでも要職にしがみ付いていたら自分の出番が来なくて面白くなく思っていたんだろうし、王子としては将来、ハートファード家に婿入りすることは決まっていたのだから、そこに惚れた女、俺が思うに偽アロアナを養女とすることで、宰相にしてやろうとかなんとかいい含めたんじゃないのか? ケッ。権力者の嫌な部分だよな。そこ行くとアロアナの父であるヌッティア国の王さまは良い人だったと思う。


 周囲が騒がしくなってきた。そろそろ王族一家が顔を出すらしい。パーティー会場の正面にやや高くなった所に設けられた場所に王族一家が腰を下ろすために用意されている。空席が六席。それには国王夫妻、昨年ご結婚された王太子夫妻。そして今日のパーティーのメインとなる第二王子らが座る予定なのだろう。


 俺はどきどきと待ち続けた。エスコートしているシャルの手が震えている。大丈夫だよ。と、いう意味で強く握り締めれば、横にいた彼女が頷いた。


「国王さまご一家、入場!」


 伝達の係りの者の号令で、皆が一斉に正面を見た。人目で王さまと思われる豪奢な衣装に金の冠を頭に乗せた年配の王さまをはじめ、ぞろぞろとその後に品の良さそうではあるけれど気位の高そうな中年女性、色白で荒事とは無縁そうなひょろりとした姿勢の王太子に、綺麗でありながら目つきの鋭そうな王太子妃が、順番に席に着く。

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